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85話 再会

 スグルは祭りのときのようなうるさくともどこか心地の良い騒がしさで目を覚ました。

 宴の準備があるとのことだったので初日とは違う場所に設けられた藁束の寝所から顔を村の中心部へと向けると、やはり酒盛りをしているのだろうか。顔を真赤にした中年の男や、それを呆れたように笑いながら眺めるその男の妻だろうか、ともかく村ではこの現状からの脱却ができるかもしれないという期待感からだろうか。浮かれた空気が充満していた。

 しかし、色々なことがあり、そんな浮かれた空気に馴染めないスグルはもう少し寝たふりをして時間を潰そうと開いた目を再び閉じようとする。しかし、そんなスグルの行動を邪魔するように声がかけられた。


「次期領主が内定しているのに狸寝入りですか」


 スグルのすぐ耳元で囁くように言ったのはリリーだった。


「僕は、そんなこと望んだんじゃないし、今はそんな気分になれないよ」


 スグルは頑なに目を閉じたままそう答えるとリリーはそうですねと答えると続けた。


「そうは言っても、この喧騒じゃ眠れないですよね。私がスグルの耳元で一緒にいますよ」


「……ありがとう」


 今のスグルには隣に彼女がいてくれるだけでも心が安らぐように感じた。その事実に思わずスグルが頬を赤らめると、リリーはいたずらが成功したような少女の笑みを浮かべる。最も目を閉じているスグルにはその可憐な表情は見えないのだが。


「例えばの話ですが、こうやって、はじめに出会っていたのが私だったらスグルは私の気持ちに答えてくれましたか?」


 リリーの唐突な言葉にスグルは思わず目を開けてリリーの目を見た。


「えっ、っと」


「広場から私を送ってくれたとき、私を右肩に乗せましたよね。左肩のほうが近かったのに」


「それは……」


 それはスグルにも無意識だったのかもしれない。右腕をなくすまえのルルは必ず左肩に乗っていた。そして左肩にはフィンやベン、そしてギルなんかを乗せて……。


「分かりますよ、無意識にも右肩は()()()()()()になっていたんですよね」


「うん」


「もう、凄いですよ。だって右腕ですよ。私にはそんなことができるか分かりませんわ」


「……そうだね」


「だから……そんな彼女はこれから離しちゃいけませんよ」


 スグルが質問の返事をする前にリリーは振り切ったように言う。その顔は可憐な笑みを浮かべていたがどこか痛々しくて、思わずスグルが声をかけようとすると、リリーは頭を振りながら続ける。


「その先は言わないでください」


 スグルが思わずうなずくとリリーは満足したようにうなずく、そこには先程までの痛々しさはなくて、リリーは言う。


「どうでしょう。ルル様の子供の名前を予想してみるというのは?」


 リリーがそんなことを言うもんだから、スグルは叫ぶように言う。


「そんなことしないよ!」




 そんな風に、スグルらがとりとめのない話をしながら時間を潰していると、どうも村に訪問者が来たようで、スグルが来たときも門番をしていた青年が村の中心までやってくると、訪問者の名前や容姿を族長とチャールズに伝えた。


「はい、赤髪の少女とお付きの騎士のようです。リトリア貴族を名乗っており、ルル・アルデンヌと名乗っていました」


 それは、馬できたとしてもスグルが逃げ出してから相当早く出発していなければ到着できないはずの人物であった。身内に裏切り者がでて、それでもルルは今ここに到着していた。

 スグルはすぐに立ち上がると門の方に走り出した。


「全く、本当に勝てませんわ」


 そんなリリーの声を背中に受けながらもスグルは息を切らしながら門まで走ると、まだ閉ざされたままの門の上から顔を出して眼下に見えるその赤髪を見る。


「あら、全てを投げ出して逃げたわりには元気そうな顔をしているわね」


 ルルはくまで黒くなった目を上へ向けながらそんな言葉を投げかける。しかし、言葉の割にはその顔は安心で緩んでいて、安心の気持ちがにじみ出て、目尻にはじわじわと涙が溢れていて。


「スグル! 君って最低だよ! なんで逃げるんだよ! 君が守るんじゃなかったのかい? 僕はスグルの味方でいるつもりだった! なのにルル様を放っといて、ギルとの約束じゃなかったのかい?」


 隣にいる青年は、スグルのもうひとりの親友は、親友だからこそキツイ言葉を投げかけてきて。

 そんなフィンにルルはもう、あふれる涙を気にもせず、流しながら言う。


「もういいの。フィン。スグルが生きてて、良かった。思いつめた顔をしていたから、もう会えないかもしれないってそう思えてきて、私……」


 ルルの言葉にスグルはなんと言ったらいいのか分からず。ただうなずく。


「うん、ごめんルル。僕、ギルと約束したのに、君を一緒に守るってなのに」


 スグルはそこでしゃくりあげると。


「僕もギルも約束を守れないなんて最低だ。()()()()()()()んじゃなかったのかよって感じだよ」


 そこに再び揃った主従3人はただ、今はいないもうひとりのために今は涙を流した。


多分あと10話以内に完結させます!させたい!させられるかも!

がんばります……。

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