67話 港湾都市ルンブルグ2
ルンブルグ領の使いであるラルフは、ルル達一同を先導しながら、説明した。
「本当は、今年には下水道浄水整備が完成する予定でした。しかし、この戦争と、工場建設で領内の大工達の人手もお金も全く足りずにこの有様です」
ラルフは先程の釈明にそう言った。
「先程は誤解からとんだ失礼を」
シットが珍しく額に汗を浮かべながらそう答えると、
「いえいえ、私も事情を知らなければそう思います。なにしろ下水浄化設備もないのに海に汚物を垂れ流しているのですから、下水管より先に下水処理設備をつくるべきでした。切実にそう思います」
ラルフが口元にそう笑みを浮かべながらそう言うと、フィンが質問する。
「でも、この戦時に人手や資金を投入して建てた工場ってなにか兵器でも生産しているんです?」
ラフルが不自然なほど自然に受け答えた。
「ええ、兵士たちが使う、ちょっとした小物ですがね」
その違和感に気づいたのは商人であり、感情の機微に敏いシットだけで、シットがその違和感に気づいたことは逆にラルフには悟らせることはなかった。
「ようこそ、おいでくださいました」
温厚そうな顔をしたまだ40代ほどであろうか、若々しさを感じる男が一行の前へと進み出た。
「私はルンブルグ領主のネイサン・ルンブルグです。今夜はこちらのお屋敷にお泊まりください。スグル殿はすみませんが、中庭に泊まるための物品を用意いたしましたのでそちらでお願いします。夕食は中庭でこれからいただきましょう。話し合わないといけない事もありますしね」
ネイサンはそうルルに笑いかけながら言った。
「ええ、歓迎感謝いたしますわ。よろしくお願いいたします」
ルルが入っていくのに続いて、一行は屋敷の敷地へと入っていった。
屋敷は白を基調として所々に青色を使った、海を感じさせる品の良い建物であった。
「きれいなお屋敷ですね。白色が素敵です」
ルルがそうネイサンに話しかけると、ネイサンは先程よりも更に笑顔になって答える。
「この壁を白くするのは結構お金がかかって大変なんですがね、先祖代々受け継いできた屋敷を汚してはだめだ。と代々、ヒイヒイ言いながら状態を維持してるんですよ」
ネイサンはなんだか苦笑いも混じった表情であった。
「なんだかいいですね。先祖代々受け継ぐ屋敷って」
ルルはベルデ国境にあった屋敷を思い出しているのだろうか。スグルはなんだかそう思い、今のリトリアの屋敷にこれから思い出を刻んでいけるようにこの戦争を早く終わらせたいと心から思った。
特に騒動もなく夕食を終えると(宴会の日々が異常であった)、ネイサンは信頼のおける使用人と家臣の一部だけを残して残りは屋敷から帰した。
「それで、話し合いの前に私はルル殿たちにお話したいことがある」
ネイサンは傍らにいるラルフに目配せをした。
「あのことをお伝えするのですか?」
ラルフは拒絶とまではいかないまでも本当にそれでいいのか確認するような目つきで自分の主人の方を見た。
「ああ、私は現国王陛下、いや、実権を握っているのはホーキンスだな。彼よりはチャールズ殿下の意見に賛成なのだ。ただ、私の力不足で彼の主張も受け入れなければならない立場でもある。だが、私は協力をしても完全に従うつもりはない。そこで彼らの企みをルル殿たちに聞いてもらいたいのだ」
ネイサンはゆっくりと語り始めた。
遅くなりました……。待ってくれていた優しい方、いらしたらすみません……。




