7話 チビッコ部下
朝のトイレ騒動からしばらく後、宿で留守番をさせられていたスグルの元には多くの野次馬が現れていた。当然といえば当然だろう、巨人なんて珍しいどころかおとぎ話の中のような存在なのだから。
「ほら、肩に乗るか?」
スグルは宿の中庭で街の子供達の相手をして暇を潰していた。こういったことの積み重ねで信用ができていざとなったら助かると思うのもあるが、単にチッコイ子供たちが可愛いせいでもある。
「巨人のにいちゃん! 俺、頭の上がいい!」
スグルはチビどものリーダー格っぽい少年がせがむので自分の頭に乗せた。
すると、調子にのった少年はスグルの髪の毛を引っ張り始めた。
「おい! 髪の毛引っ張るならいくら温厚な僕でも振り落とすぞ」
全く、調子に乗りすぎだ。と言いながらもなんだかんだ子供に甘いスグルは次から次へと子どもたちを肩やら頭やらに乗せて遊んだ。
「あれ?」
しばらくするとスグルは隅でもじもじしている女の子を見つけた。恥ずかしがり屋なのだろうか、スグルは声をかけようと近づいていった。
「んん!」
すると、女の子はビクっとして涙目になり始めた。スグルは泣かせないようにと慌てると、女の子の方へ手を伸ばした。するとついに女の子は泣き出してしまった。
「な、泣かないで!」
すると肩の上の子供らがスグルの小学生時代のトラウマをえぐり始めた。
「いっけないんだ! いっけないんだ! フェリスをなーかーした!」
のー! 小学生時代に手をつないだだけで同級生の女の子に泣かれたあの苦い思い出が! かむばっくするよ!
スグルはどうしようと頭を必死に働かせた。するとさっきのリーダー格の少年、たしかベンだったか、が女の子に近づき慰めた。
「ほら、にいちゃんをこうやって蹴っ飛ばしてもこの巨人のにいちゃん怒らないぜ!」
そう言って、ベンはスグルのことを蹴った。あんまり痛くないけれども多分本気で。
スグルは内心、このクソガキと思いながらも女の子を泣き止ませるために我慢した。しかしだめだった。
「にいちゃんが巨人のおにいちゃん蹴ったーー!! こわいーーー!!」
そこでスグルも切れた。
「妹も泣き止ませられねえのかのこクソガキ!」
それが止めだった。
「巨人のおにいちゃんが怒った! えーーーーん」
しばらく、子どもたちとスグルは協力してフェリスを泣き止ませようとした。
しばらくして……。
「まったく、帰ってみれば女の子泣かせて私の騎士ならしっかりしてよね」
スグルは帰ってきてすぐに見事フェリスを泣き止ませたルルに叱られていた。
「はい」
ルルははあとため息をつくと言った。
「とりあえず、出発の準備は整ったわ」
するとルルは壮年の男の人を見て言った。
「屋敷の管理を任せることになるマルクさんよ」
「マルクです、よろしくおねがいします。ピレネーの屋敷まで案内しますね」
年は40半ばくらいだろう、ガッチリした胸板に茶髪の似合う人だ。
「あれ? ベンにフェリス こんなところでどうしたんだ?」
スグルが家族? と思っているとマルクが紹介した。
「こちら私の息子のベンと娘のフェリスです。妻は出産で亡くなったので私一人で育てています。ほらふたりとも今度からお世話になる主人さまだ、挨拶しなさい」
そう言われて、ベンは先程のスグルへの態度を思い出したのだろう。顔が真っ青になった。フェリスはルルにスグルが怖い巨人じゃないと教えられたのだろう。ゆっくりと挨拶した。
「フェリスです。よろしくおねがいします」
うむ、短くまとめた明るめの茶髪が巻毛っぽくなってて可愛い。妹にしたい。とスグルは思った。
「よろしくおねがいね。こっちがギルで私のお付き騎士、それでこの巨人がスグルで私のお抱え騎士、それでこちらがリトリア王国騎士団所属で今は私のお付きになってるフィンよ」
ルルが紹介を終えるとベンがスグルをちらりと見た。スグルはちょっと意地悪な顔になって口パクで言った。
「”ぼ”く”の”と”こ”ろ”で”は”た”ら”い”た”ら”み”の”が”し”て”あ”げ”る”」
スグルが言い終わってニマッとするとベンは激しくうなずいた。
その様子にルルは怪訝な顔になったがスグルは微笑んで流した。
「俺はベンです。これからよろしくおねがいします」
濃い茶髪の将来のイケメンの鱗片をのぞかせているベンに社会というものを教えてやろう。決してかっこよくなりそうなのを妬んだわけではない。
ともあれ、こうしてスグルはチビッコ部下を手に入れたのだった。
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そして、王都を発てませんでした! だいたい一話2500字にしようと思っているので、1700字の微妙なことろで領地まで行くのはちょっと厳しい。次こそ領地に向かいます。たぶん……。