表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

58/95

57話 犠牲の結果

 時は遡り、リトリア軍別働隊がベルデ軍本体によって敗走させられた、夜。

 リトリア軍本体が立て籠もるベルガルド要塞では、ベルデ軍が後方へと移動しているのが確認された。

 ベルデ軍は谷に入るまではできる限りの光源を制限していたため、リトリア側からはどの程度の人数が移動しているのかを知り得ることはできなかったが、たしかに別働隊へ向けて敵兵が差し向けられているのは確認されていた。

 

「指揮官は少数の犠牲で多くを救い、勝利を掴むのが仕事だ……。すまぬ」


 ヴィルヘルムを筆頭とするリトリア軍司令部はそう言ってベルデ軍の作戦行動を容認した。

 確かに、ベルガルド要塞に籠もるリトリア軍本体が動けば、別働隊への攻撃を阻止できたかもしれなかったが、それは兵力差が二倍もある軍勢に挑むことになり、見過ごすことは司令官としては当然の判断であった。



 そうして、敵の別働隊夜襲が決行されていると思われる、数刻の後、リトリア軍本体は動いた。

 たとえ、相手が光源を制限して人数などをごまかしていたとしても、それだけの時間があれば、斥候が敵の情報をもたらすには十分であった。そして、その情報からは、相手が軍勢の大部分を谷へ向けたこと、おそらく別働隊を本体と誤認していること、今頃は大部分が狭い谷沿いの道に侵入していることがわかった。


「今が、最大の好機」


 敵を追っているという精神的な優勢から、敵に追い詰められるという恐怖、人数では勝っていても狭い道では少数づつしか戦えず、地の利を得る、リトリア軍の優勢に持ち込みやすい戦場であった。


「これで、終わらせられる」


 今まで指揮してきた殆どの戦いで勝利をもたらしてきたヴィルヘルムは、その顔に刻んだ、皺をより深くすると、騎兵の先頭に立つと、少数しか残っていない、砦前方の敵軍を突破し、そのまま谷へいる敵本体へ殺到した。




 ルルらリトリア軍別働隊はベルガルド要塞を前にすると、みんな力が抜けたというように、肩の力を抜いた。


「やっと戻って来られたわ」


「そうだね……。これもハルトマン伯爵のおかげだよ」 


 そう、スグルがつぶやくと、別働隊の面々はそれぞれが、ハルトマン伯爵の勇姿をまぶたの裏に思い出すかのように目を閉じて祈るようにした。


「じゃあ、入城するわよ」


 砦に入城した別働隊は戦勝に湧く本体を見ることとなった。



 入城した別働隊を待っていたのは盛大な歓迎であった。

 敵本体を引きつけ、さらに、敵を逃げ場のない場所に取り残した。

 これは、戦術的には素晴らしい戦果と言えた。しかし、それで追い詰めることができたとはいえ、流石に3万もいる敵の将兵を皆殺しなどにできるはずもなく、降伏勧告により、数人の将官と高官を捕虜にし、敵の新型兵器を鹵獲することになっていた。


「そなたら別働隊には多大な犠牲を強いてしまったが、この勝利はすべて別働隊があったからこそじゃ」


 ヴィルヘルムはそう、本陣に入ってきたルルに言った。


「ええ、私たちとしても勝利できたのは戦士した仲間たちの死に意味があったということで安心いたしました」


 ルルは、感情を感じさせぬような表情でそう言った。


「ハルトマンの事は残念じゃった。奴はああ見えて農業派閥にいながら若い頃は相当に優秀な将官であった。最近は老いていて、もう引退という感じであったが、最後に人生最大の戦果を得た。ハルトマン家には最大の褒美を約束しよう。ルルよ、そなた奴の跡取り娘と仲が良いらしいな、ぜひ、世話してほしい」


「もちろんにございます」


 そうして、ルルたちは、戦勝に湧くベルガルド要塞で束の間の休息をとることになった。



 火を囲んで踊る踊り子や、酒を振る舞う商人で辺りが盛り上がる中、ルルら、ピレネー勢は少し離れた場所で休息をとっていた。


「でも、ピレネー勢は南西戦線に向かわされなくてよかったね」


 スグルの呟きにギルは疲れの見える少し重い口調で答える。


「どうやら敵は例の新型兵器を南西戦線に集中配備しているらしい、もう、数日も戦線は持たないんじゃないかってくらい追い詰められているらしいよ」


 ギルのその言葉にルルが貴族の会話のなかで出てきた話を持ち出した。


「リトリアの製鉄技術では例の兵器を再現することはかなり難しいらしいわ。ベルデ王国は厳重な技術管理で外に出さないようにしているみたい。マッドが開発した人工守り石の技術もしっかり守らないと大変なことになるわ。本来は民のためになる技術になるはずなのにね……」


 なんだか、そんなところが地球の核と同じで使う人間によって技術が悪用されている気がして、スグルはなんだか切ない気持ちになるのだった。


 そんな戦争の陰鬱な気持ちは楽しそうに笑う踊り子や、商人、兵士たちの表情の節々に確かに感じられ、みんなが、つかの間の平和を享受しようという気持ちになっているのを表していた。



パソコンが壊れてすごく間があいてしまいました……。

待っていた方いたら本当にすみません、きっと完結させるのでこれからもよろしくおねがいします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ