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38話 王宮のパーティー4

 スグルとルルがお互いを呼び捨てで呼び合って激しく照れていると、フィンが落ち着いた、しかし、とげのある口調で指摘する。


「スグル、それにルル様、今、隣に王族の方がいるのを忘れていませんか?」


 フィンは今の今までスグルに放置され続けた恨みもあり、そう言った。


「できれば、私も会話に参加させてもらえると嬉しい」


 そうリトリア王国の誇る第一王子、チャールズは顔は微笑みながらも目が全く笑ってないという、非常に恐ろしい表情で言う。


「こちら、私のお抱え騎士のスグルでございます」


 ルルは慌てた口調でスグルを指しながら紹介した。


「こちらが有名な巨人騎士のスグル殿ですか、この間の戦では大活躍であったとか」


「いえいえ、みんなが協力してくれたおかげです」


 スグルは言い終わってからチラリとルルを見た。特に怒った表情ではないので特段悪い受け答えではないようだ。


「で、こちらのスグル殿の手の上で素晴らしい踊りを披露していたあなたは」


 王子はスグルの横にいるリリーを見て尋ねた。


「私は、ハルトマン家の長女、リリー・ハルトマンです」


「ああ、ハルトマン伯爵の、また機会があったら私と踊りましょう」


 王子は微笑みながらそう言うとまたスグルに向き直る。


「ルルは素晴らしい女性だね。君には()()()()()()()()ルルの信用できる騎士でいてもらえると頼もしいよ」


 やられた! 牽制いれられた! いくらちょっと抜けたところのあるスグルであってもさすがに分かった。この王子、ルルの良さを分かってやがる。というか、自然に呼び捨てで呼びやがって!


「はい、一生、そばでルルを守ります」


 スグルは自分、ルルと呼び捨てで呼ぶ仲ですよと子供っぽい対抗心を発揮させながら。

 異世界に来て、いや、生まれて一番に頭を使って受け答えた。

 これならば、一生ルルの騎士でそれ以上でもそれ以下でもないという状況を否定できるし、王子の発言を完全否定はせずにすむ。そして地味にスグルは、自分で言ったくせに今の発言かっこよくね? と思った。


「す、スグルそれって……私と結婚したいってこと?」


 ルルの声は最後はしぼんでしまって言葉になってなかった。

 しかし、何気にロマンチックなのが好きなルルはスグルのその言葉はストライクだったらしい。

 顔が真っ赤なリンゴちゃんになっていた。もう、赤髪とほっぺが同じ色だった。


「そうか」


 しかし、そんなルルをリンゴちゃんにしたスグルの発言はチャールズの王族としてのプライドに火をつけた。


「スグル殿、ルルに求婚したもの同士、私は決して君に負けるつもりはない」


 スグルが視線を真っ向から受け返すと、今度は王子はルルの方を向いた。


「ルルが求婚を断ったのは了解した。しかし、私は君に惚れてしまった。いつか君を頷かせるような王子になってみせる。で、残念ながら私はこれで王子として諸侯にあいさつをしてまわらなきゃならないから、今日はこれでお別れだ。ルル、よければ、最後に手を許してはもらえないだろうか」


 手を許す? とスグルがきょとんとしているとチャールズは片膝を床につけるとルルの前でしゃがみこむ。


「え、ええ」


 激しく顔を赤らめながらルルはチャールズに手を差し出した。

 チャールズは手を取ると軽くキスをした。スグルはき、き、き、キス!? と、激しく動揺した。


「では」


 チャールズは余裕たっぷりの笑みをスグルに向けると有力貴族たちにあいさつをしに向かっていった。



 

 そんなわけで、ルルは無事に? 王子の求婚を断ると、パーティーの次の日には王都を出立した。

 急な出立で王子は見送りに行けなくて悔しがったというのはギルからの手紙に書かれていた。

 なんだかんだで、スグルはギルと手紙のやりとりを始めたのだった。

 大抵はスグルがルルとの惚気話にも満たないような日常のやりとりをベンの代筆で書き、ギルがルルの様子を尋ねる。そんな内容であった。まあ、二人で最強の騎士になるという約束もあるのでこういうことを訓練に取り入れたとか、そういう騎士らしい話題もあるにはあるのだが、やっぱりルルについてが半分、いや8割ぐらいを埋めていた。


 そんなわけで、時は少しさかのぼり、パーティーが終わってフィンと二人で宿の中庭で話している場面。


「あのさ、フィン」


「なに?」


「手を許すってどういう意味があるの?」


「ああ、男性が好意を持っている相手にするあいさつみたいな意味かなあ。別にこれって決まった意味はないよ」


「そうかあ、特に相思相愛になったとかそういうわけじゃないんだね」


 スグルは安心したというように言った。


「まあ、そうかな」


  そう、フィンが答えるとスグルは思い出したように言う。


「そういえば、王子様、ルルに求婚したもの同士って言ってたけど僕まだ求婚してないよね?」


 スグルはいつそういうことになったんだろうと思っていた。だってルルに結婚してくれなんて言った覚えはない。しかも王子とあったのはあの少しの間だけだ。


「え? スグル、自分で気づいてないの?」


「はえ?」


 スグルが間抜けに問い返すのでフィンは呆れたとばかりに大きくため息をついた。


「普通、一生そばであなたを守りますって言ったらどういう人が当てはまると思う?」


「そりゃ生涯を共にする伴侶とか……アッ!!」


 スグルは間抜けな声をあげた。それに近い言葉を最近どこかで聞いた。というより、言った。


「僕、もしかしてルルに求婚したことになってる? しかも王子様に喧嘩を売る形で……」


 スグルは真っ青な顔色になった。


「まあ、そういうことになるね」


「ルルも求婚って認識してる?」


「まあ、少なくともそれに近い認識はされているだろうね」


 スグルは頭を抱えた。フィンは笑いながらもスグルを見て言った。


「私は王国騎士団所属だけど、ギルでもなく王子様でもなくスグルを応援するよ」


 スグルはフィンを見る。


「ありがとう! 親友だよ! 僕たち!」


 フィンは苦笑いでそれに答えた。


GWは投稿頑張るつもり

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