46話 ギルとの再会
「ギル、久しぶりね」
ルルはヴェルヘルムの陣営から各領地ごとに割り当てられた陣営に移動すると、ギルにそう話しかけた。
「ルル様の役に立つ騎士になるために王都で学んでまいりました」
ギルは以前のまだアルデンヌ家の家臣だった頃よりも経験を積み、少しばかり丁寧になった口調でそう答えた。
「ええ、そのようね」
ルルも笑顔のまま、そう答える。不思議とその笑顔は恐怖を感じるものであった。
「武術に、政治学、経済学、医学について広く学んでまいりました」
ギルもルルの異様な雰囲気を感じ取ったのだろうか、イケメンも台無しといった若干青ざめた表情に冷や汗をかきながら自分の学んできたことを述べた。
自分以外がこのルルが怒ったときの異様な雰囲気を受けるのが面白く、スグルはルルの後ろでギルに見えるように満面の笑みを浮かべると、ルルの前でギルを笑わせようと変顔をかました。
しかし、ギルは青ざめた顔から一ミリも表情筋を動かすことはなく、代わりにフィンが吹き出した。
「フィン?」
一瞬、ルルの覇気とも言えるなにかがフィンに向き、フィンはブルっと震える。そしてそのまま何故か、ルルの背中から恐怖を感じるなにかがスグルに向け放出された。それは決して見えるものではなく、臭うものでもなく、ただ、恐怖という純粋な感情を感じさせるものだった。
スグルは恐怖で震えると、なぜか男の子の切ないところがキュンとなった。
ルルは、満面の笑みを浮かべると言う。
「ええ、ギルが学んできたことはこれからのアルデンヌに役立つわね」
「そう、願っております」
ギルはただ、そう答える。
「で、ギル、言わなきゃいけないことがあるんじゃないかしら」
ギルは覚悟を決めた顔になる。そして以前スグルの手紙で読んだあれを行うしかないと直感した。
秘書官兼研究者のマッドが頼み事をするときに行い。スグルが時々、ルルの怒りを鎮めようと行うアレ。別にリトリアでもベルデでもそんな行いが正式にあるわけではないが、なぜかその行為は最大限の色々を表現するのにふさわしいとギルは思った。
ギルは左足を引き、そのまま左ひざを地面につけた。
「ちょ、どうしたの? ギル?」
いきなりのギルの行動にルルは困惑する。
しかし、ギルは何も言わず、今度は右ひざを地につける。
そして、大きく息を吸い込み、王都で散々鍛えたのか体がぶれて見えるほど高速に両手を地面につけ頭を地面にえぐるように叩きつける。
それはマッドやスグルとはレベルの違う土下座であった。
「すみませんでした!」
ルルはポカンとすると目をぱちくりした。
それは普段のギルのイメージからは想像できないような姿であった。綺麗な金色の髪は泥がついて汚れている。まさにイケメンが台無しといった感じだ。
「あ、あの」
「わかってます。まずは勝手に家を抜けたことを謝罪しなければいけない。それから仕え始める。そういうことですよね」
ギルはもう、震えまいと落ち着きを取り戻した口調でいった。
「ああ、もう! 違うわ! 誰も彼も私の周りはみんな地面にキスをする趣味があるみたいね! そりゃあ、勝手に家を抜けたのは怒ってるけれど、私を思っての行動……ってのは聞いてるし! それにね! 帰ってきたらまずは、ただいま……でしょうが!!」
ルルもはじめは叫ぶように言っていたが後半はもう、涙が溢れてきてヤケクソみたいになっていた。
「あ、え、た、ただいま、戻りました!」
ギルははじめはキョトンとした風であったが、ルルの真意を感じると思わずといった風に目尻に涙を浮かべる。
スグルは何気にギルの涙を見るのは初めてだな。と思いながらも思わず涙が溢れてきた。
心の底からギルがアルデンヌ家に戻ってきた瞬間であった。
遅くなりました。
やることが片付き始めたのでぼちぼち更新頻度上げていくつもりです。
ぜひ次も読んでもらえるとありがたや~。




