77話 裏切りの騎士2
「ヴィルヘルム様、私に爆弾の運搬を任せてもらいたいです」
ヴィルヘルムの陣営についてヴィルヘルムに謁見したギルは真剣な眼差しでヴィルヘルムにそう切り出した。
「ふむ、お主は王国騎士団で学んだ上、形式上では私の家のものとなっている。人選的には問題ないが、危険だぞ」
ヴィルヘルムはそう言うと、先程すでに命令を下し、素早く、家族への手紙を整えていた二人の若い将官の方を見ながら言う。
「お二人のどちらか、私にそのお役目譲ってはくださりませんか」
ギルはそういって二人の方を見る。すると、二人はお互いに遠慮するような視線を交差させると、薄い金髪をしたまだ20代も前半だろう若い将官の方から切り出した。
「お前、子供が生まれたばかりだろ、俺がいくよ」
その将官がそう言うと、もうひとりはすまないと言いながら、ギルの方に向き直る。
「ありがたい、私もリトリアに命を捧げる覚悟はあるつもりだが、ここは家族のため引かせてもらう。どうぞよろしくお願いする」
その将官が書きかけの遺書をきれいに畳んで胸ポケットにしまうと、様子を静観していたヴィルヘルムが口を開いた。
「では、ギル、お主に任せよう」
ヴィルヘルムはそう言うと、ギルに近くにくるように促した。そしてギルの耳元に口を近づけるとささやくように言った。
「お主が忠誠を誓うは?」
ギルはその言葉にヴィルヘルムには嘘はつけないことを悟った。
「ルル様と、この大陸すべての人でございます」
「ふむ」
そう言ってギルから視線を外すヴィルヘルムの瞳は教え子を悼むようなどこか寂しい澄んだ色をしていた。
「では、私は右側の馬に乗りますのでギル殿は左の馬をお願いいたします」
爆弾は二頭引きの馬車でもって敵陣の左翼側に近い場所で使う手はずとなっていた。
「了解した。ああ、そういえば、名前を聞いていなかったね」
ギルは返事をしながら、すでに馬上に上がったその青年将官に尋ねる。
「たしかに名乗ってないな。俺はローラン、今回は命がけの作戦になる。よろしく頼む」
そう言うと、ローランはちょうどギルが馬上にあがったところで握手を求めるように手を差し出す。
「ああ、よろしく」
ローランもギルも乗馬のスキルは王国でも一流であった。二人はどちらからとも言わずに馬をすすめると馬車は少しずつ加速を始めた。
しばらく進むとちょっとした丘が前方に見えてきた。ここを右に迂回すると先程までは丘に遮られて見えなかったこちらの馬車が敵軍の視界に映り込むことになり危険度はグッと上がることになる。
「では、曲がりましょう」
ローランがそういって馬の手綱を握り込んだ時、ギルは懐に忍ばせていた小刀をさっと取り出すと、ローランの馬と馬車をつないでいたロープを切った。
「ギル!?」
ローランは突然のギルの行動に表情を驚愕に染めながら、ギルの名前を呼ぶ。しかし、突然負荷がなくなったことで馬は言うことを聞かず暴れ始めると、ローランは馬の制御に戸惑った。
「私がベルデ王国出身なのは知ってるね? 私はあの裏切り者のルルのもとでベルデ王国のために働こうと考えていた。そしてついに祖国を救うチャンスに恵まれたんだ」
ギルはそう捨て台詞を残すと、ギルに対して怒鳴りつけるローランを置き去りにすると、ベルデ軍左翼のさらにその先へと一人向かっていった。
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