23話 宴と……。
スグルがルルにお詫びの贈り物を買って大通りを歩いてゆくと、スグルはなんだかこの町が王都とは少し趣の違うものだと感じた。
王都もそれなりにきれいな建物が多かったが、こちらはもう少し値段の高いものが売っている店が多いからなのか、ガラスが多く使われた建物が多く、どこかおしゃれな建物が多かった。
スグルがそんな景色にルルが言っていた流行の最先端という言葉を思い出していると、通りの女の子たちが自分のことを噂しているのが聞こえた。
巨人のスグルはすでに聖女ルル効果もあり、割と有名になっていて女の人からの噂や視線も多かったのだ。スグルが声の聞こえたほうを見ると、女の子たちはにっこり笑って手を振ってくれた。
スグルもそれに手を振って答えるとニヤニヤ笑みを浮かべた。
スグルは地球では基本モテない子だったので女の子からのこういった行動というものがうれしくてとてもご機嫌になっていた。
スグルがご機嫌なまま通りを歩いて、町の中央にあるリッチモンド邸に着くと、そこには当主、ウィリアム・リッチモンドとスグルのご主人様のルルがそろって門の前まで出てきていた。
「お待ちしておりました。スグル殿。ぜひ我が屋敷の宴を楽しんでくだされ」
「このような宴をありがとうございます」
シットに耳元でアドバイスをもらいながらスグルは答えた。
リッチモンドは、スグルの両肩に乗っているシットとベンを見ると言った。
「そちらの方々もゆっくりしていってくだされ、では私は歓迎の用意がございますので、ルル殿、お家来方をお連れになって中庭で少々お待ちくだされ」
「分かったわ。リッチモンド殿」
ルルはそう返事をするとスグルを見た。
スグルはルルと目を合わせてルルがさっきのことをまだ全然許してないことを知った。
だって、この子、目がすっごく怖いんだもん!
スグルはえーっとという風に切り出すとベンを降ろして代わりに包みを渡してもらった。
「これは?」
ルルが聞くとスグルはもじもじした声で答えた。
「ルル様に贈り物をしようと思って……開けてみて」
スグルがそう言うと、ルルは少し笑みを浮かべると小さな声で「ありがとう」と言うと、包みのリボンをほどいた。
「髪留め……」
ルルは髪留めを見ると、みるみると顔を真っ赤にした。
スグルはそれを初心なルルが異性から贈り物をもらう経験が全然なかったからだと思ったが、実際には違う理由だった。
「貴族のルル様に送るには下町のものじゃだめかとも思ったんだけど、ルル様に似合うかなって」
そう言ってスグルは恥ずかしそうに頬を掻いた。
「ありがとう、可愛い髪留めで私もうれしいわ、でも……」
スグルはその言葉にルルが初心なだけでは説明のつかない意味が含まれている気がしてシットとベンの方を見た。
すると、シットはニヤニヤしているだけだったがベンはたまらないとばかりに吹き出した。
「ちょっと! ちゃんと選ぶとき確認したじゃないか!」
スグルがなぜこういう反応をされるのがわからないとルルの方を見るとスグルは顔を真っ赤にしたルルにプイっと視線をそらされてしまった。
すると、フィンが笑いながら言った。
「女性に身に着けるようなアクセサリーを送るのは、それが似合う君を俺が守るみたいな意味を持つので、求婚という意味があるんです。まあ、スグルは騎士だから守るという意味で別にそこまで変なことではないのかな? まあ、私は実際に女性にアクセサリーを贈る騎士を見たのはこれが初めてですが!」
そう言ってフィンはたまらないとばかりにおなかを押さえ始めた。
スグルはフィンとベンに謀られたと思い、弁解しようと声を上げた。
「えっと、ルル様。僕は似合うから送ろうと思ったわけで別に求婚の意味で送ったわけではないです。あ、でもでも嫌いなわけではないです。なんだったら好きです。あーーーー! 違う、いや、違くないけど!」
スグル、コイツはルルのことが好きであったのでもうわけのわからない説明になっていた。するとルルはもうたまらないとばかりに笑い始めた。
「スグル、ちょっと、もう、わかったわ、あんまり慌てるものだから私の恥ずかしさが吹っ飛んじゃったじゃないの!」
ルルが目元に涙を浮かべながらスグルに話しかけるものだからスグルはキュンとしてしまった。
ルルの笑顔はなんて可愛いのだろうとスグルは思った。
「僕はただ、ルル様に似合うと思って買っただけです!」
スグルが一思いにそう言うと、ルルは髪留めを自分の髪につけた。
「どう? 似合っている?」
ルルはその長い赤髪に花が咲くような笑顔をスグルに向けながら、花をデザインしたその髪留めを付けて尋ねた。
スグルは思わず見とれて言葉を返すことができなかった。
数分後、そこには必死で笑いをこらえるフィンともはや笑いすぎて呼吸困難になっているベンがいた。
「ひ、ヒッ! スグル、ルル様に似合うか尋ねられてぽけーっとしてるもんだから私はスグルがショック死でもしたのかと思ったよ!」
フィンはさっきからこの調子でスグルを馬鹿にしていた。そしてその横ではベンが行儀悪くゴロゴロ転がりながら必死に笑いを止めようとあがいていた。
スグルはもう恥ずかしくなってしまってさっきから体育座りでずっとうつぶせになって耳を押さえていた。それがなんだか、いじけているときのルルにそっくりでフィンたちはそれがなんだか無性に面白く感じて、また笑い転げた。人間どうしようもなく面白いときはなにを見てもおもしろく感じるのである。
ルルはそのようにスグルがからかわれてるのを見て、スグルは私のことが好きなのかしらと思った。
でも自分とスグルは体の大きさが全然違うし、将来は子供も欲しいし、みたいな思考に陥っていた。
改めて考えてみると、ルルはスグルにいままで助けてもらってばかりだと思った。命を救われて、領地を得られて、開拓を手伝ってもらって……。
自分は小さい時から今まではギルに、そして最近ではスグルに助けてもらってばっかりじゃないの。
そもそも私はだれが好きなのかしら。そう思うとなんだかルルは恥ずかしくなってしまってスグルと同じように体育座りになると耳をふさいでうつぶせになってしまった。
しばらくして、リッチモンド家の使用人が歓迎の宴の準備ができましたと言って案内に来た。
中庭を少し回って本館の前に行くとそこには屋敷と庭をうまいこと使ってスグルも参加できるように宴の席が準備されていた。
「では、皆様、宴を始めよう」
リッチモンドの一言で宴は始まった。
「うまい……」
巨人サイズのスグルの食べ物も手は抜かれていないようでそれはスグルにいい印象を持たせるとともに自分たちの力を暗に見せつける意味もあるとシットは言っていた。
しかし、スグルは特にそんなこと気にしない性格なので久しぶりの肉製品などを満喫した。
宴も中盤に差し掛かり場も盛り上がってくると、スグルはリッチモンド家の子供たちと遊んでいた。いつか王都で遊んだ時と同じような要領でスグルは子供たちを頭にのせたりして遊んでいた。
そんな平和な宴が唐突にお開きになる出来事が起きた。
唐突に兵士が会場に飛び込んできたのだ。
「装備を付けたままで失礼します! ベルデ王国出兵! 直ちに兵を国境のヘルモント領に向かわせろとの王国からの通達がでております!」
「今は秋だぞ! いったいベルデは何を考えて今の時期に出兵したんだ! すぐ雪が降って道は使えなくなるぞ!」
この時期の出兵を予測していなかったリッチモンドは大慌てで出兵の準備を始めた。
「すまぬ、ルル殿。出兵の命がでたのでお開きだ。きっとルル殿にも出兵命令がでていると思うので早く領地に戻ったほうがよろしい、早い馬をやろう、おい! 爺! 案内しろ!」
急速に事態は動き出していた。
うーん、ブックマークが増えない……。
タイトルとあらすじ見直し中なのでちょくちょく変わると思います。




