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42話 開園! アルデンヌサーカス

 スグルは屋敷のベットから体を起こすと、過酷な労働で鉛のように重い体を叱咤して、ルルと一緒にベアを伴うと、町はずれに建設されたテントへと向かっていった。

 まだ、薄暗い早朝の朝、たどり着いたサーカス会場になるテントは、Uの字に座席が作られ、その上に布を張って屋根にした独特な様式となっており、それはそれで、安っぽさはあれど、なかなかいい味を出していて、スグルは好みであった。

 それは、この世界の人も同じ感覚だったようで、昨日の夜にはなかったはずの骨組みにぼろ布をかぶせただけのどこかサーカス会場のテントと似た雰囲気の出店が会場周辺に建てられていて、領民たちの新領地を盛り上げるんだという活気が満ち溢れていた。


「ルル、なんかにぎやかで楽しいね」


「そうね、宣伝して一週間もたってないのに他領から見物している人がたくさんいると聞いているわ」


「宿とかは足りたんですか?」


「さすがに間に合わないから、平民向けには普通のテントを開放しているわ」


「さすがに、そうですよね。そういえば今回は王族や貴族も何人か来るんですよね」


 今回は貴族の代表格である第一王子も訪れるらしい。さすがに王族が来るともなれば、それなりに格式の高い宿を用意しなければならないのだが、アルデンヌ領になってから半年ほどでそれまではただの寂れた王国直轄領だったので、当然、格式高い宿など存在しない。そのため、今回は本格的な修繕が終わり、町の中心の役場となった旧領主屋敷を貴族向けの屋敷として開放していた。

 

「いや、ほんと修繕しておいてよかったですね。旧領主屋敷」


「そうね」


 ルルも笑いながらそう答える。


「いやほんとに、ちょっと? いや、かなり? お金にがめついところがあるルルが、修繕なんてしなくていいわよお金がもったいないし。とか言ってたのが懐かしいですね。ほんと直した方がいいと説得したシットさんに感謝しないとですね」


「……。悪かったわね。お金にがめつくて」


「ヒッ!」


 スグルはまたやっちまったか! と思って思わず右手でルルの叫び声をもろに受けそうな左耳を押さえたが、しかしルルはため息をつきながら言う。


「今日は怒らないわ。特別よ」


「ありがたや」


「もう、馬鹿にしてるのかしら」


 スグルとルルはなんか面白くなってお互い笑いあった。

 そんな風に二人で楽しそうに出店を回って店主から食べ物をもらったりしながら会場を一周すると、テントの入り口のところでスグルはルルを降ろす。


「じゃあ、期待していてください。ルルは貴族の対応頑張ってね」


「ええ、私よりも上位の貴族を相手にしなければいけないから緊張するわ」


「僕もです」


 二人は頑張ってとお互い言いあうとそれぞれの仕事へと向かっていった。



 スグルはまだお客の入っていないサーカステントで最終のリハーサルを行った。


「よし! ベア、いいぞ! 本番もその調子でお願いね」


 スグルはリハーサルを終えると、ベアのもとへ向かってわさわさとモフモフの体表をなでた。


「クマ、クマ」


 ベアは嬉しそうにスグルの腕にほっぺを擦り付けた。 

 こ、この、か、かわいいじゃねえか。とスグルは思った。

 スグルがそうな風にベアとじゃれていると、スグルの相棒であり、ライバルである人物がやってきた。


「スグル、ルル様に呼び捨てで呼ぶ許しを得たそうじゃないか。騎士失格だね」


 ギルは親し気な笑みを浮かべながら馬を引いてやってくる。


「ギル! そっちこそ、いきなり騎士をやめるなんてそれこそ失格だ」


 二人はどっちも失格だなと言うと、どちらからともなく笑い始めた。



 そうやって再開した二人は他愛もない話をして盛り上がっていると、ギルがそういえば、と前置きすると言った。


「いや、どっちも同じ女性を狙ってるんだからもっと邪険な雰囲気になるのが正しいんだろうけどスグル相手だとなんかそんな感じにならないよね。まあ、私は負けないけれど」


「僕も、負けないよ!」


 ギルの余裕の笑みにスグルは負けじと言い返す。


「でも、私に乗馬の披露の機会を与えるなんて、自分からアピールの機会をあたえるようなものじゃないか。そんなに余裕なのかい?」


「あ」


 ギルはあきれた顔になりながら言った。


「どうやらそこまで考えてなかったようだね。いまさらやらせないってのはなしだよ」


「も、もちろんだとも。そ、そうだ。試しに乗馬見せてよ。手紙に書かれたことが嘘じゃないかを確かめるためにジャンプ台とかも用意したから」


 スグルは座席に沿うように作られた乗馬コースを指さしながら言う。


「いいとも」


 そこで、披露された乗馬はすごくかっこよかったとだけ言っておこう。




 それから2時間ほどたつと、平民の入場が終わり、貴賓席に貴族と王族であるチャールズ第一王子を連れて主催であるルルがやってきた。


「今回はリトリア第一王子、チャールズ殿下もご鑑賞に訪れております。これより、アルデンヌサーカスを開催させていただきます」


 フィンの開会宣言でサーカスは開幕した。


「こちらが、巨人であり、優秀な調教師でもある。アルデンヌ家が誇る騎士であるスグル殿です」


 会場からは盛大な拍手が起こったが、しかし、貴族にとってはあまりおもしろくないのか王子以外からはまばらな拍手が起きるのみであった。

 スグルはその様子に若干苦笑いになりながらも、ベアを呼んだ。


「サモン! ベア!」


 地球では中二病としか言いようのない言動であったが、スグルは何気に()()()()()は好きであった。すると、言葉に答えるようにピレネーの守護獣であるベアの可愛い鳴き声が聞こえたかと思うと。あらかじめ仕込んでおいた、空から見るとUの字の客席の入り口のちょうど逆側の座席のあたりにおいてある箱をベアが突き破って降りてきた。


 予期せぬところから現れたからか、客たちは悲鳴を上げると、仕掛けに気付いて興奮したように歓声を上げた。


「では、まず火の輪くぐりをご覧にいれます」


 スグルはアシスタントとしてお願いしているベンにすでに並べられている輪に火をつけるように促した。


「このように、ベアと同じような大きさの輪に火をつけました。いまからそれをベアにくぐってもらいます」


 観客は静まり返ると、じっと芸に集中した。


「ベア! 行け!」


「クマ!」


 まず一つ目。ベアが火をもろに浴びながら出てきた迫力からかあちこちで女性のキャ! といった声があがる。


「クマ!」


 二つ目。今度は客も流れるように輪をくぐるベアを真剣に見つめた。


「クマ、クマ!」


 そして最後に。二つ連続の輪をベアは一回のジャンプで潜り抜けて見せた。

 たまらないとばかりに会場では盛大な拍手が起こっていた。さすがの貴族もこれには脱帽という風にしっかりとした拍手を送っていた。


「よし! よかったぞ!」


 スグルはご褒美の魚をフィンに投げてもらうと、そのままベアをわしゃわしゃと撫でた。


「次はボール乗りだよ、ベア」


「クマ!」


 ベンに目線で合図を送ると、ベンはボールを中央まで持ってきた。


「これより、ボール乗りを披露します。行け! ベア!」


「クマ!」


 ベアは練習の時のように器用に前足をボールに乗せると、後ろ脚をけってすべての足でボールの上に乗った。


「ベア! 前進!」


「クマ!」


 ベアは足を細かく動かすと器用に前進した。


「右折」


 左右の足の速さを微調整しながら器用に右に曲がる。


「停止」


「クマ!」


 ベアは停止する。


「よし、そのまま立て!」


「クマ、クマ!」


 ベアは器用にバランスを取りながら後ろ脚の二本で立った。


 スグルはこれで決まりだというように練習での成功率の低かった大技を命令した。


「お辞儀だ! ベア!」


「クマ!」


 ベアはクマなので頭を下げると途端にバランスが悪くなるため、お辞儀の成功率が非常に低かったが、今回はキレイなお辞儀を披露していた。目の前は貴族や王子、ルルのいる貴賓席なのでぴったりの技であった。


 スグルもベアに合わせてペコリとお辞儀をすると言った。


「これで演目を終わります。ありがとうございました!」


 会場からは一人と一匹に対する惜しみない拍手が送られた。



ついに10万字です。文庫本一冊分です。これで俗に言う10万字ブーストとやらが来るはずです。僕はそう信じます。

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