41話 開園前夜! アルデンヌサーカス
動物園といえば普通、数十もの動物がいて園を回りながらいろいろな動物を見るものだとスグルは思う。
しかし、アルデンヌ領ピレネーで開園する動物園は動物はアルデンヌ領の守護獣であるベア一匹だけであるし、動物園にも動物ショーはあるけれど、ピレネーのそれは動物園よりはサーカスに近いんじゃないかとスグルは感じ始めていた。
「ルル、もうこれサーカスなんじゃないかと僕は思うんだ」
スグルはベアとの芸の練習の休憩時間、ホールで同じく休憩していたルルにそう言った。
「サーカス? なにそれ」
ルルが言うと、フィンもベンもマルクもそして、意外なことにシットもサーカスを知らないようであった。みんな同じような表情になる。
「サーカス、聞いたことない言葉ですが、どのようなものでしょうか?」
シットが代表するように聞く。
「なんて言うんだろう、僕も詳しいわけじゃないし、行ったこともないんだけれど、お客さんがたくさん入るテントを建てて、中で動物の芸や人間の曲芸を披露するんだ」
「ほう、テントで披露するんですね。ルル様、これはいいのでは?」
「そうね、テントであれば不定期開催というこの用途にはぴったりだわ。それになんだかわくわくするわね」
スグルはああ、これスイッチ入れちゃったやつだわ。と思った。
「でも、あと二日しかないから、少なくとも今回はできませんね?」
スグルの言葉が疑問形であることからも分かるように彼はすでに半分あきらめていた。
「いいえ、スグル。あなた、もう技は完璧って言ってたわね」
「言った、かもしれないです」
スグルは、汗をだらだら垂らしながら言う。
「言ったわ。得意げな顔でね」
ああ、なんで僕はいつも無駄なことを言ってしまうのだろう、スグルは自分がどうしようもない奴に思えた。
「はい」
「分かったわね」
ルルは有無を言わさずの顔で言った。
「何をでしょう」
だめだろう、そう思ってもスグルは不屈の心で聞き返す。
「もういいわ、命令よ。二日以内にそのサーカスに使えるテントを建設しなさい。あ、そこの部屋から抜け出そうとしているフィンとベンも一緒によろしくね」
スグルに押し付けて逃げようとしていたフィンとベンも巻き込まれる形でスグルたちはテントを建てる羽目になった。
ただ、救いなのは予算がそれなりに潤沢にあるということだけであろう。
スグルは領地改革のときのプレハブ建設を手伝ったときの伝手を使って領民の助けを募集した。
もう、どうにでもなれということでそれなりに賃金を良くして募集したら、一日12時間労働というブラック極まりない募集要件でも領民は喜んで集まってきた。
さすが、元は小作人で大変な暮らしをしてきただけあって彼らは強かった。
スグルは、テントに使う布を製作する、主に女性を主体としたチームをフィンに任せると、骨組みを組む猛者のあつまる男衆を一か所にまとめた。
「えー、製作期間、そして収容人数の条件、そして僕が入れるようにするということ考えた結果、Uの字型に座席を作って、その上に屋根として布を張るということに決定します。あ、それと便座カバー」
スグルはUの字と言って、なんだか便座カバーといわなきゃいけない気がした。
もちろん、そんな地球のネタが伝わるはずもなく、男衆は真剣な声音で話し始めた。
「おい、便座カバーというのはなにかの技術の名前だったりするのか」
「いや、普通に座席に便座カバーを敷くということじゃないか?」
「いやいや、普通に考えて座布団でいいだろ、それ」
スグルはこれ、無駄なこと言っちまったなあと思った。仕方あるまい。スグルは大嘘をつくことにした。
「これは、そうです。王都で聖女ルル様を表立って呼ぶと、既存の宗教勢力と無駄な対立を生むことになります。そこで我々は決して崇拝するのに使わない言葉として便座カバーを採用することに決めたのです」
スグルは話し始めると調子に乗るタイプであった。
「そう、便座カバーのように我々をやさしく守る。それこそがルル様でしょう! Ah! それと便座カバー!」
この世界、民衆に教養はなかった。
「「それと、便座カバー!!」」
「よろしい、では説明を続けよう」
そうして、このスグルの暴走はのちに事態をしったルルによってスグルが金的を食らうという事態をもたらすことになる……。
という、スグルの暴走もあったが、テントの建設は高賃金の募集で人手も十分であったため、再利用可能に骨組みを加工した立派なテントが1日と半分で完成した。しかし、できたはいいものも、あたりはもうすでに真っ暗で半日後には初日の公演が始まるので忙しい。
「では皆さん、工事お疲れ様です。明日からの催しは今後のピレネーの観光業を左右すると言っても過言ではありません。明日からも頑張りましょう!」
「「おお!」」
スグルは明日からも公演があるので、さすがに寝ないとまずいと、屋敷に戻るとそのままベットに潜った。
第一王子も来るらしいしなあ。そうルルが言っていたことを思い出しながらスグルはギルの手紙の内容を思い返す。
「ギルも来るらしいし、手紙で言ってた乗馬の技でも披露してもらうか」
手紙で動物園のことをギルに伝えたところ、ギルに肩入れしているヴィルヘルムが手引きして第一王子チャールズの護衛部隊に組み込んだらしい。
ルルを巡る3人が一堂に集まるのはこれが初めてだろう。そう思うと、スグルはなんだか、サーカスを成功させなければならないと強く思った。
「目立って、目立って、ルルに良く思われたい」
やっぱり男が頑張る理由なんてそんなもんである。
明日はついに開園の日だ。
ブックマーク1減りました。僕は不屈の心でもってエタらないことを誓うので、ブクマ、気が向いたらよろしくお願いします……。




