65話 港湾都市ルンブルグへの旅
さて、例の秘密の会談が行われてから一月半ほどたった。
スグルをすっぽり覆えるほどの船であれば、年単位で建造せねばならぬところを、ラザとリトリアの船大工たちは設計図を図面に起こし、それぞれパーツごとに別々に組み立てあとから組み合わせるという効率だけを突き詰めたような方法をとり強引に建造を早めた。
船大工にはプライドを投げ捨ててもらって、精度なんてくそくらえ、見た目が船ならそれでいいと言うように、完成スピードだけを意識して一ヶ月半で作り上げられたその船は本当に浮くだけのものになっていた。
嵐が来たらひとたまりもない、その船は、ハリボテ帽子船というべき物は形だけは完成したのであった。
さて、船が完成したとなれば、ルルたちは船のある港湾都市へと向かわねばならなかった。馬で行けば最短で一週間、スグルの足ならもう少し早く行けるだろうが、港湾都市ルンベルクへは、行く人数が人数であるので、二週間のほどの旅の予定である。
メンバーは、ルルにギル、フィンにスミス、シット、そしてスグルと50人ばかりのピレネーでも精鋭の兵士たち、港湾都市では水兵がもう100人ばかり合流する事になっている。ピレネーの住人では船を操れないので仕方がない。
そんなこんなで港湾都市ルンブルグに向かうルルたち一行であったが、ベルデのスパイに攻撃を察知されてもまずいので、表向きは多大な戦果を出しているルルとその騎士スグルの凱旋ということになっている。
そういう事になっているのでゆく先々での出迎えられ方は盛大なものとなっていた……。
7泊目での街で。
「もうダメだわ。私、明日から自分で歩くわ。これ以上こうやって過ごしたら太っちゃうわ」
ルルは心底ウンザリしたようにそう言う。
「だめですよ、ルル様。この毎晩の歓迎の宴でただでさえ行程が遅れてるんですから」
状況はフィンの言っている通りだった。
行く先々でルルたちは多大すぎるほどの歓迎を受けていた。肉を勧められ、酒を進められ、それでいて昼間は馬車に揺られる。馬車で酔うは、馬車に慣れれば今度は運動不足と食べすぎでちょっと? 太るはでルルはすでに我慢の限界を迎えていた。
宴会を断ればいいじゃないかと思うかもしれないがそうできない事情は初日のルル自身にあった。
スグルたちが聖女伝説とやらを広めていたのが悪かった。
リトリアでは既に多大な人気を誇っているルルは初日に泊まった場所で開かれた宴で気分を良くすると、出される料理料理を盛大に褒めまくったのだ。
自分の言葉の価値をあまり理解していないルルはまだ余裕のあったお腹もあって節操なしに出た料理、出た酒を褒めまくった。
で、それは旅人によって各地に広められ、その地域の特産品を生み出すことになった。
それが今後泊まる予定の街々へと噂となって広まった。
あとは簡単である。単純なことである。ルルは自分らの村のものを食ってくれ! 褒めてくれ! という村長やら、市長やらにさんざんに、まるでフォアグラを作るがごとくにたくさん食べさせられ、肥えさせられることになってしまったのであった。権力者の言葉は簡単には断れないのである!
明日は歩くわ発言から一時間後である。
「私はね! 豚になりたいんじゃないの! これでも女の子なの!」
すでにお開きになった宴会の会場はさながら地獄のような様相をしていた。
ルルは勧められ飲んだ酒でほんのり赤くなった頬でそう叫んでいた。
ちなみにすでに身内しかいないのが救いである。
「どこに女の子がいるんですか? どこにもいませんねぇゲへへへへ」
ちなみにこれはほんのりレベルじゃなく、泥酔しているスグルである。地球の法律なんてなにそれ美味しいのとでも言うように飲んだ、たった一杯程度の酒でこうなった。コイツすごく酒に弱いらしい。
それに対してルルもほろ酔いの顔をしているがすでに泥酔しているとしか言いようのない醜態であった。
「黙りなさい!」
ルルは何が面白いのか仰向けで笑い転げているスグルの股間に飛び乗ると、思いっきり飛び回る。
「なにこれ気持ち悪いのよ! フニフニしてるわ! きもい! きもいわ!」
ルルはスグルの上で飛び回りながらそう言って叫ぶ。
スグルは悶えるような刺激のせいか、酒のせいかすでに泡を吹きながら白目でびくともしなくなっていた。
息はしているので死んではいないようだ。
そんな二人を遠目で見ながらそんな醜態を身内以外には目撃されないようにギルとフィンは村人などが今日の宿にもなっている宴会会場に近づかないように見張りをしていた。
「ギルさん、ほんとにあのルル様に恋をしているんですか?」
フィンのその質問に、
「普段見れないルルも貴重なんじゃないかな」
ギルは清々しい表情でそう惚気けた?
なんかキャラ崩壊してますが、酒は怖いです。




