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28話 スグル貴族になる

 スグルが突撃の際に巨大な盾の役割をしたため、何人かの犠牲はでたものの、ピレネー軍は比較的軽微な被害でピレネー高地へと戻ってきた。


 しかし、軽微な被害と言えどもピレネー軍にも何人かの犠牲者が出ていた。

 そのため、ピレネー軍を迎えた領民にも喜びをあらわにするものも悲しみにふせるものもいた。


「とうちゃん! どこ?」


 ルルとスグルは帰らぬ人となった兵士の家族を見て言葉を返すことができなかった。


「ルル様、俺のとうちゃんは? 無事だよね?」


 その少年にはあまりにもつらい現実にルルが無言でいると、少年は子供ながらに悟ったのか、ルルに向けて叫んだ。


「返せ! とうちゃんを返せ!」


 すると、その少年の母親と思われる女性は泣くのを必死に耐えてるような顔で言った。


「ハリー! ルル様に謝りなさい!」


 すると、ルルは寂し気な顔になるとやさしい口調で答えた。


「ごめんなさい。あなたの父親が天国に行ったのはただ私の力不足よ。決してあなたのお父様が弱かったからではないわ。むしろ強かったのよ。だって、今リトリア王国が敵を追い返して平和なのも勇気ある兵隊さんたちが敵を追い返したからだもの」


 その言葉に少年は涙と鼻水でぐちゃぐちゃだった顔を袖でふき取ると誓うように言った。


「俺が父ちゃんの代わりに母さんを守る。そしていつかベルデ王国を滅ぼす兵士になる」


 地球で言えば小学生の年頃の少年の復讐心にルルもスグルも悲しい顔になるばかりで何も言葉をかけることはできなかった。




 屋敷の前まで来るとマルクたちが総出で迎えてくれた。


「ルル様、無事に戻ってきてなによりです」


 マルクが言うと、秘書官であるマッドが一歩前に出て言った。


「昔の王国アカデミーの同僚からこっそり敵の新兵器に関する情報を得ました。あとで私の研究室でお話します」


 この男には珍しく真面目な口調でいうので怪訝に思ったルルは言った。


「どうせ、あなたのことだから新兵器について研究したいから出資してくれとでも言うのかと思ったわ」


「ルル様、なぜ分かったのですか?」


 どうやらマッドは本当にそうするつもりだったようだ。キョトンとした顔で聞いた。


「あのねえ、はあ。まあいいわ。話によっては検討するわ」


 ルルがマッドの研究馬鹿さ加減にあきれているとマルクが王都から手紙が届いてますと言った。


「手紙ですが、ルル様とスグル様に届いています」


「私はともかく、スグルにも?」


「僕にも届いているの?」


 スグルが気になってマルクから手紙を受け取るとあら不思議、文字が読めなかった。


「読めない」


「私に内容が知られてもいいなら代わりに読むけど?」


「ルル様、お願いします」


 すると、ルルは封を破るとそのまま読み始めた。


「アルデンヌ家、お抱え巨人騎士のスグル殿。この度の戦では貴殿の活躍のため敵を撃退することができました。よってスグル殿に男爵の爵位を授けます。ですって」


 ルルがそう言うとスグルは聞いた。


「それって僕が貴族になるっていうこと?」


「まあ、そういうことになるわね」


 ルルがそう言うと、スグルは脳内妄想で調子に乗り始めた。


 ルルと同じ貴族になったということはこれはもしや結婚とか……そういうのもできちゃう感じ?

 身分差ってやつを克服した感じ?

 素晴らしい! 素晴らしいぞ!

 万歳! リトリア! 万歳! レオナルド王!


 あまりにもスグルがニヤニヤしているからか、シットは苦笑いで言った。


「スグル殿、一応、説明しますが、ルル様は伯爵、スグル殿は男爵で2階級差ですのでまだまだ身分差は大きいですよ?」

 

 スグルと過ごしているうちにスグルの思考回路をだんだん読めるようになっていたシットはその無慈悲な事実をスグルに伝えた。

 すると、ルルもその言葉からスグルが貴族になってやけに喜んでいる理由に気付いたのか顔を真っ赤にした。


「あのね、スグル。私はその……」


「ルル様! 言うのはそこまでにしてください。 きっと2階級の差を埋めてその時は……」


「スグル……それってもしかして」


 ルルが私が好きなの? と聞く前にマルクがルルに手紙を渡した。


「ルル様、手紙です」


 スグルがとりあえず結論が先送りになって安心しているとルルが言った。


「私、辺境伯になったみたい。これでスグルとは3階級差ね。それと……新しく領地も増えるみたい。あの奥の山一帯みたいね」


 ルルがそう言うと、スグルは喜べばいいのかショックを受ければいいのか自分でもわからないのか泣き笑いみたいな顔で言った。


「おめでとうございます。ルル様」


 すると、スグルを見て思い出したかのようにルルは不安な顔になると尋ねた。


「あのね? スグル? 貴族になったということは私に仕えずに中央勤務の道もあるけれど、これからも私の騎士でいてくれる?」


 すると、スグルは途端に泣き笑いの顔を真剣な顔に戻すと言った。


「僕はこれからもルル様の、ルル様だけの騎士です」


「スグル……」


 スグルが真面目な口調で言うとルルは感動したのか肩を震わせながら顔を伏せた。


「ルル様……」


 スグルも思わず感動したというように目頭を熱くすると、ルルが耐えきれないとばかりに目の端に涙を浮かべた。


「ご、ごめん! あまりにも似合わないセリフだから、面白くて……プッ」


 スグルの感動も台無しに盛大に笑い始めたルルにスグルはみるみる顔を赤くすると怒ったぞという風に叫んだ。


「この! ルル様みたいな貧乳お嬢様に使えるんだからせいぜい感謝してくださいね!」


 すると、そのルルにとって禁句(貧乳)の言葉を発したスグルに、ルルは今度は怒りで肩を震わせると理不尽にも叫んだ。


「スグル! 女の子には言っちゃいけないこともあるのよ!」


 怒れるルルはスグルの肩の上で静かに護身用の待ち針大の短剣を抜くと、容赦なくスグルの乳首らへんをめがけて突き刺した。

 巨人であるスグルは別にそれ(乳首爆撃)で命に係わるようなものではなかったが、筆舌に尽くしがたい痛みをスグルは感じた。

 それは、某アニメで乳首を剃刀で剃ったアレみたいな痛みであった。多分。


「ぬおおおおおおおおおおおお!」






 その日、ピレネー高地には巨人の切なげな叫び声が木霊したと言う。


すみません、ネット小説読んでたら、時間が消え去っていました。

次こそ、早く更新します。


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