76話 裏切りの騎士1
「やっぱりホーキンスは爆弾で敵を一網打尽にするつもりみたいね」
ルルは顔を蒼白にしてそう言った。
「こりゃあ、なかなか難しい局面ですね。下手に手出しをすれば我々の謀反を疑われ首ですよ」
ネイサンも現状に打てる手がないと首を振る。
「とりあえず、私はヴィルヘルム様とのところに行って詳しい話を聞いてみたいです」
ギルはルルの冷静さを取り戻すように努めて落ち着いた口調でそう言い出した。
「そうね、情報は多いほうがいいわ。ギルはヴィルヘルム様にどういった風に爆弾が使われるのかを訪ねてきて頂戴」
「承知しました」
ギルはひとことうなずくと、右翼の後方に構えられているヴィルヘルムの陣地へと向かっていった。
「ふむ、私どもも陣地に戻って案を練りましょう」
ネイサンのその一言でルルはギルを見送った視線をネイサンに向けるとそのまま二人一緒に自分の陣地へと戻っていった。
「しかし、もはや本陣に例の爆弾が運ばれたとなると手の施しようがない気がしますね」
「そうね、例えば、ベルデ王国側に爆弾のことを伝えるにしても、伝えたあとに相手が不自然に退却や陣地の変更を行えば上層部は味方の諸侯の中に裏切り者がいるとみるでしょうしね」
「殿下から船の建造を命じられたところを見るにこの戦争を止めたいと考えている勢力は相当に力をもった勢力と考えられますが、実際、今現在相手の陣地に伝えられるような人物はいるんですか?」
ネイサンの敵との内通を知ってるかのような質問にルルは軽く、苦い顔にになると、答える。
「正直にいえば、ベルデ王国にも数人協力者はいるんですが、ベルデ王国軍も高度に作戦を秘匿していたのか、ほんの先月前までは奇襲の奇の字も聞き及んでおりませんでした」
「そうですか、と、なると実際目の前に広がるベルデ軍の中に連絡がつく方はいるかはわからないですか」
その言葉にルルは眼前に広がる敵の旗印の中にポワチエの旗印を見つけると言う。
「旗印を見るところに連絡をつけようと思えばつけられるとは思いますが、相手もベルデ王国では微妙な立場であることを考えるに伝えられたとしても不自然な動きになるかと」
ルルがそう答えるとネイサンも唸るように返事をすると。
「万策尽きたと言いたい気分ですね」
「そうですね」
ルルは眼前に広がるベルデ軍を見て思う。
たとえ、それが家族をぐちゃぐちゃにしたベルデ王国であっても。
たとえ、それが戦って領民を、ハルトマン伯爵を、失った相手だとしても。
無意味に殺戮されていい相手ではないと思う。
あの中にいるだろう、ポワチエ爺や、もともとの故郷であったあの土地の人々の命が散らされるのも考えたくない。
「どうにかしなきゃいけないわ」
ルルは今はここにいないスグルや、フィン、スミスたちの分もここで踏ん張るしかないと心に刻み込むように一回深呼吸すると、ありそうもない解決策を考え始めた。
ルルたちと行動を別にしたギルには現状を打破できる作戦などある方法以外にないと考えていた。
実際にこの方法を使えば、ルルと永遠に顔を合わせることも言葉を交わすこともできなくなるだろうことを知っていたが、ギルはこの方法を実行に移そうと考えていた。
ギルは二人と別れると、近くを通りがかったピレネーではよく作業を手伝ってもらっていた正規兵の一人を呼び止めると素早くしたためておいた二通の手紙をその正規兵に渡した。
「これを表紙に書いてある日時に表紙に書いてある人物に渡してほしい」
ギルは一緒に作業した経験からこのこの人物は手紙を渡す信頼に足る人物であることをしっていた。
「分かりました」
その正規兵もギルの据わった目をみてなにか大事なものを感じ取ったのかなにを追求するでもなくただそう答える。しかし、さり際に一言だけ尋ねる。
「今一度、ルル様と話しておかなくていいんですか?」
「決心が鈍るよ」
ギルは決して今の表情を悟らせまいと背中を向けたままそう答えた。
「ベルデでスグルに初めて出会ったときに散らすはずだったんだ」
ギルはそうつぶやくいて一呼吸置くと、ヴィルヘルムの陣営の中に足を踏み入れた。
遅くなりました。ここから物語は大きな転換点へと向かいます。こういった場面はなかなか物語を紡ぐのが難しいです。




