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4話 巨人、城壁に現る

 夜が完全に開けて、太陽がキラキラ輝き始める頃には遠くに城壁らしきものが見えてきた。

 城壁と言ってもおそらくスグルの身長と同じくらいだと思われるので、もしかしたら体感よりも近いかもしれない。

 ともあれ、リトリア王国はすぐそこであった。


「もうそろそろ到着よ、私が交渉するからギルは私に付いてきて、スグルはちょっと特殊だから近寄らないでね」


 特殊って、近寄るなって、巨人だとしてもあんまりにもひどい言いようじゃないか! と、スグルは抗議する。


「特殊って、まるで僕がすごい変な性格みたいじゃないか!」


「スグル……。ルル様に耳元で囁かれて、ニヤニヤしている君は十分変態だと思うけどね」


「ちょ、それ、ルル様の前で言わないで……」


 スグルが慌てながらルルを見ると、ルルは初めて知ったと、ジト目でスグルを見た。


「わ、わたしの声を好きなのは嬉しいけど、そういう捉え方されるのはちょっと……」


 ノーッ!! スグルは異世界で初めて会った、この小さな可愛い女の子にすでにちょっとした好意をもっているのである。変態だとは思われたくない。


「これは、そう。ルル様が話しているときにギルが右耳にふぅーって息を吹きかけてくるんだ。そう、これは陰謀なんだよ!!」


「オイ! ウソをつくな!」


 ギルのツッコミに三人で笑った。異世界二日目、馬鹿にされつつも心の許せる仲間が増えて安心なスグルであった。

 


 もう少し進み、城門がすぐそこになるとルルが口を開いた。


「じゃ、スグルはここで待機ね」


 ルルはスグルにも城門での会話が聞き取れる距離で一番遠い場所になるとそう言った。


「ぐすん、置いてかないで」


「もう、突っ込まないわよ」


 本当に突っ込まないなら無視である。律儀に返事するのがちょっと可愛い。そうスグルがのんきに思っているとルルが口を開く。


「私達の権利を勝ち取ってくるわ」


 ルルは決意に満ちた声で一歩踏み出した。



~門番視点~

 

 俺は門番長のロレンスだ。世界一の嫁と、国王軍に入隊した立派な息子を持つ。ちなみに40歳だ。

 最近の悩みといえば、息子が前線じゃなくて後方で作戦立案したいなどとのたまうことぐらいだ。男たるもの戦ってこそだと思うのだが。


 ともあれ、そんなことを考える余裕があるくらいには平和だった城門付近にいきなり斥候が飛び込んできた驚きからそれは始まったんだ。


「大変だ! 巨人が現れた!」


 はじめ、それを聞いた俺はこの斥候の頭が狂ったんだと思った。


「なに言ってんだ! 酒が入ったまま仕事をするな!」


 顔面蒼白になりながらそいつがホントなんだとあまりにも喚くから、仕方ないと俺は信用のできる部下二人を斥候にだしたんだ。

 まさか、それでまた驚くことになるとはな……。



 2つ目の驚きが俺が信用できると送り出した部下二人まで巨人が現れたと大声を出しながら門番長室に許可も取らずに飛び込んできたことだった。

 酒が入ったまま仕事をしたと、処分書を書いている途中だったのでほんとに驚いた。


「ウソだろ、上になんて報告するんだよ……」


 俺は事の重大さを感じると王城に向けて書状をだした。




 題名「緊急、国境付近に巨人出現、国王軍の応援を要請する」

 きっと、斥候の情報がデマだったら俺の首は軽く飛ぶ。




 緊急の文言がよほど効いたのだろう。(巨人という文言のせいだろう)

 いつもは貴族の来訪にも3時間も4時間も待たせて俺たち門番の肝っ玉を鍛えてくるこの国のお偉方が大慌てでやってきた。


「国王軍、騎士団長、ヴィルヘルムである。このおかしな書状をだした責任者をここへ呼ぶのだ」


 俺は処刑される覚悟を決めながら、俺の一番上の上司の元へ向かった。



「ふむ。2回だした斥候がいづれも巨人を見たと申したということか」


 俺は全力で誤報であっても見たのは自分じゃないと責任をできるだけ逃れる方向で説明した。


「念の為ということもある。私の大隊を駐留させ、一時的にこの城門の指揮権は私が預かる。報告ご苦労であった」


 ひとまず命拾いだ。巨人発生という大事件に誤報であっても誤報でなくても門番長である自分にはとんでもない災難だと。俺は門番長室の下座で、本来目も合わせない身分差の騎士団長に見つめられガタガタ震えた。


 しばらくして騎士団長と城壁の上に行くと、少し先に例の巨人とその肩に乗る貴族らしき赤髪の少女と従者のまだ若い騎士が現れた。

 俺はひとまず誤報では無かったということで命拾いしたのであった。





「私はアルデンヌ家が三女、ルル・アルデンヌ、ベルデ王国の政変にともなって王国の庇護を求めます」


 ルルはその小さな体のどこからそんなに大きな声が出るのだろうかと言う声量で声を張り上げた。


「私は王国騎士団長ヴィルヘルム・リトリアである。用件了解した。ただいま、国王に確認中だ。しばし待たれよ」


 それに答えるのは城壁の上にいる白髪の混じってもなお力強さを感じさせるいかにも軍団を率いてそうな壮年の騎士であった。


「王国騎士団長、それも王族に名を連ねるヴィルヘルム様直々の対応感謝します。分かりました、しばらく待ちましょう」


 ルルは目でギルと僕にそのまま待機しているように指示した。



 30分ほど待った頃であろうか、ぽってりしたお腹にノホホンとした顔をして周りに屈強な騎士を従えて歩くおじさんが城門の上に現れた。

 そのおじさんは見た目はただのおっさんなのに不思議とそこにいるだけで不思議な存在感を放っていた。


「余はリトリア国王、レオナルドである。そなたらの話を聞きにまいった」


 まさかの国王直々の登場に、ルルは声の調子はいつもどおりに言った。


「国王様に発言する許可を頂き、感謝します。それでは私の要望と、この国にとって有益になりえる情報をお話いたします……」


 声は普通でもその背中がたしかにビクついたのを感じて僕はいざとなったらこの子を守ろうと思った。


入国まで行こうと思ったんですがそこまでいきませんでした。

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