66話 港湾都市ルンブルグ1
さて、ルル達一行はゆく先々で盛大な歓迎を受けながら予定より2日遅れて港湾都市ルンベルグへとたどり着いた。
「活気が溢れてますね……」
シットは、活気あふれる路地や、立ち並ぶ露店を見てそう言った。
戦時中の中、活気にあふれるこの街はスグルたちのあの戦いが、ハルトマン伯爵の死が、たしかに意味があったと感じられて、スグルはシットのその言葉の意味を噛みしめる。
「私、海を見るのなんて数年ぶりだけど、やっぱりいいわね。海って」
ルルはそう言って遠くに見える海岸線を見通す。
「東の海は汚い汚い言われてるが、本当の話なんか? どうやらそこまで汚くないように見えるんだが……」
スミスがまだ、距離のある海岸沿いを見ながらそう言うと。
「本当にそうでしょうかね。海って遠くから見ると大概きれいに見えるものですよ」
フィンはそう言うが、実はフィンももとは平民であるからして本物の海を見るのはこれで人生二度目である。実は彼、本の知識だけで作戦を立てたのである。
しかし、良かったことに? フィンのその言葉は当たっていた。
海岸沿いにたどり着くと、海の様子は悲惨そのものであった。流石に船が航行できないほどのゴミが浮いているわけではないが、海水は、遠くから見たときとは違って少し緑ががっていて水深の浅い部分ですら底が見えない有様であった。
「なんか、くさいわね」
ルルが若干顔をしかめながらそう言った。他の面々も同意というように渋い表情をする。
「どうやら、汚水をそのまま海に流しているようだ」
ギルが少し先で勢い良く水が飛び出している部分を指差してそういった。それを聞きつけるとシットが驚愕の顔をして語り始める。
「我々、シット商会がリトリア王国の農業のため、集めていたう○こを! 下水で集めて感染症を予防すると言っていたにも関わらず! 下水をそのまま海に流すなど言語両断! これでは堆肥として有効活用したほうが世のため人のためではないですか! いったい、政府とここの領主は何を考えているのでしょう!」
シットは久しぶりに本来の彼を思い出させる調子でそう言った。
確かに、下水はすぐそこで垂れ流されていて、あたりにはかすかに汚水の匂いが漂っていた。
シットの言葉に一同が若干の苦笑いとともにうなずいていると、小綺麗な格好をした年は30代といったところだろうか、使いらしき男が口を挟んできた。
「それは、申し訳ございません。私はここの領主様のところで奉公させていただいております。ラルフと申します。皆様のご案内に参りました」
すると、ルルはシットの先程の会話を見事にスルーして答える。
「よろしくおねがいしますわ。ところで、こちらのご領主さまは例の件についてご存知なのでしょうか?」
手紙が流出することを恐れたのか、ルル達を呼び出したときの手紙にはルンベルグへと凱旋せよといった内容しか書かれていなかったのである。念の為ルルは今回の作戦について知っているのか例の件と言って尋ねたのだ。
「確かに、ここの海は汚いですが、ここからだいぶ離れた場所の、造船所のある場所ほどまで行けば、夏には海水浴場が開くほどの綺麗さにはなりますよ」
その言葉でルルはここの領主もこの作戦に噛んでいることを理解した。造船所がここの領地の管轄下にあるため知らない可能性は殆どなかったが、これで宿でも安心して作戦について話せることが確認できた。
「私は泳ぎたくはありませんがね」
使いの男は小さくそう付け加えた。
ちなみに、その海水浴場云々の発言にはスグルが目の前の汚い海を見ながら胸をなでおろしたことをここに記す。
遅くなりました。




