74話 違和感
戦地に到着したネイサン率いるルンブルク軍は司令部からの命令があると早速、陣形の右翼の後方にて持ち寄ってきた軍備品を整理しながら陣地を構築し始めた。陸戦の経験に乏しいルンブルク軍なので主にギルの指揮を受けながらであるが、本業が船乗りが多いルンブルグ兵たちはその持ち前の力強さで号令にいち早く応答する。
そんな力作業に加わらない上級指揮官であるネイサンとルルは彼らの邪魔にならないように隅にいた。
「続々合流している援軍で人数は増えて来たと言っても相手のほうが人数も軍備も上。ヴィルヘルム様の王都からの援軍が来ないと苦しいですね」
陣地を構築している高台から見渡す、ベルデ軍の全容を眺めながらネイサンは傍らにいるルルにそう零した。
「ええ、率いているのがあのイェーツだし、ヴィルヘルム様が早く帰還しないと全滅よ」
ルルのその辛辣な言葉にネイサンは苦笑いでうなずく。
「彼は、元々対海賊での手柄で将軍まで上り詰めた男なんですよ。ただ、優秀だったのは彼の右腕だった元海賊の傭兵の年寄りで実際の彼の実力はあんなもんなんですよ。ただ、その対海賊の手柄ってのが、現王妃の誘拐未遂事件やら、国王暗殺未遂事件やら不思議と重大な事件が関わってるもので左遷させようにも左遷できないようですね」
ネイサンの話を聞いたルルは尋ねる。
「そんなに優秀な右腕がいるならどうしてあんななんですか?」
ルルが尋ねるとネイサンは苦笑いで答える。
「それが、ちょうど彼が将軍になるのを見届けたタイミングでね……」
ネイサンがそこまで言ったところで後方から歓声が上がった。
「おや?」
歓声がした方向を見ると王都から続く道から王族の御旗を掲げる軍列がやってきていた。それは、ヴィルヘルム軍が予想よりも大幅に早いタイミングで戦場にもどって来たことを示していた。
本来喜ぶはずのルルとネイサンであったが、その顔はそれに反して思わしくない顔であった。
「おかしいですね。ベルデ軍の奇襲はつい先日のことであったはず。ヴィルヘルム様がそれに呼応したあと王都に戻ったとしたのなら到底この早さで戻ってこれるはずがありません」
「もしかして、王都では奇襲であるはずのベルデ軍の攻撃をすでに察知していたってこと?」
ルルのつぶやきにネイサンは唸るように考え込む。
「そうだとしたら、例のものを実際に使用するにはとても都合がいいと思いませんか?」
ここは、荒れた平地。大軍が横に広がることができる場所。
「奇襲をすでにリトリア軍は察知していて、そのタイミングで王都から例のものを運んできたとして、ヴィルヘルム様が時間を稼ぎながら、後退。攻撃に適した土地へと誘い出す。そして、すぐ近くに来ている王都軍と合流して……」
それは、あくまで想像であったが、筋は通っていた。と、そこにちょうど一段落したギルがやってきた。
「どうしたんですか? そんなに深刻そうな顔で」
ルルはネイサンの方を見ると、了承を得てギルに仮説を話し始めた。
「ヴィルヘルム様に確認してみましょうか?」
ギルは努めて平静な声でそうルルに尋ねる。
「いや、それはやめておいたほうがいい。爆弾のことを知っているのは一部の人間だけだ。不信感を与える恐れがある」
それに答えたのは横にいるネイサンである。ルルもそれに同調してうなずく。
「そのほうがいいわ」
ルルがそう言ったとき、軍議の招集の合図である。鐘の音が鳴り響いた。
「どうやら、推理せずとも答え合わせができそうね」
ルルは遠く右翼から本陣へと向かっていくヴィルヘルムの手勢を眺めながらそう言った。
ええ、私はエタリマセンヨ。ただ、筆が進まなかっただけです。物語は佳境へと入っていきます。
待っていた方がいたら申し訳ないです。遅くなりました……。




