44話 雪と。
スグルは目覚めるとなんだかいつもよりも肌寒さを感じて思わず藁束を集め直した。
スグルサイズのベットがあるわけもないのでそのベットは洞窟を削った岩の上に藁を敷いてあるだけという地球のそれと比べたらレベルが違いすぎて笑っちゃうくらいの代物であったが、ここまで寒さを感じるのは初めてであった。
スグルはこれはもしや……。と思うと、外の様子を見ようと最近くたびれてきた愛用のジャージを纏うと屋敷の外へ向かっていった。
「いやー、雪だなあ」
スグルは見事に白一色となった景色を見てそうつぶやいた。
小さい頃はなんだか雪が積もると無性に嬉しくなったものだが、だんだん年齢を重ねるごとに煩わしくなっていったなあとスグルは感慨深げにうんうん、とうなずく。
「あら、スグルがこんなに朝早くからそとにいるなんて珍しいわね」
スグルがぽけーっと景色を眺めているといつの間にかに横にいたのか、ルルがそう言った。
「いや、雪って渋滞やら遅延やらでめんどくさいなあと思ってたけど、この自然豊かなピレネーだとなんだか清々しい気持ちになるというか……」
「私も好きだわ。この景色。なんだか、自分の心が真っ白な雪できれいになるみたいな感じがするもの。あ、えっとそうそう、渋滞とか遅延ってスグルの世界の話なの? スグルはもともと別の世界に住んでたんだもんね」
思わず、本音を言ったのが恥ずかしくなったのかルルは話題を変えるように地球のことについて尋ねて来た。
「ああ、電車っていう大きな箱に何百人って乗れる乗り物があって……」
そういう風にしばらくスグルとルルが地球のことについて話していると不意にルルが尋ねた。
「スグルって地球に帰りたいって思ったりしないの?」
スグルは一瞬ドキリとしたが、ゆっくりと言った。
「そりゃあ、ふとした時に帰りたいなあって思うこともあるよ……でも、なんだかんだ仕事をしていると楽しいし、す、好きな女の子もできたしね。家族に心配かけてると思うからそれだけはなんとかしないと思ってるけれど、正直、この世界のみんなと離れるっていうのが想像できないんだ」
ルルは帰りたいという言葉に一瞬寂しそうにし、好きな人という言葉に顔を赤くし、最後の離れる気はないという言葉に安堵した表情をするという風に顔中の筋肉を忙しく動かすと言った。
「私ね、スグルの離れたくないって言葉にすごく安心するの。それってまだどういう気持ちなのかまだ私にはわからないけれど……。スグルの気持ちにもギルの気持ちにも王子様の気持ちもいつかはちゃんと答えるわ。だからこれからも私に力を貸してちょうだい」
「ええ、もちろん、好きな女の子に頼られるのは男の存在意義ですから」
そんなこんなで、雪の中二人は若干惚気気味に話したのだが、領主たるルルはもちろん雪が降ったことにともなう数々の問題を解決していかねばならない。
相変わらずルルは逃げ出そうと悪あがきしたが、すでに逃亡経路はマルクにすべて抑えられていてルルは領主の椅子に座って終わりの見えない仕事を延々とこなしていくこととなった。
しかし、そんな忙しそうにするルルよりもスグルのほうが忙しかった。
雪で埋まった道路を開通させたり、街中の家々の屋根から雪を下ろして、その雪を町外れに運んだりと、主に終わらない力仕事をこなし続けた。
「いやー、巨人様がいるおかげで冬の内職がはかどりますよ!」
「いえいえ、仕事ですから」
スグルはそんな感じでひたすらもくもくと仕事をこなしていった。
そんな風に仕事をこなしていたら気がついたら雪も溶け始めて、ちらちらと草木の新芽が見え始めてくる季節になった。
そんな春の気候にスグルとルルはホールでベアとじゃれあい、のんびりした気分になっていると屋敷の本館にある男が現れた。
すす汚れた白衣を着ているわりに眼鏡と持ち前の金髪はなぜが不自然にきれい。
守り石合成の研究でルルとシットで出資したマッドであった。
「完成しました。できて、できてしまったのです!」
「もしかして、人工の尾守り石が?」
「はい! そうなのです! できてしまったのです!」
「で、どうやって?」
そうやってルルが聞いたのが間違いだった。そのあと3時間ほどルルと家臣一同は分かりもしない科学の話を延々と聞き続けることになった。
「わかったわ。とりあえず、完成した守り石を王都に送るわ。ただ、効力は本物よりも下がるのね」
「はい、やはり人工には限界があるようです」
「仕方ないわね」
そう言うと、ルルは王都に手紙を送った。
そして、ピレネーに作られた工場で人工守り石は量産を始めることになった。
数週間後、無意識に考えまいとしていた。
ベルデ王国が再び侵攻を始めたという情報がピレネーに伝わった。
待っていた方いたら遅くなりました。すみません。
すみません、忙しくて投稿頻度落ちます。
ついに、ベルデ王国が迫ってきましたね。




