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37話 王宮のパーティー3

「そろそろ、疲れましたわ」


 何曲か踊ると元来、華奢なお嬢様であるリリーは疲れたようでそうつぶやいた。


「そうだね、僕もこの態勢のまま腕を上げてるとさすがにきついや」


 スグルが苦笑いでそう言うと。


「あら、スグル様は遠回しに私が重いといいたいのかしら?」


 ジト目でそう言われるものだからスグルはタジタジになる。


「ち、ちがうよ! ほら、何も持ってなくても腕をずっと固定したまま上げてるとつらいじゃない? どちらかと言うとリリー様は軽いよ!」


「あらそう」


 さっきはジト目で言ったくせにリリーはそっけない風に返した。


「もしかして、僕をからかったの?」


「どうでしょう?」

 

 スグルははあとため息をつきたくなった。ルルは良くも悪くも子供っぽいところがあるので、こういった風に手玉に取られることもないのでなんだか新鮮な感じだった。まあ、スグルの感じるルルの良さはそういう子供っぽいところでもあるのだが……。


「あら? スグル様、王子様とルル様がいらっしゃいましたよ」


 そう言われてスグルがその方向を見ると、王子とルルがなにやら話しながらスグルたちのほうへ向かってきていた。


「あら、スグル様どうしたんです? そんなに苦虫を噛み潰したような顔をして」


 その表現はちょっと行き過ぎであったが、スグルが不機嫌そうな顔になったのは確かであった。

 

「ちがうよ、ちょっとほら。そう、古傷が痛んだんだよ」


 それはスグルの大嘘であったが、リリーは深くは突っ込まなかった。

 今の自分がルルに到底かなわないことなどスグルの表情を見れば一目瞭然である。

 この少女、初めは打算的にスグルに近づいたのだが、ちょっと関わりあいを持ってみると、やさしい方ね、多くの貴族の腐った性根とは全然違う。そんな風に思い始めていた。

 まあ、やさし気なその表情の裏では常に腹黒い計算がめぐらせてあるのだが。

 すると、少女は目の前にいるスグルですら気付かないほど少し、口角を持ち上げると。


「スグル様、そういえば、私のことリリーと呼んでくださりませんか? それと、よろしければ私もスグルと呼ばせていただけると嬉しいです」


 スグルは目を見開くと、パチリと一度瞬きした。

 その目が閉じた一瞬の刹那、スグルの中に過去の記憶がよみがえってきた。


 小学生時代。


 他の男の子たちは女の子をちゃん付けで呼んでいたのに、スグルがちゃん付けで読んだら、「キモイ」と言われてさん付けに変えさせられた。


 中学生時代。


 境遇はさらにひどくなった。さん付けで呼んだら話しかけないでと言われた。ひどすぎる。借金。


 高校時代。

 

 そもそも話しかけるなオーラがすごかった。H Cu Hg Ag ……。


 そして、異世界。


 スグルはちゃん付けもさん付けも飛び越えて女の子を呼び捨てで呼ぶチャンスを手に入れた。

 泣きたくなった。というより、この視界の感じからして、涙が垂れるのをギリギリで持ちこたえていると言っても過言ではなかった。


「り、リリー」


 スグルがそう、勇気を振り絞って言うと、リリーは満面の笑みになると答えた。


「はい、スグル」


 感動であった。女の子が自分を呼び捨てで呼ぶ。それだけの行為がスグルにとっては素晴らしい出来事であった。

 まあ、ルルにはいつも呼ばれているけれど。

 思いだしてみれば、自分、地球じゃ「お前」呼ばわりだったなあ。別に「お前」って呼び方自体は嫌いじゃないけどね。想像してみ、ちょっとギャルっぽい女の子が恥ずかしさをにじませながら「お、おい、お前」とか言ってくれちゃったらそれは兵器じゃないか。でもね。

 僕、ケダモノに投げかけられるような口調でそれ、言われたのよ……。

 スグルは、そう過去を思い返していた。


 そう、スグルが感動で震えているとすぐ真下で背筋が凍るようなまるで氷柱のように冷たい口調でルルの声が聞こえてきた。


「へえ、名前で呼び合う仲になったのね。それも呼び捨てで」


「る、ルル様」


 スグルが無意識に背筋をまっすぐにして答えると、ルルは今度はしょんぼりした口調で言った。


「べつにいいけれど」


「あれです。ルル様を様付けで呼ぶのはあれです。僕がルル様の騎士というのもありますが、そうです。ルル様は僕の特別だからです!」

 

 スグルも後半、自分で何を言ってるのかわからなくなったが、ともかく最後まで言い切った。

 ルルはそれを聞くと顔を真っ赤にして言った。


「と、とくべちゅ、い、コホン」

 

 そう言って、言葉を噛んだのをかわいい咳で誤魔化すと、ルルは言いなおす。


「特別なのはわかったけど、別にスグルなら私のこと呼び捨てで呼んでもいいわよ」


 スグルはこんどこそ泣いた。目の端から液が出てきた。


「ちょ、ちょっと泣かないでよ!」


「ごめん、ちょっと呼んでみてもいい?」


 ルルはきょとんとした表情になると、胸に手を当てて、言った。


「いいわよ」


「ルル、いつもありがとう」


「私も、スグル。いつもありがと」


 これは威力絶大だった。好きな子にありがとって言われて微笑まれたら男なら誰でも撃沈する。




「あら、私が呼び捨てで呼んだのは失敗だったかしら、ルル様にそんな勇気があるとは思いませんでしたわ」


 リリーは、そう自分だけに聞こえる声でつぶやいた。


 

遅くなりました。

王宮のパーティーいつまで続くのか、僕にもわからなくなってきました。

遅くなったのは全部kindleのせい。セールなんてやりやがって。

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