35話 王宮のパーティー1
パーティーは王宮の大ホールで行われる。
普段の大ホールは芝生の庭を大きなガラス窓で仕切った開放的で明るい部屋であったが、夜中である今日のパーティーでは月の見えるどこかロマンティックな部屋になっていた。
そしていつもは閉めて利用される王宮の誇るガラスの大窓も、今日はすでに王国での重要人物であり、ルルの護衛でもあるスグルのためにすべて開け放たれており、芝生の庭もライトアップされて数々の食べ物や装飾品で飾られていた。
「さすが王宮だね、もう同じ世界だとは思えないや」
ルルがドレスの準備のために別行動なのでスグルとフィンは二人で先に会場の庭先にいた。
「そうだね、こんな豪華な食事にありつけるなんて騎士団勤務のときじゃ考えられなかったよ。まさに別世界だ」
もともと平民出身であるフィンもうなずきながら答えると二人はお互い笑いあった。
「さて、王子様は一体どういった人なんだろう」
「王国騎士団にいた頃も数回しか見なかったなあ。チャールズ様はどうやら人前に出るのは好きじゃないみたいだよ」
「かっこよかったの?」
「さあ、王都の守り石に魔力を込める儀式があって、その時は王都中がお祭り騒ぎになるんだけどね。チャールズ様はローブをかぶって参加するものだからあんまり国民に顔が知られてないんだ。そんなんなのに、目立った後継者争いなんかもないから優秀には違いないと思うよ」
「へえー」
スグルが顔にコンプレックスでもあるのかなあと思っていると。
「今日はさすがに素顔を見せると思うよ。ほら来た」
そう言ってそちらを見るとスグルは思わず息をのむ。
「ギル並みにイケメンだと……ッ!!」
入ってきたリトリア第一王子のウィリアムは正真正銘のイケメンであった。
リトリア国王レオナルドは金髪であったが、彼は母親譲りなのか銀髪のさらさらした髪を長めに垂らしていた。顔立ちはどこか中性的で鼻筋は高貴さを感じるほど整っている。
場の貴族の奥様やご令嬢たちはその容姿にみんなうっとりしていた。
スグルは思った。
こんなんズルだろ! チートだろ! 地位に容姿に恵まれすぎだろ!
もはやテロだよ。テロ。飯テロならぬ、顔テロだろ!
王様に似て顔テカのデブになれば良かったのに!!
スグルは自分の容姿を思い出して思わず叫びだしたくなった。
「本当に王様の子供?」
スグルが小声でフィンに尋ねるとフィンは小声で言う。
「王族の配偶者が不細工だと思うかい? スグル。そういうことさ。正直今の王様がアレなのが不思議なんだよ」
確かにと思った。地球でもやっぱり芸能人の子供は美人や美丈夫が多かったし、政治家の子供は政治家になるのが多かった。
スグルは世の中の不条理に泣きたくなった。
「絶望だ」
スグルはチャールズを見て絶望的な気持ちになった。
~チャールズ視点~
ああ、ついにこの時がきたかと思った。
いままで期待されたより上の成果をだして生きてきた。
だから地位と顔、そして財力ばかりをみるお貴族の令嬢方との見合いを断り続けても文句は言われなかったし、父上のあの顔を利用して、顔を隠すことで相手に自分が不細工だと思わせて、自分で言うのもあれだが、整った顔も隠して生きてきた。
私は容姿や地位、お金ではなく私の内面で選んでくれるような相手と結婚したかった。
側室など取らず一人の女性を愛したかった。
しかし、どうやら希望はかなえられそうもない。
父上に有力貴族の娘との婚約話を持ち掛けられたのだ。
もちろん、相手方の返答によればご破算になるこの見合いだが、ほぼ相手の工作による見合いだろう。父上にほとんど命令された形のこの見合いには私の婚約相手は決まったも同然だった。
ならば、できるだけ相手に良い印象を持たれることに専念せねばなるまい。
私は久々に見せる自分の顔に柔和な笑みを浮かべるとホールに一歩を踏み出した。
私の素顔をみて会場はざわついていた。
すると、私の登場を待ってから入場を始めたのか、ステージの反対側からも赤髪の少女が出てきた。
すると会場のざわつきはさらに大きいものとなった。
それは可憐な少女であった。私は思わず見とれてしまったが次には思いなおす。
彼女も私の地位や財力が目当てで近づいたのだ。そう思うと私の心は急速に冷めていった。
少女と向かい合うと私はできるだけ相手に良い印象を持たれるように言った。
「今日はいいお見合いにしましょう」
少女は一瞬顔を赤らめたが次には深呼吸すると言った。
「ええ、そうしましょう」
彼女はそう言って思わず見惚れるような笑みを浮かべると一歩前にでると小声で言った。
「私は求婚を断るつもりです。ご協力くださいませ」
「いまなんと?」
「求婚を断るので協力してほしいと」
私の中で何かが変わった気がした。まさか、相手の目的が私の地位や財産目当てでないとは思ってなかったので、まさか求婚を断られるとは思ってなかった。
まさか父上は彼女を取り込みたから求婚を持ち掛けたのだろうか。
そう思うと、私は彼女を取り込むとかは抜きにして、彼女が魅力的に思えた。
そう、私はこの少女に恋をしたのであった。
スグルは王子様のあとから出てきたルルのドレス姿に思わず見とれていた。
いつもは活力を感じさせるどちらかというとさっぱりした服装のルルであるが、今日は赤髪に似合う若草色のドレスを纏っていた。
そのせいか、普段より何倍も大人の魅力というか、色気を纏っていてそれはもう、魅力的なものであった。
スグルの隣のルルに恋愛感情を抱いてない、以前にはルルの笑顔に見惚れていたスグルを笑いながら馬鹿にしていたフィンすらも今のルルには目を奪われていた。
そしてスグルは見ほれすぎてもはや気絶してるかのように微動だにしなかった。
しかし、目の端からは確かに涙が流れていたのできっと感動して泣いてる。
ショック死はしていないようだった。




