32話 ルルへの求婚
スグルもルルもこの間のリリー・ハルトマン襲来からうすうす自分たちがこの国にとって重要な存在になっていることを肌で感じていたが、まさか事態がここまで深刻だとは二人とも思っていなかった。
「これって……」
ルルはリトリア王族である証である獅子の紋章の入ったその手紙を見て震えていた。
「なんて書いてるんです?」
スグルが思わず尋ねるも、ルルはなにも答えない。
スグルがなんだよおと手紙をつまむもルルはフリーズしたままだったのでスグルは隣のマルクに手紙を渡すと代読を頼んだ。
「マルクさん読んでもらってもいいです?」
「まあ、いいですが」
そう言うと、マルクはちらりとルルを確認して大丈夫なのかを判断しようとしたが、ルルがピクリとも動かないのでまあいいかと読み始めた。
「ルル・アルデンヌ殿 私、リトリア国王レオナルド・リトリアは息子である第一王子チャールズとの婚姻を正式に申し込ませてもらう。まずはお互い顔を見たこともないと思うので対面してもらおうと思った。そんなわけで王都でパーティーを企画した。参加をお願いする」
その思い付きで書いたような文体の手紙であったが、それは正式なものであった。
読んでいるマルクも途中からは声が震えていた。
聞いているスグルは口を半開きにすると、すぴーと情けない音を立てて魂が抜けた風になっていた。
「ルル様、どうしますか。これ」
一人、冷静なフィンは凍り付いたこの場でルルに尋ねた。
数分後、意識を取り戻したルルは深くは考えないようにして言った。
「どうするもこうするも、これはとりあえず行くしかないわ」
もともと王族からの招待を断れるはずもない。しかも第一王子からの求婚などほとんどの貴族からしてみれば憧れもいいとこだった。
「ルル様……」
スグルはもう気が気じゃなかった。自分、モテない巨人。相手はリトリアの王子様。どう考えても勝ち目はない。
しかし、スグルはポジティブをあきらめなかった。
あれ、王様デブだったよね?
息子もデブじゃないかな?
そうだよね?
そうだよな!
スグルは持ち前ののんきさで復活すると言った。
「ルル様、大丈夫です。断りましょう!」
なにが大丈夫なのかわからなかったがスグルは大丈夫だと断言した。
「大丈夫じゃないし、簡単に断れるわけないでしょ!!」
もちろん、そんなに簡単なわけはなかった。
そんなこんなで、ルルはスグルとフィンとシットを連れると王都に出立した。
「ルル様」
スグルが肩に腰かけているルルに声をかけるもルルは聞こえてない風にじっとどこかを見つめていた。
王子様か、考えてみれば、スグルが恋してるこの女の子はそりゃあちょっと、いやかなりお転婆なところはあるけど美少女だし。それに比べて自分はモグラだけれどもそりゃあ、王族にも目を付けられるよなあとスグルは思った。
自分も勇気、ださないとなあ。万が一でもYESがもらえるかもしれないなら。
はじめはただ、可愛いなあとか思ったところから始まったけど、日本の女の子にはない心の強さや、ふと見せる弱さに惚れちゃったんだから仕方がない。
スグルはいつかいつかと思っていた気持ちを伝えるべき時がもうすぐ来ると思った。
そうして、ルル達一行はルルのお見合いパーティーの会場である王城にたどり着いたのであった。




