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27話 消えた守り石

「ヴィルヘルム様が負けたですって!」


 ひとまず敵を追い返して気が緩んでいたリトリア軍陣地にも「ヴィルヘルム軍敗北」の衝撃的な知らせは広がっていた。

 ルルも先ほどからハルトマン伯爵に泣きながらスグルに助けられて感謝していることや、どうか娘と仲良くしてくれともはや貴族の威厳もないくらいに取りつかれていたところに本陣の様子を見てきたフィンによってその知らせはもたらされた。


「フィン! それは本当の情報なのか!?」


 ギルもほんの数か月とはいえヴィルヘルムの優秀さを肌身で感じているので信じられないというようにフィンに詰め寄った。


「実際、司令部も敵のかく乱情報を疑って使者に対して合言葉などで確認を取ったうえ、偵察隊をだして確認をとったらしいですが、どうやら本当のようです」


「それで、敵は一日、南西地帯を占拠したらそのまま退却したのよね?」


「ええ、そうらしいです。敵の意図はまだわかりかねるとのことです」


「でも、どうやったらリトリアの精鋭、しかもヴィルヘルム様が率いた軍がこんなにあっさり負けるっていうのよ」


 思わずと言う風にルルがそうつぶやくと、フィンがこれはまだ、噂の域を出ませんが、と前置きして言った。


「どうやら、敵は新兵器を持ち出してきたらしいです」


「新兵器?」


 スグルが疑問に思って口を出すと、ルルも分からないわと言って続きを促した。


「どうやら弓の数倍の射程を持つ、緑色の光線をだす武器を敵は使用していたらしいのです」


 フィンの説明にスグルは某機動戦士的なあれが持ってるビームライフルとか、宇宙戦争とかいう感じのタイトルのレーザーブラスターを思い出した。

 スグルは剣とか槍とか。悪いのになるとクワっぽいのまで使ってるピレネー軍を思い出し、いかに精鋭のヴィルヘルムとは言えさすがに剣とビームライフルじゃ無理がある組み合わせだと思った。


「何なのよ! そんな武器どうしようもないじゃない! それに、その説明だけじゃそもそもどういった武器なのか全然わからないわ!」


 ルルは混乱したように叫んだ。

 確かに、スグルと違いそう言った映画とかの知識のないこの世界の人にはそれは想像することも厳しいものかもしれない。


「いったい、ベルデ王国は何を作り出したのよ……」





 リトリアの王宮でもヴィルヘルム軍の敗北と敵がたった一日で退却していったことで会議は大荒れになっていた。


「一体全体どうなっているのだ! 被害状況はどうなっている!?」


「ヴィルヘルム軍は光線を出す、弓の射程距離からすると数倍の射程距離を持った未知の武器によって一方的に被害を受け、敵に近づくことすらできなかったようです。そのため、光を受けた前方の兵士以外には軍勢としての損耗は少ないとのことです」


「そうか、ひとまず安心したが、占領された南西の地域はどうなっている?」


「今のところ民や町に目立った被害はないとのことです」


「そうか……」


 そうやって会議の雰囲気が一時的に穏やかになったときにその知らせは来た。

 バタンと音を立てて会議室に入ってきた連絡員はノックするのも忘れたようで叫んだ。


「敵が布陣していたところにて敵の新型兵器と思われる武器を発見しました!」


 そう言って、連絡員は中央の机にそれを置くと包みを開いた。


「なんだ……! これは!」


 そこにはその場の誰もがみたことのない武器があった。ボウガンのように引き金を持った、しかし、弓の部分のない筒のような武器。


「一体どのように使うのだ?」


 思わずという風に場の誰かが呟くと、今までずっと黙って成り行きを見ていた国王レオナルドの隣に立っている国王補佐官のホーキンスが眼鏡を軽く持ち上げると、「ほう」といってそれを持ち上げた。


「すみませんが、みなさん、一回、私の前から離れてください」


 そう言ってホーキンスは10代前半の召使にいらない鎧を持ってこさせると、目の前の椅子の上に置かせた。

 そうすると、ホーキンスは武器をそちらに向けて引き金を引いた。

 ホーキンスは、北の蛮族が使っていたボウガンのように引き金を引けば武器が作動するとなんとなくわかっていたのだ。


「ビュン!」


 風を切り裂くような緑色の光が鎧を貫いた。

 というよりその光は鎧だけでなくその後ろの壁までを貫いて1センチほどの穴を開けていた。


「なんという威力だ……!」


 それはもはや戦争を根本から変える武器であった。

 弓の数倍の射程。

 そのずば抜けた貫通力。

 光線のスピード。

 力のなくとも使える点。

 それは、現場を指揮する司令官にとっては吉夢とも悪夢ともなりえるものであった。

 この場においては敵だけが持っているので悪夢そのものであったが。


「これは、冬が過ぎる前にどうにかせねばなりませんね」


 そう、誰かが呟くと。ホーキンスは普段この男がほとんどみせない焦った顔で指示をだした。


「至急、これを王国アカデミーで解析させろ! 絶対に再現するんだ!」


 そう、ホーキンスが叫ぶと、またもや、連絡員が入ってきた。


「南西の領地の守り石がなくなったようです!」


「敵の狙いはそれか!」


 守り石は天然にしか存在せず、しかも特定の鉱脈があるわけでもなく、各地にたまに見つかるものであった。それゆえ、非常に貴重であり、あるかないかで領地での農作物の育ちに非常に違いがでるためその地にとって最も大切なものであった。


「クソッ!」


 冷静なホーキンスには珍しく悪態をつくと、ホーキンスの脳裏には先ほどの緑の光がよみがえった。


「まさか……!」


 ホーキンスはもしやと思い、ある仮説を話した。


「その未知の武器のエネルギーの源はもしや守り石なのではないか?」


 それならばと、ホーキンスは場の魔力を持たぬ騎士を呼び寄せると先ほど貫通させた鎧に向けて引き金を引けと命令した。

 うんともすんとも言わないその武器に、ホーキンスは自分の仮説が当たっていたことにこの後の展開を予想した。


「そうなのか、本当にそうなのか! 敵は攻めてくるぞ! 我が国の守り石を狙って!」


 ホーキンスのその発言に会議は再び大荒れになった。




「ルル様、私はこのままヴィルヘルム様に合流して情報を集めます。手紙で知らせるのでお待ちください」


「ええ、分かったわ。お兄様の安否も確かめて頂戴ね」


 ギルの言葉にルルが答えると、ギルは「ええ」と言うとスグルの方を向いた。


「こんなにすぐに、また別れるのはさみしいけど、ルル様をよろしく頼んだよ」


「分かってるよ」


 ギルはスグルの言葉にうなずくと馬に乗って王都の方へ走っていった。


「私たちも領地に行きましょう」


 ルルが言うとスグルたちはうなずいた。


「ひとまず、いろいろわからないこともできたけど、戦争は終結よ」


 新たな出来事が起き、ベルデ王国の脅威がルル達のもとへ近づいていたが、ひとまずルル達は領地に帰っていくのであった。


新しくブックマークしてくれた方ありがとうございます!!

忙しさがすこしマシになったのでぼちぼち更新頻度上がります。

最新話まで読んでくれてありがとうございます。

次からつかの間の日常編にもどります。(予定)

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