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73話 突然の奇襲

 ベルデ王国の奇襲にも関わらず、リトリア王国の応戦は早かった。リトリア軍は駐屯させていた国王軍をすぐさま招集するとひとまずは国境線から深く侵攻されないように、大軍が横に広がれない場所まで応戦しながら後退し援軍の到着を待った。

 しかし、リトリア王国にとってうまく行ったのはそこまでであった。ベルデ王国軍はリトリア王国軍の軍備が十分でないことがわかっていたので、その軍勢の数でもってリトリア国王軍を押し始めたのである。

 精鋭揃いの国王軍とはいえ、人数の前には歯が立たなかった。あっという間に負傷者が増え始め、大軍の有利な多少荒れた平野まで押し込められてしまった。

 

 そして、そんな劣勢の中に断続的に合流しているリトリア諸侯に混じってネイサンとルルもいた。


「申し訳ない、ルル殿、私は港を持つ領主にて海戦はともかくとして陸戦はからっきしで、いまさらピレネーから援軍といっても間に合わないのでうちの兵の半分も任せてしまって」


 ネイサンはそういって、ルル、ホントのところを言えば、その後ろに控えているギルに向かってそう言った。


「いえ、私もそこまで経験があるわけでは、でも副官のギルは王国騎士団で学んでいるから一流だわ」


「それは頼もしいですね」


「もちろんよ。私の騎士だもの」


 ルルはそう言うと、小さく一人ごちる。


「スグルもいればもっといいのだけれど」


 ルルはスグルの肩から見る高い景色を思い出しながらそう言った。




 次々に諸侯が合流し混乱を極めている司令部にネイサンとルルが現れた。ギルはルルの後ろで静かに控えている。


「おお、これはネイサン殿とルル殿! 待っていたぞ!」


 ルルたちの姿を見るや声を張り上げたのはいつぞやの愚将イェーツだった。


「うげっ」


 ルルは思わず声を上げてしまう。


「これは、イェーツ殿。ヴィルヘルム様はいらっしゃらないのですか?」


 ネイサンはルルのうげっという声に重ねるように尋ねる。


「それが、王都からなにか大切なものを運ぶとのことでその護衛にいくということです。で、私がその間ここを任されているわけでございます。私がいない間は軍を動かすなとの命令も受けてですね。やはり、私のような優秀な将官ですと、ヴィルヘルム殿がいない間に戦争を終結してしまうかもしれませんからなあ! ハハハ!」


 そんなイェーツの言葉にルルは思わず何を言っているんだコイツと言いそうになるが必死に堪えた。

 周りの将兵たちも似たような反応であるからしてイェーツの愚将ぶりは全軍に知られているらしい。

 ルルはなぜイェーツがこんな重役に据えられているのか疑問に思った。


「それはそれは、ところで、私達はどちらに陣を構えればよろしいでしょうか?」


 ネイサンがイェーツの戯言を軽く流しながら質問すると、イェーツはヴィルヘルムが残した陣立ての示された紙をチラリと見ると。


「ふむ、どうやら、右翼のようですな。そちらは王都からの道がつながっている場所なのでヴィルヘルム殿の指揮になるんじゃないかね?」


 ネイサンは満面の笑みを浮かべると、承知しました。と下がろうとして思い出したように質問した。


「ところでヴィルヘルム様はいつ頃こちらにお戻りになられるのでしょうか?」


「ちょうど、国境沿いで演習中に敵の奇襲に呼応したあと、我々と合流してすぐ王都に向かわれたようですよ。狼煙での伝令も行われているはずなので、王都側からもその大事な荷物とやらが運ばれていることを考えるに、あと3日ほどなんじゃないですかね?」


 イェーツがそう答えると、ネイサンはありがとうございます。と述べるとルルを伴って司令部を後にした。



大変遅くなりました。3月中の投稿0は避けたかったのでギリギリですが投稿いたします……。

これからもよろしくです。

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