表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

46/95

45話 出兵命令

 ベルデ王国の侵攻の知らせより数日後、ピレネーにも正式に出兵の命令が下された。

 王都で舞踏会やらやっている間にも国の上層部は来るベルデ王国の脅威に対抗するべく準備を行ってきたらしい。

 驚くほどの手際で各地の諸侯たちをまとめ上げると軍勢を二手に分け、西と東にそれぞれ軍勢を派遣し、ベルデ王国の侵攻に備えたのだ。

 ピレネーには後発の軍勢として十分な準備を行った上で南東の陣へ向かうように命令が下された。


 敵の軍勢は甘く見積もっても南東に向かう本隊が3万、南西に向かう別働隊が2万という斥候の情報である。

 対するリトリア王国側はもともと数年単位で準備してきたベルデ王国に比べ脆弱で全部合わせても2万5000。それも殆どが民兵の弱兵であった。リトリア王国は1万5000を南東、残りの1万を南西へ配置した。

 冬の間に雪に耐えながら作られた国境沿いの要塞を守りきれるかが、この戦争の勝敗を決めると言っても過言ではなかった。



 ルルは志願した兵を見渡した。下は10代から上は60代ほどの老人までいる。ルルはそんなピレネー軍を前にこの1年間ほどで見違えるほど板についてきた領主としての態度で声を張り上げる。


「みんな、今日、ピレネーは我がリトリア王国を守るべく、出兵します。リトリア王国を守ることはすなわち、ピレネーを守り、そこに住むあなた達の家族を守ることになります。私は、ピレネー領主として東でベルデ軍を迎え撃つ義務があります。みんなの力を貸して!」


「「おーーーーーー!!」」


 この1年ほどですっかり領民の信頼を得ていたルルは盛大な掛け声でもって受け入れられた。


 目指すは東に築かれた要塞、バイガルド要塞である。


 

 バイガルド要塞へ向かう道中。


「本来まもるべき領民を焚き付けて兵士にして、領民を守るべく戦争をする。それっておかしなことね」


 ルルはスグルの左肩の上でそうつぶやいた。それは先程、志願兵1000人の前で演説した領主その人には見えなくて、ただ普通の女の子がそこにいるだけに思えてスグルはどうしようもなく切なくなった。

 自分には巨人として戦うことしかできなくて、気を利かして話すことも、安心させるように撫でることもこの大きな手じゃできなくて、スグルはすこしでも自分もその悩みを共有しようと口を開いた。


「僕もそう思う、でも確かに、ルルや戦う人がいるおかげで救われる命もある。僕も、すこしでもピレネーやリトリアの人たちに被害が出ないようにこの巨人の体を使ってみんなを守るよ、だってこの体、弓矢が植物の棘みたいなものなんだ。みんなを守る盾としちゃ超優秀だよ」


 そう、スグルが内心の不安を押し殺してルルを安心させるように言うと、ルルは目に涙をため、言った。


「スグル、ベルデ王国は守り石を使った新兵器を開発したって、その威力は弓なんかとは比べ物にならないって聞いたの……。スグル、私、もう家族みたいに思う人が周りからいなくなるのが嫌なの」


「大丈夫、今回はスミスがちゃんとした盾も作ってくれたし大丈夫だよ」


 スグルはルルを安心させるようにゆったりした口調でそう言うと、背中に背負った巨大な盾を横目で見た。



 数泊してピレネー軍はバイガルド要塞のリトリア軍本隊と合流した。

 ここの総司令官はヴィルヘルムで、とんでもない采配をしそうなイェーツは南西の要塞の司令官らしい。南西の要塞が非常に心配だとスグルは思った。

 そんな情報を聞きながらルル一行は総司令官ヴィルヘルムに挨拶に向かった。


「よく来てくれた。実はリトリアの国力からするとあと1万ほどの軍勢は集まるはずなのだが出兵を渋る諸侯が多くてな。国が滅びればどうしようもなくなるというのに情けない」

 

 ヴィルヘルムはそれが本音というように少し疲れたような声音でそう言った。


「それは……」


「いや、そなたに言っても仕方ないことじゃな。そうだ、そなたのところから預かったギルだが、もう教えることは全部教えたからこれを機にアルデンヌ家に王国騎士団からのお付きということで返そうと思う。流石に人工守り石を生み出したピレネーに謀反の可能性が高いという者はもういないからの」


 そう、ヴィルヘルムが言うと、ギルがやってきて挨拶した。


「王国騎士団からアルデンヌ家付きとなりました。ギルでございます。よろしくお願いします」


 ギルは真面目な風にあいさつした。


「ええ、これからよろしくね。ギル」

 

 公式にはギルはすでにルルの家臣ではなかったので他人という扱いなのでこの挨拶は当然なのだが、二人が真面目に挨拶するものだからスグルはなんだか面白くなって笑い出すのを必死にこらえることになった。そんな風にスグルが耐えていると、フィンが尋ねた。


「あの、私は入れ替わりで王国騎士団に復帰するのでしょうか?」


 そうであった。フィンはもともと王国騎士団からの出向だったので入れ替わりで戻るとしても不思議ではなかった。ルルが思わず、「えっ」というと、ヴィルヘルムは笑いながら言った。


「フィン、相当に信頼を掴んだようだな。これからもアルデンヌ家を支えよ。リトリアの勝手をしっておるものはこれからも必要だろう」


 ルルは思わず声が出たのが恥ずかしいのか顔を赤らめながら。


「ご配慮ありがとう存じます」


 そう、言い。フィンも、


「これからもアルデンヌ家に使えます」


 そう言った。


 そうして、ルル家臣団はギルを加え、ベルデ王国を迎え撃つことになる。

 

ブックマークありがとうございます! 嬉しくて早く投稿できるように頑張りました!


そういえば、名を授けるっていうのはなんだろう、身内以外は姓をもらうというより、その家に心から仕える御家人みたいな設定です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ