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51話 勇気

「ルル様、これから先の作戦が決まりましたのでお知らせします……」


 再び敗走する別働隊の先頭にスグルと共に戻ってきたフィンはそうルルに切り出した。


「作戦ね、どういったものになったのかしら」


 ルルは不安に瞳を揺らしながらそう聞いた。


「ルル様、落ち着いて聞いてください。まず、後方の足止めの為に老兵部隊を当てます。指揮はハルトマン伯爵が取ります」


 フィンが感情を感じさせない瞳でそう言うと、ルルは叫ぶように言う。


「許可できないわ! そんなトカゲの尻尾切りみたいな真似!」


「ルル様! ルル様が心優しい方なのは承知しています。しかし、誰かがやらねばみんな死にます。息子や孫の世代を活かすために勇気を出した勇気ある方たちにまかせてもらいたい! これは私が独断でやったこと、責任はすべて私にあります……」


 フィンがそう言うと、ルルは縋るような目でギルを見る。


「ルル様、これは正論です」


 ルルは手のひらに爪が食い込むほどに力を込めると、努めて冷静な口調になると続きをと促す。


「そして足止めをしている間に本隊はこの谷を越え、砦まで逃れます」


 ルルとギルはいったいこの底の見えぬ谷どどうやって越えるんだと視線で尋ねる。


「スグルに”巨人の橋”になってもらいます」


 フィンがそう言うと、スグルはちょうど反対側の森が開いている場所めがけて体を倒して行くとしっかりと反対側を掴み自らが橋となるよう体をまっすぐに伸ばした。


「これが我々が生き残る唯一の作戦です」


 フィンは見事に橋となったスグルをみながらそう言った。

 ルルはスグルの覚悟のこもった目を見ると、やめさせようとも無駄だと悟ると老兵部隊が稼いだ命の時間を無駄にせぬように”巨人の橋”を越える指揮をとり始めた。




 時間稼ぎのために後方に残った老兵部隊の前にベルデ軍の大軍勢が迫って来た。


「想像以上の兵力じゃな」


 ハルトマン伯爵は目の前に見える、松明の数を見てそう言った。

 

「道なりに逃げてもその先には人ひとりの幅しかない道が数箇所ある。スグル殿が居てくれて本当に良かった。私は時間を稼がぬとな」

 

 ハルトマン伯爵はそう独りごちると最後に本気で構えたのはいつだろうかという長槍を握りしめると指揮をとるため、前方に歩いていく。


 老兵部隊といえどもこの歳まで前線に出る人材というのは昔から戦場にでて生き残ってきた集団で貫禄とも言えるようなものをみんなが持っている。

 老兵部隊は有りもので作った敵を迎え撃つ陣地でリトリア王国式防御態勢を取る。

 3列に並び一列目は盾、二列目、三列目は槍、それでもって敵の攻撃を防ぎながら敵を攻撃する。リトリアで採用されている長槍が可能にする戦術であった。


「敵の騎兵が来るぞ! どこか一箇所でも抜かれれば死ぬと思え! 絶対に後ろに侵入させぬように!」


 何度、知っている顔を次の戦場では見かけなくなったのか、何度、再び戦場で顔を合わせてお互いの生を喜びあったか、もうお互い顔見知りだらけなこの部隊で老兵たちはこれでお互いの顔を見るのも見納めかなと思い、寂しげな笑みを浮かべると、次には突っ込んで来た敵の騎兵を一突きにすると、連携の取れた動きで同じように突き続けた。



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