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5話 交渉

「国王様に発言する許可を頂き、感謝します。それでは私の要望と、この国にとって有益になりえる情報をお話いたします……」


 そのルルの言葉にリトリア国王レオナルドは興味深そうに「ほう」と答えた。


「ルル・アルデンヌよ、まずはそなたの要望を聞こう」


 レオナルドは口ひげを弄りながら言う。


「はい、まず私を貴族として待遇してくださいますことを願います」


 それに対し、ルルはあくまで堂々とした態度を崩さずに言った。


「それは、そなたの持っている情報とそこの()()の扱いをどうするかによるぞ」


 レオナルドも堂々とした態度で返す、しかし同じ堂々たる態度でもルルのそれより遥かに威厳のある態度であった。


「では、まず私のお抱え騎士であるスグルについてお話しましょう」


 「うむ」とレオナルドが答えるとルルは続ける。


「そこの巨人、スグルは私がリトリアへ亡命する折に私の騎士となることを誓いました」


 微笑みながらルルは言う。


「ほう、その巨人を献上する気はないと」


 レオナルドも微笑みで返す。


「はい、国王であれば、騎士の誓いがどれほど大切にされるべき契約か分かっていらっしゃいますよね」


 スグルは気づいた、ルルはスグルの待遇を守るために自分より遥かに立場の上な国王に対して牽制を入れていることに。まだ、自分の待遇も決まっていないのに……。


「そのとうりじゃ、それで、お主は我が国へどのような貢献をしてくれるのじゃ」


 スグルがだめならば、ルルを縛ればいい。なんとなくそういったニュアンスが含まれているようであった。


「私をリトリアの貴族に迎えてくださった暁にはそこのスグルと、私のお付き騎士ギルとともに今度の戦争を参戦することをお約束いたします」


 レオナルドの雰囲気が変わった。


「ほう、戦争とな、なにをもってそう決める」


「国境付近の貴族に軍備を整えよとの達しがでておりました。そしてただ一つ我がアルデンヌ領だけはそれがでていなかった、そしてすぐ父は殺されました。きっと父はリトリア王国とのつながりから戦争計画に邪魔だったのしょう」


 レオナルドは「準備は始まっておるか」と呟くと言った。


「よろしい、参考になる情報であった。そなたにピレネー高地周辺の土地を与えそこの貴族に任ずる。これは我が国との架け橋となったそなたの父への感謝を含めての処置である。また、リトリア貴族としてそなたには王国への忠誠と軍隊への派兵義務が生じる。そのことここで誓うのじゃ」


 レオナルドはそばの貴族や騎士たちに宣言するように言った。ルルは「はい」というと跪く。


「私、ルル・アルデンヌはリトリア貴族としての忠誠をここに誓い、また、王国の繁栄に寄与することを誓います」


 ルルの宣言がおわると「ふむ」といいながらレオナルドが言う。


「宣言が終わったお主に伝えなければならぬことがある。まず家族についてじゃが、長男ラインハルトは我が国への亡命を許可しており、すでにラインハルトには大隊を任せておる。しかし他のものはすでに捕らえられ、処刑されたことが分かっておる」


 国王はそれだけ言うと、若い騎士を一人置いて「あとのことはこのものに任せた」と言って去った。


「承知しました」


 ルルは一瞬息を呑むと、いつもと変わらない表情と声で答えた。そして付けられた騎士に自己紹介した。


「私はリトリア王国に加わったルル・アルデンヌよ、よろしくね」


「私は、王国騎士団所属、フィンです。このたびルル様付きの騎士となるよう命じられました。よろしくお願いいたします」


 自己紹介するのは騎士というには少し体つきは貧相だが、頭はよさそうな青年であった。


「とりあえず今日はもう宿にいきたいわ、どこか広い庭のある宿に案内してちょうだい」 


 ルルはスグルがいるから、と庭付きの宿への案内を求めた。



 宿につくとルルはすぐに部屋に引きこもってしまった。スグルもギルも心配であったがなにも声をかけられなかった。


 日が落ちるとスグルは自分のために庭に敷かれた藁の上に寝そべった。


「ルルもギルもいないと一人ぼっちだな」


 スグルはひとりつぶやくと自分の主人の小さな女の子について考えた。


「父親だけでなく母親、兄、姉まで失ったなんて、僕だったら耐えられない」


 心配になったスグルはまだ明かりのともったルルの部屋を覗いた。


「キャッ!」


 するといきなり窓に大きな目が現れたからだろうか、部屋から悲鳴が聞こえた。しかし、どうやらそれだけじゃないことにスグルは気づいた。裸のルルが体を水拭きしていたのだ。


「ご、ごめん! ごめんなさい!!」


 スグルは慌てて目をそらすと窓から離れようとした。


「行かないで!」


 悲痛な声でルルは叫ぶ。


「そばにいてお願い、ただ私の話を聞くだけでいいの……」


 スグルは真剣な表情になると窓に背を向けて座った。


「私、貴族の娘として家族が死んじゃうとか覚悟ができてると思ってたわ。でも、だめなの、悲しい気持ちが止められないの……自分が情けないわ。貴族なのに」


 肩に小さな手のひらが載せられたのが分かった。次にはルルが肩に顔をうずめたのがわかった。微かなぬくもりの中に涙の湿り気を感じる。視線の先では月明かりで庭に映るその影が場違いにその体の美しさを主張していた。


「僕の世界ではね、もう貴族はいないんだ。泣くのは恥ずかしいとかそういうことはない世界なんだ。これは僕の価値観だけどね、泣きたいときは泣けばいいよ、僕でもいい。ギルでもいい。なんならフィンだっていい。誰かに頼って、死んだ人の分も生きようって、今よりもっと良い世界にしようって生きれば良いんだよ」


 スグルはゆっくりと泣いてもいいんだ。貴族も平民もないよと言った。


「ありがとう、スグル」


 スグルはできるだけ動かないように座ってそのままでいるとしばらくして寝息が聞こえてきた。するとやり取りをすべて見ていたらしいギルがやってきた。


「スグル、ルル様を慰めてくれてありがとう。あとは私に任せてくれ」


 スグルはうなずくとギルを自分の肩まで持ち上げて載せた。肩の重みがなくなり、ギルがベットにルルを寝かせたことを確認するととスグルも藁に横になり眠りについた。


悲しめのお話になります。次はちょっと笑える話にしたいと思います。

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