36話 王宮のパーティー2
スグルは視界がなにやら水中にいるように潤っていて自分が涙を流していることに気が付いた。
どうやらルルのあまりの可憐さに思わず涙していたらしい。
スグルはどれだけ自分はルルに恋しているんだと自分自身にツッコミたくなった。
しかし、次のルルの行動でスグルは意識を覚醒させた。
ルルは美青年な王子を見て顔を赤らめると一歩近づいて王子の耳元になにやら囁いたのだ。
王子は驚いた顔をしてルルを見返していた。
ナニコレ。スグルはその光景を目の当たりにして、衝撃を受けた。
ルル、顔赤らめます。王子なにやら囁かれて驚きマス。
スグルの恋、終了のお知らせ……。
スグルは思わず泣きそうになった。というより、泣いた。
そんなスグルを隣にいるフィンは我に返って可哀想なものを見る目で見た。
「スグル、どうしたんだよ、感動した顔で泣いたと思ったら今度は悲しそうな顔で泣くじゃないか」
「いいやい、いいやい」
なにがいいやいなのかは全く不明であったが、ショックを受けたスグルはただそれだけを返した。
「ほら、スグル。君は目立つんだから周りのお客さんたちが怪訝な目でスグルを見てるよ」
フィンははあ、とため息をつくと言った。
「目にゴミが入ったのか、スグル」
フィンはとりあえずゴミが入ったことにしてほかの客の怪訝な目を本日の主役であるチャールズ第一王子とルルに戻すことに成功した。
しばらく後、王子とルルが社交ダンスを始めてさらに激しく涙があふれ始めたスグルをフィンがなだめていると。
一人の令嬢が声をかけてきた。
「ごきげんよう、スグル様。よかったら私と踊りませんこと?」
巨人のくせに庭の隅で座り込んでいて、そのサイズのわりに驚くほど存在感をなくしていたスグルであったが、その令嬢は笑みを引きつらせることもなく近づいてきた。
「リリー様」
スグルが潤んだ目で呼びかけると隣の領主のハルトマン伯爵の娘でスグルに求婚したリリー・ハルトマンはスグルの視線の下にはいると上目遣いになって言った。
「そんなところに座っていないで私と踊りましょう」
コレガホンモノノウワメヅカイデス。
それはスグルの心を激しく乱れさせた。
この身長、約25センチのリリーの上目遣いはそのサイズ差の大きさからしてズルだった。チートだった。萌える以外に選択肢はなかった。
「う、うん。で、でもでも、巨人とじゃどうやっても踊れないんじゃないかな?」
スグルがそう言うと、リリーはそうねと言うと。
「スグル様、こうするのはどうでしょう?」
そう言うと、リリーは靴を脱ぐとスグルの前に立った。
「両手に花ってどうでしょう? 私がスグル様の掌の上で踊ります」
ふーむ、素晴らしい、要はフィギュアが手のひらの上で踊るということか、全オタクの夢じゃあないか。
「も、もちろん。僕の手だったら喜んで」
そう言うと、スグルは屈むと手のひらを差し出した。
リリーは手のひらに片足を乗せると。
「くすぐったいですわ。あまりピクピクさせないでください」
ジト目でスグルを見るリリー。もう、スグルはたまらなくジト目が好きであった。
「ご、ごめんなさい」
「いいですわ。ほら、皆さん私たちに注目してる。手のひらを上げてくださいまし」
スグルが手のひらを上にあげるとリリーは大きく一回転すると踊り始めた。
その際、スカートが大きく広がったので下から見ている紳士諸君にはきっとドロワーズが見えたに違いない。スグルは眼下で大きく見開いている貴族の紳士方を見てそう確信した。
み、見せてたまるか。僕が見れてないのに!
スグルは手のひらを若干おわん型にすると満面の笑みを浮かべた。
「スグル様、なにか楽しいことでもありました?」
「あ、いや。ちょっと思い出し笑い」
嘘である。 スグルは下で恨みがましい目で見ている紳士をみて笑っていた。
「ほら、なんだか、スグル様と同じ視界で踊ると実際はそうでなくともなんだか一緒に踊っているみたいですね」
「たしかに、なんだか初めての感覚だよ」
二人はそう言うとなんだかおかしくなって笑った。
少し離れた場所で踊っているルルとチャールズにも、その会場中の視線を集め始めた巨人とお嬢様の珍しい組み合わせの社交ダンスは見えていた。
スグルたちは気付いていないが、高いところで踊っているのに加えて月明かりに照らされているので、リリーとスグルは幻想的に美しく見えていた。
「綺麗」
思わずルルは呟いた。
「そうだね」
しかし、言葉に対してルルはあまり機嫌がよくないみたいだった。
「スグル、あの子と踊ってるのね」
「気になるのかい?」
ルルはチャールズに言われて自分が恥ずかしいことを言っていたことに気が付いた。
「……」
チャールズはため息をつくと言った。
「今は僕をみてほしいな」
「え?」
ルルは思わず聞き返す。
「正直言うとね。僕も初めはこの見合いに乗り気じゃなかったんだ。でも、正直言うとね。僕は君に惚れたよ」
まさか、ルルもそこまでストレートに言われるとは思ってなかったし、王子様にその気があるとも思ってなかったので驚いてしまった。
「あ、ありがとうございます」
「求婚をうけるんじゃなくてありがとうなんだね。まだ受け入れられないか、でも僕はいつか君に受け入れられる王子になるよ。君が求婚を受け入れてくれるようにね」
「はい」
ルルはなんて返したらよいかわからず、そう返事した。
「なんだか、向こうが気になってしょうがないみたいだね。僕もあのスグルという君の騎士には興味があるんだ」
そう言うと、ルルと王子はスグルたちがいる方へと向かっていった。
遅くなりました。
巨人と小人をどうやって躍らせるんだよ! と、自分でそういう展開にしたくせに方法に悩み続けて時間がかかりました。
僕はこのシリーズを書く時にはフィギュアを使いながら考えます。
これが第三者目線で見ると気持ち悪いです。マジで。
例えば、この話だと僕は手のひらの上でフィギュアを躍らせながらにやけ続けるのです……。
ブックマーク10人になりました。やっとです。うれしいです。あたらしく登録してくれた方ありがとうです!
次の話も読んでもらえると嬉しいです。




