3話 襲撃
夜が明けようかという頃、はじめに異変に気づいたのはギルだった。
「金属が擦れる音がする」
スグルは少し目を開けてギルとアイコンタクトをとると寝返りをうつフリをしてルルを腕の中に庇った。
「そこにいるのは分かっているぞ」
ギルは油断ならない目つきで茂みを睨む。
「……」
返事の代わりに返されたのは数十本もの矢であった。
「危ない!」
スグルはルルをジャージの胸ポケットに多少乱暴に突っ込むと、ギルを庇うように腕を振った。
「死ぬ程ではないけど地味に痛え」
裁縫針が刺さるような痛みで、そこまで痛いわけではないがスグルの腕からは軽く血が出た。
「スグル! 足でそこの茂みを蹴っ飛ばしてくれ」
ギルの言葉に答えるようにスグルは大きく足を振りかぶると狙いをつける。
「食らえ!」
大きく振りきった足は茂みごと何人かの小人騎士を薙ぎ払った。
しかし、蹴りに巻き込まれなかった何人かがスグルの胸ポケットめがけて矢を放った。
スグルは胸を庇いながら、振り切った足の踵を使い、その数人を蹴り上げるが、人数が多かった。
次々現れる弓兵にスグルは足止めされた。
「く、この化け物は後回しだ! このガキからやるぞ」
指揮官らしき壮年の騎士が目標変更だというようにギルに向かっていく。
「私はルル様の騎士だ!」
ギルは自分より上手であろうその壮年の騎士と対峙すると柄が手に馴染むほど使い込まれたその剣を振るう。
「速いが、軽いな!」
ギルの剣技は軽く払いのけられ、間合いが詰められる。
「くッ」
剣閃が走りギルの頬が切れる。
「力がないなら速度で勝つ!」
ギルは頬が切れるのも厭わず、回避を最小限にとどめ次の斬撃を浴びせる。それが躱されれば、次を放つ。剣技の差を速さで埋めようと足掻く。
「そんな雑な剣じゃ剣技の差は覆せない!」
速さを意識するあまり、不用意に間合いを詰めたのが決定打であった。
「切れろ」
ギルの回避は間に合わない、利き手に深く切り込まれ、倒れた。
「謀反人の家臣でなければ線は良かったのだが」
そう言いながら壮年騎士は剣を振り上げる。
「楽に逝かせてやろう」
剣が振り降ろされると、ギルは目をきっぱりと開けると力を振り絞った。
「諦めるものか……!!」
剣がギルに届くより速く、ギルの左手は腰から短剣を掴むと相手の胸めがけて突き刺していた。
「グボッ」
深々と胸に刺さった短剣は壮年騎士にとって致命傷なのは間違いなかった。
「お見事、油断した」
ギルは自分の短剣が敵の指揮官を倒したのを見ると、意識を失った。
スグルが弓兵をあらかた倒し終わると胸ポケットから状況を観察していたルルが焦ったような口調で言った。
「ギルが倒れてるわ」
スグルもギルのいる方向を見ると、ギルが指揮官らしき騎士と相打ちになって倒れていることに気づいた。
「敵の頭を倒したみたいだわ、敵が混乱しているうちに逃げましょう」
スグルはうなずくとギルを回収して国境方向へと走っていった。
頭を失った敵部隊は追うのをやめたようだ。巨人の足の間隔で5キロほど走ると敵はもう視界の中にはいなかった。
休憩を取ると、ルルは屋敷から持ち出した薬草でギルの手当をした。
「ギル、怪我はどう?」
「右手がうまく動かないけど、他のところは大丈夫そうだよ」
痛むだろうにギルはルルを安心させるように落ち着いた口調で答える。
「ごめん、僕がもっと敵を倒せれば……」
それを見てスグルは申し訳ないといった風にうなだれる。
「私の実力が足りなかっただけだよ」
ギルも申し訳無さそうに答える。
「ふたりとも頑張ったわ、スグルが弓兵を倒さなきゃみんな危なかったし、ギルが指揮官を倒さなければ逃げられなかったわ。この話はもう終わり、無事に国境を越えるのが大切なことだわ」
私が一番何もできなかったじゃないの! と言いながら褒めるルルに励まされるとスグルは不思議と元気になった気がした。
国境までは巨人の足であと10キロほどらしい、敵に捕捉される前に先を急いだほうが良さそうだった。
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「巨人だと?」
場所はベルデ王国、宮殿、王座の間にて。
国王、ロリス・ベルデは報告を聞いていた。
報告が終わるとロリスは眉間にシワを寄せると唸るように声を発した。
「いまいち信じられないが、本当だとしたら、敵の切り札足り得るな」
少しずつスグルたちのもとにこの男の影が迫っていた。
前回のあとがきに書こうと思っていたんですが、左肩にヒロイン、右肩に相棒を乗せるのには深いわけがあるのです!!
それは……。
ASMRで左耳から囁かれたほうが心地良いからです!!!(僕が)
まあ、冗談はこの辺にして、(事実)
ここまで読んでくれた方がいたらありがとうございます。
次回からは国境を超えて巨人ならではの日常回を書いて、ヒロインと相棒との仲を深めていきたいと思います。
戦闘描写がどうも苦手でなにかアドバイスなどあったらお願いします。
では次回も読んでもらえることを祈りながら〆させていただきます。