19話 新拠点
守り石に魔力を込めたルルは「戻るわよ」と言うと元来た道を戻ろうとした。すると、すっかりルルにもスグルにもなついた守り石を守る役目を持った守護獣ことベアは、いかないでというようにスグルの足元にほっぺをこすりつけると、次にはにルルのほっぺをなめた。
自分になついているベアにすでに大きな愛着を持っているスグルはもちろん可愛いものが大好きなルルも後ろ髪を引かれる思いになるとさてどうしようか、と二人で顔を見合わせた。
スグルは思った。自分、今の家、屋根ない。いや、そもそも家じゃない。地面に藁引いてあるだけ。雨降る。僕濡れる。あれ? 僕、この洞窟に住めばいいんじゃない?
ルルは思った。守り石は隠すか、守るかするのが貴族の義務よね。ベルデではお父様が暮らしていたお屋敷に守り石はあったはずね。まあ、あれはお屋敷というよりお城というべきかしら。そう、そうよ! そうじゃない! この洞窟をお屋敷にすればいいのよ!
二人とも、ベアの可愛さにやられていた。もはや正常な思考回路ではなかった。
そして不幸なことにも? ルルの財布は今、それなりに重かった。農地改革の成果であった。
「この洞窟をお屋敷にするわ」
「僕もそう思ってたところだよルル様」
フィンは唐突にわけのわからないことを言い出したこの主従に頭が痛くなるとともに今、領地の財政を担当しているマルクがそれを知ったら頭を抱えるだろうなーと人ごとのように思い。頭を抱えた。
「そういうことで守り石のある洞窟を私たちの本拠地として改築するわ」
定例のアルデンヌ領家臣会議で開口一番ルルはそう言い放った。
ルルはベアとともに暮らすために洞窟に暮らすとスグルと誓ったあの日から1週間、この家臣会議に狙いを定めて入念に準備していたのである。
「僕も賛成です。ギルが抜けた今、ルル様の護衛として常にそばにいたいですが、僕はこの通り巨人なので今のお屋敷だと、雨に濡れます。寒いです」
スグルもアホの子なりに頑張って言う。
「私も賛成です。守り石が領地にとって大事なものである以上隠すより守ったほうがいいと存じます」
シットも賛成する。ルルはシットにあらかじめに食料品をシット商会を通じて各地の領地に販売することで合意して懐柔してあった。
「俺も賛成だな。新しく屋敷を建てるなら俺の工房もついでに作れるからな」
スミスはお抱え鍛冶師として待遇することになっているので一応、ルルの家臣団の一員である。屋敷の建築は早く工房ができるチャンスであるからにして、スミスにとってこの案に賛成するのはメリットが大きかった。
「私は皆さんで決めた意見に従います」
事前にルルに睨みを利かせられたフィンは財政を預かるマルクへの罪悪感から棄権という手段で二人の顔を立てた。
マルクは「お金は無限にあるわけでは……」とつぶやくも、場が完全にルルに支配されていることを悟ると。あきらめた顔になりしぶしぶと言った風に言った。
「予算を組みましょう」
屋敷が新築されると決まった後のルルの行動は早かった。
素早く大工たちを王国各地から集めると自分の求める屋敷の理想を語った。
曰く、ベアと暮らしたいと。
曰く、スグルの寝床に屋根をつけてあげてと。
曰く、防御、大事に。と。
曰く、可愛く、貴族らしくね。と。
大工たちは頭を悩ませた。なにせ、洞窟を活用した建築である。前例はない。
しかし、彼らはプロであった。一瞬唖然としたあとは口元に笑みを浮かべ、言った。
前例がない? 燃えるじゃねえか。最高の家を建てますよ。と。
スグルは、領地の森で木材を運んでいた。そこには元、他領の小作人であった農民たちも大勢いた。
みんな、自分たちに農地を与えたルルに感謝の気持ちをもっており、自ら手伝いを買って出たのであった。
「みんな、ありがとう!」
スグルが心からそう言うと、農民たちは笑いながら。
「いえいえ、スグル様にはワイらの家を建てる時にもこうして木材運ぶの手伝ってくれたじゃねえか。今度はワイらが恩を返す番だよ。なあ、みんな?」
「「「オウッ!」」」
農民たちは気合を入れるように返事をすると作業を続けた。
洞窟では屈強な男たちがせっせと穴を掘って広げていた。その中にはスグルのちびっ子部下ことベンもいた。
「俺も鍛えて、いつか騎士になるんだ」
ルルに従ってからギルや、フィン、そして一応スグルもだが、騎士たちを見て生活していたベンは奮起すると、自分もいつか騎士になる! と自ら穴掘りを志願したのであった。ベンも来年には13だ、仕事の見習いになる時期も近かった。
臨時の鍛冶場ではスミスが汗を垂らしながら、まだ腕の未熟な鍛冶師に活を入れながらピッケルを作っていた。そこはみんな自分の腕を高ようとするものでお互い切磋琢磨していた。
マルクは必死に計算していた。ちょっと財布に余裕ができたからって貯金をゼロにするようなこの計画は領地の財布を預かるものとしてはご免被るものであった。でも、マルクとしても別に屋敷を新築するのに別に完全に反対するわけではなかった。家臣会議では完全にルルが工作していたが、できればお金を預かる自分に先に相談してほしかったのだ。なんだかちょっと悔しくなったマルクはこうなったらできるだけお金を作り出そうと、領地の予算案を必死に組み替えているのであった。
そうして、家臣一同、そして領地一同で頑張った結果、驚くことに一か月後には立派な屋敷が建つことになった。
「洞窟をできるだけ活用することで工期の大幅な短縮に成功いたしました。それに巨人であるスグル様も生活しやすいように部屋のレイアウトに工夫を凝らし、また守護獣であるベアと触れ合いやすいように屋敷の中央にホールを設けました」
その屋敷は立派な屋敷であった。ルルの好みのレトロチックな外装にアルデンヌ家の紋章のグラジオラスの花をあちこちに彫刻で彫ってあった。また敵に攻められても守りやすいように崖を利用してあちこちに弓兵を配置できるように張り出しを作っていた。
そしてスグルのために作られた部屋には、スグルのために洞窟を掘って作られたスグルサイズのベットがあった。岩に藁が引いてあるだけなので、やはり地球のそれよりはずいぶん硬かったが、スグルにとっては雨風がしのげるだけでも今までより断然素晴らしいものであった。
「クマ、クマ、クマ」
そうして、ルルとスグルはこの愛すべき守護獣と暮らすという目標を達成したのであった。
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