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49話 絶望と。

 敵を後方から攻撃して敵を混乱に陥れる。

 ヴィルヘルムから託されたその命令を3000人からなるリトリア軍別働隊は見事に果たし、夜の山の中で勝利を祝いながら糧食を食べながら休んでいた。


「こちらの被害は極めて軽微、今の所敵の追撃もない。作戦は大成功ですね」


 ギルはそう言いながら流石に疲れの見える表情でそう言いながら笑った。


「まだ、安心してはだめよ。無事に砦にもどって初めて作戦の成功が決まるんだから」


 ルルも言葉ではそう言うが、やはりどこか安心したような様子であった。


「まあ、僕の活躍が一番おおきかったかな」


 スグルはそんな二人の割と真面目な会話の中でいきなりアホの子な発言をした。


「スグル、君ってやつは能天気なところはずっと変わらないんだね」


 ギルのツッコミにあたりは仕方ない奴だなとばかりに笑った。

 いくら作戦がひとまずの大成功を収めたといってもやはりこちらにも人的被害は出ていた。そんな中で能天気に発言するスグルの存在は、ここで束の間の休息をとるリトリアの人たちにとっては日常を思い出す温かいもので、兵士たちはため息とともに休息の時間を過ごしていた。




 しかし、そんな穏やかに休息する一団のなかで、難しい顔をするものがいた、

 フィンであった。


「確かに作戦は成功した、敵はこちらに大軍がいると錯覚し、大混乱に陥れることにも成功した。だが、しかし……」

 

 戦術家というものは作戦を考えるだけではなく、相手がどう考えているというのを考えるのも大切なことであった。しかし、こういった読み合いというのは読書や座学で学べるものではなく、本来実践を積み鍛え上げるものであった。

 

「後方に大軍がいる状態で敵は城攻めを続けるだろうか。危険な要因が後方にあり、後方には命の綱ともいえる兵站がある。もしや……。まずい、ここにいては危険だ!」


 確かに、フィンは戦術に覚えがあり、数年もすれば優秀な将軍にもなれるような人物になれる能力はある、しかし、経験不足からくる読みの遅さは、束の間の休息のため、陣地を展開して休憩をとったこの行動は、致命的に大切な時間を奪っていた。


「ルル様! 今すぐ砦まで退却を!」


 そう、フィンがルルに進言した時にはすでに目視できるところに山の合間を松明の炎がまるで獲物を捉える炎蛇のように長く、長く続いていた。




 遠くに見えるその松明の炎に場は大混乱に陥った。

 そんな状態では軍の指揮系統がまともに機能するはずもなく、一人が逃げようと道を駆け出すとまた一人と駆け出そうとする。


「スグル! 退路を塞げ!」


 いつものフィンの温厚の声とは違うその声にスグルは体が勝手に動いたというように退路に立ち塞がった。

 それを見ると、フィンはルルと目を見合わせうなずく。


「みんな、恐れるのはわかる。今すぐ逃げたいのはわかる。しかし、この絶望的な状況で別々に行動すればそれこそ全滅は免れないわ。ここは一心同体の気持ちで行きましょう」


 大貴族であっても彼女は女の子だ。そんなルルが勇気を見せているのにこのままでいいのか。場のリトリア兵たちはそれぞれ、思い思いの故郷の顔を思い浮かべながら、必ず帰るという決意を固めるのであった。




 リトリア軍別働隊は最低限の食料と水を持つと、そのまま砦方向に向けて敗走を開始した。

 しかし、追撃のために万全の準備をしてきたであろうベルデ軍に追いつかれるのは時間の問題であった。

 フィンはどうにかして敵から逃れる術を考えた。

 砦までの道は一本道。

 そして横には険しい山の斜面。こちらに逃げるのは3000人という人数を考えるととてもじゃないが不可能だった。

 反対側には底の見えない谷。反対側まではスグルの身長ほどもあり、飛び越えるのは不可能。

 そこで、フィンには一つだけ作戦を思いついた。それはフィンにとって大切な親友を危険に晒す作戦で。


 フィンは悔しそうな表情を浮かべると、次には1の犠牲で10を救う、軍師の顔になった。


 犠牲を払い、犠牲以上を得る。そんな非情ともいえる能力は戦略家には必要な能力で、しかし、とても、とても悲しい能力であった。


大変遅くなりました。すみません……。

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