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31話 恋心

 スグルは草原で寝転がりながらぼんやりと故郷のことを考えていた。

 日本でのスグルは決して人気あったわけでも、思いを通わせあった彼女がいたわけでもない平凡な高校生だった。

 普通に父がいて母がいて、気が許せる友達がいて、ときどき、お姉さんや同級生の女の子をみて可愛いとか思うそんな普通の生活だった。

 そんな生活が、海でおぼれて目覚めたら巨人になっていたことで一変した。

 

 ルルという一見、強い心を持っているけど、実は弱いところもある女の子……。

 ギルという初めてこの世界でできた心を許せる同僚であり、友人……。

 ちょっと頼りないところもあるけど、いざとなると頼りになるフィン。

 自分に良くしてくれる堆肥商人のシット。

 いつもルルにこき使われてる気がしないでもないマルク。

 生意気だけど可愛い部下、ベンにその天使のような妹、フェリス。

 ちょっと、いや、結構……? 本格的に頭のおかしいところもあるけど優秀で面白い秘書官兼科者者のマッド。


 半年くらいで随分とこっちの世界での大事なものができちゃったなあとスグルはその能天気な性格には珍しく感慨に耽っていた。


「僕はこの世界に骨を埋めるのかな」


 スグルが地球の家族の顔を思い浮かべながら、ぽつりとこぼすと、遠くに赤い髪をそよ風でなびかせながら近づいてくる人物がいた。


「スグルー! 紹介したい子がいるの!」


 私服のルルは白いワンピースを着て草原を走ってきた。

 もう秋だからいい加減寒くなってきたというのにお転婆でしょっちゅう走りっぱなしのルルにとってはそんなことは関係ないらしい。

 スグルにとっては女の子の清楚な衣装は大好きなのでうれしい限りであったが。


「わかったよ、ルル様」


 今日は一体どんな騒動に巻き込まれるのだろうかとスグルは思ったが、その横顔は笑みを浮かべていた。




「ハルトマン伯爵のお嬢さんがこっちのピレネーまでいらしてくれたわ」


 スグルはそういえばハルトマンにはルルと同じ年頃のお嬢さんがいたなあと以前の話を思い出した。


「で、可愛いの?」


 ルルはお前はいつもそれだなとあきれた表情を浮かべていたが、機嫌がいいのか普通に答えた。


「ええ、あの冴えない老人の娘さんとは信じられないわ」


「ルル様、ひどい言いようですね」


 いくらスグルの肩にルルを乗せていて、屋敷に戻る層中なので誰に聞かれることもないとしても散々な言いようであった。


「ばれなきゃいいのよ、ばれなきゃ」


 スグルはハアとため息をつくとハルトマン伯爵の令嬢が待っている屋敷のホールへ目指していった。




「あら、こちらが巨人のスグル様ですね。私はリリー・ハルトマンです」


 ホールには正真正銘の美少女であるルルと並び立っても見劣りしないような美少女がいた。

 ルルが元気溢れる活発な女の子だとしたら、こちらはいい意味で貴族らしい清楚の塊の少女であった。

 そのさらさら流れるような銀髪は母親譲りであろうか、髪と同じ色をしたたれ目ぎみな目はどこか甘えたくなるような魅力を持っていた。


「僕は、男爵のスグルです。ルル様の騎士をやっています」


「あなたみたいな立派な騎士に守られてルル様は安心ですね」


 微笑みながら言われるもんだからスグルは胸の鼓動が止まらなくなった。


「お、おほめいただき、ありがたき」


 言語能力に麻痺をきたしながらもスグルはなんとか言葉を返した。

 そんな様子をルルは面白くなさそうに見ていた。


 なによ、そんなに鼻の先を伸ばしちゃって、いつもはあんなに私のことをか、可愛いって言うくせに。

 ルルはそんな感じで面白くないとなんだかやきもちを焼いた。

 ち、ちがうわ別にやきもちは焼いてないもん。このスグルのあちらこちらに尻尾を振る姿勢が騎士らしくないって言いたいだけよ。

 ルルは自分の頭の中でやきもちじゃないわと一人納得しようとしてどうしようもないことで思考をぐるぐるさせた。


 だからであろうか、そのあとの衝撃的な発言につい、思ってもないことを言ってしまったのだ。


「スグル様、私、これからのハルトマン領とアルデンヌ領の友好を願ってスグル様に婚姻を申し込みたいの」


 スグルはその衝撃的な発言に口をパクパクさせた。

 対するルルはパニックになって自分でも思ってないことを口にした。


「よ、よかったわねスグル! 領地持ちのお嬢様と結婚したら安泰ね!」


 ルルは言ってしまってから、それを聞いたスグルが精気を失ったようにピクリとも動かないことに気が付いた。


「あら? スグル様」


 爆弾投下した張本人であるリリーは不思議そうにスグルの目を見た。


「ごめんなさい」


 スグルはとぼとぼと部屋を去っていった。

 スグルが去っていくとルルは落ち込んだ様子で机に突っ伏した。


「やっちゃったわ……。あなたもあなたよ、いきなりあんなことを言うなんて」


「あら、ルル様、巨人であるスグル様はいまや王国で知らぬものはいないほど、私が求婚しなくてもいつか誰かが求婚するわ。だとしたらまだ関係が良好なハルトマン家のほうがスグル様も幸せかもしれないわよ」


「スグルの幸せ……」


 ルルはスグルにとって一番幸せなのはなんだろうと思い切なげなため息をついた。


「ルル様、多分ですが、これから聖女伝説やら巨人騎士を従えてるやらでルル様にも多くの求婚が来ますよ。こんなにかわいらしい顔してますし」


 そう言うと、リリーはルルの体を揉み出した。ルルのコンプレックスの胸を重点的に。


「ひゃあ。ひゃめ、そこは」


「あら、こちらが弱いのかしら」


 ルルは私、()()()()()じゃないわと思いながらもこの今日が初対面の少女に蹂躙された。



 スグルは先ほどのルルの言葉を思い出してため息をついた。


”よ、よかったわねスグル! 領地持ちのお嬢様と結婚したら安泰ね!”


 ルルは自分がどこかに行ってもいいのだろうか……。

 この言葉が、なんでこんなに苦しんだろう。


 日本じゃあんな美少女に求婚されたら結婚詐欺でもクソくらえって感じで向かっていっただろうに。


 ああ、こりゃ重症だなあ。恋してるなあ。と、スグルは決心すると屋敷へ戻って走り出した。



 

 屋敷に戻ってきたスグルは衝撃的な光景を目にした。

 衣服が乱れてあんなところやこんなところが見えそうになってる二人の女の子がお互いに絡みあってハアハアと悩まし気に息を荒げていた。


 スグルはルルと目があった。


「ルル様、そういう関係だったの!」


「ち、ちがう! スグル!」


 スグルは叫びながら部屋を飛び出していった。



 

 その後、なんとかルルとスグルは誤解を解き、ルルは顔を真っ赤にしながらリリーに今後こういうことをするときはだれもいないときよとくぎを刺した。


 スグルは「誰もいないとき!?」と衝撃を受けたが、ルルに黙殺された。


 そして、スグルは正式にリリーの求婚を断った。そうしたら、リリーは、


「あら、でも私はあきらめませんわ」


 と笑みを浮かべるとごきげんようとそのまま領地に戻って行った。


 そうして、こののちからスグルとルルへの求婚ラッシュが始まることになるのであるッ!!

 

 

これから恋愛編はじまります。


女の子同士がゲフンゲフンはゲフンゲフンですね。


そしてブックマークありがとうございます! 


よかったら僕の作品へのモチベーションのためにもブックマーク、評価、などなどいただけるとありがたいです。


ではでは、よければ次も読んでください!

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