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78話 裏切りの騎士3

「急がないと……」


 馬車との連結を切り離してローランを振り切ったギルであったが、油断はできない状況であった。ローランがギルの裏切りを本陣に伝えに行くにしても、馬を落ち着かせ再びギルを追うにしても、もともと2頭引きの馬車であった馬車を一頭で引いているギルにとっては余裕はなかった。


 ギルはリトリア軍右翼と、ベルデ軍左翼の中間地点、この強力な爆弾が炸裂しても両軍に被害がでない地点に到達すると、すぐに爆弾のタイマーをセットした。


「10分か」


 10分、それは自陣に戻る時間を考慮して設定された時間であった。ベルデ軍が万が一爆弾を察知して、解除を試みようとも足りず、起動させたものが自陣に戻る場合には数分の余裕がある。


「もし、ローランが私をすぐさま追いかけていた場合、爆弾のタイマーはリセットされるか、もしくは、そのままベルデ軍の方向に移動させられる恐れがあるか」


 ギルは考えを巡らせると、これしかないか。とつぶやくと、馬車の車輪を丁寧に壊したのちに、再びリトリア軍の方へと向かっていった。




「なんですって!?」


 ネイサンと爆弾の対処を懸命に考えていたルルは、ギルが爆弾の運搬に立候補したという報をきいてそう驚愕の声をあげた。


「それってギル、もしかして」


 そして次にはギルのやろうとしていることに気づくと、その顔を蒼白にする。


「ルル様、万が一、今私達が考えていることが現実だった場合、彼の覚悟を無駄にしないためにも非情な決断が必要です」


 ルルよりも経験豊富なネイサンは考えを巡らせるうちに口にはださないもののその解決方法を考えついていたのだろうか、冷静な口調でそう述べた。


「ギルは生きます」


 ルルは自分に言い聞かせるようにそう呟いた。




 数分後、ルルにはギルの裏切りの報と、それを示すかのように、慌ただしくなるリトリア軍の様子が伝わった。



 ギルの裏切りの報が届いた本陣はすぐに行動を起こした、部下に裏切りが発生したルルのもとへすぐに身柄を抑えるために近衛の兵が遣わされた。


「そもそもの爆弾の製造に関わっていたことから、ルル様の潔白はほとんど証明されたようなものですが、その、状況が状況ですので」


 近衛の兵はそういって気まずそうにルルの前に立つ。


「ええ」


 そしてそうとだけ答えるルルの蒼白な顔をみたその近衛兵は表情をさらに曇らせる。


「ギルを説得させてはもらえないでしょうか?」


 ルルがそう言うと、近衛兵は困ったように頭を振る。


「申し訳ありません。私にはそれを判断する権限はございません」


 そう断られてもルルはさらに尋ねる。


「では、ヴィルヘルム様に言伝をお願いできませんか?」


 ルルの悲痛な声音に近衛兵は一瞬、迷うような素振りを見せるも


「それもできません。二名での行動を言い渡されたため、本陣にいくことは叶いません」


「そんな……」


 ルルが言葉を失うと、傍らにいるネイサンが口を開いた。


「行動が制限されているのがルル殿だけならば私はここを離れてもよろしいか?」


 ネイサンが尋ねると、近衛兵はうなずく。


「ネイサン様は大丈夫でございます」


 ネイサンはその言葉を受けると、すぐさまルルにうなずくと、陣を出ようとする。

 と、そこに入れ替わるようにヴィルヘルム本人が現れる。


「ルル殿、説得は厳しいでしょう」


 ルルの正面に立ったヴィルヘルムはルルが言いたいとこが分かっているというようにそう言った。


「既に、爆弾は起動した模様、もう、いまさらリトリアの工作員が向かったところで爆弾は解除できないだろう。それに裏切ったギルはもうリトリアで過ごすのは厳しい」


 忠誠を誓った騎士が裏切って許される道理はなかった。

 それにギルの場合、ベルデ王国に匿ってもらおうにも既にルルの件でわだかまりがあった上、さらには突発的に事をおこしたためにすぐに受け入れられるだけの用意もなかった。


「そんな……」


 ルルはそうつぶやくことしかできなかった。



毎回、遅くなりましたと言ってる気がしますが、遅くなりました。なんとか今年中には完結させるつもりですのでよろしければ私のモチベーションのためにもブクマ等よろしくお願いいたします。

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