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13話 約束②

 スグルが違和感を感じたのはのは会議が終了したルルが王城の庭まで出てきて、力のない笑顔で「終わったわ」と言ったときであった。いつもはぴったりくっついているギルが少し離れたところにいてギルが感情を押し殺した表情で何人かの騎士と何事かを話し合っていたのだ。そこからくる違和感の理由をそのあとに来た王国の重鎮が言った言葉でスグルは知ることになった。


「ヴィルヘルム様……」


 ルルは力のない声でその人物を呼ぶ。


「ふむ、そなたの騎士を預かることになった。なにも悪い扱いはせぬ、王国騎士団で騎士としてひとつもふたつも成長できる経験をさせると約束しよう」


 温和な印象の国王と違い、厳格な雰囲気でありながらもその人としての在り方に多くの国民の尊敬を集める王国騎士団長、ヴィルヘルム。王族でありながら、下級貴族出身はてには平民出身者の騎士でも関係なく実力で登用するような人物である。


「私もギルの成長を期待しておりますわ」


 ルルはあくまで貴族としての姿勢で返答する。スグルはギルが王国騎士団に実質的に人質に取られることに自分の本音を言えないであくまで貴族然とふるまうルルに我慢できずに叫んだ。


「ルル様はそれでいいんですか! このままギルと離れても! 家族を失って、僕ら三人でリトリアに来て、ピレネーで暮らして、ギルと離れたくない、そんな願いもルル様は願えないんですか!」


 スグルが叫ぶように言うと、ルルは「私は……」と言い、自分の内心を言いかけるといつのまにか近くに来ていたギルが遮るように言った。


「いいんだ、スグル。私は王国騎士団で学ぶ、今日の会議、他の領主の騎士はみんな政治や経済にも精通していたんだ。正直悔しかった。私はスグルみたいなとびぬけた強さはないし、主を補佐するような学もない。私は王国騎士団で学んでくるそしたら……」


 ギルはそこまで言うとスグルに「あとで二人で話そう」と言ってルルに「スグルがいれば大丈夫です」とうなずいた。


「ルル様……僕は」


 スグルがつぶやくといいのよと言うようにルルは微笑んだ。すると会話が終わるのを待っていたかのようにヴィルヘルムがルルに合わせたい人がいると言い、ルル一行を伴ってこれからギルが暮らすことになる騎士団宿舎のある王城の区画へ目を向けた。



 俯いたルルを左肩に乗せながらスグルはこれからギル無しでルルを守ることができるのだろうと考えた。力強いこの大きな巨人の手も、いざルルが悲しんだとしても抱きしめるには大きいものだった。いままで部屋の中でルルを守ってきたギルがいなくなれば、部屋の護衛は剣術では劣るフィンしかいなくなってしまう。スグルはルルとおなじ大きさになりたいと思いながらもいざ小さくなればギルみたいには強くなく自分がただ巨人であるという強みしかないことに悔しさを感じた。


「ルル様、僕は……。きっとギルみたいに強くないけど、僕にできることで君を助けるよ」


 スグルはせめて自分でできることでルルの力になろうと思った。


「あのね、スグル。私はスグルが思っているよりスグルに助けられてるわ」


 ルルはそこで言葉を切ると言った。


「私は巨人であるスグルを利用してリトリアまで亡命できたし、ピレネーという領地も手に入れたわ。それに対して私はこの通り家臣を守ることもできない未熟者よ」


 スグルは答える。


「馬鹿な僕でもね、わかるよ、こんないきなり現れた巨人なんてふつうは怖がって信用できないと思うけど、ルル様はそんな僕にもちゃんと普通の騎士として扱ってくれた。ちょっとひどいんじゃないかって扱いもあったけど、それを含めてルル様とギルと三人でここまでやってきてよかったって思ってる」


 スグルはすこし照れながらも言う。


「だからきっとギルが戻ってくるまでにピレネーを領地にしてギルの安心して戻ってこれる場所を作ろう」


「ええ、私もそのつもりよ」


 そう二人で約束するとスグルの右耳から恥ずかしそうな声が聞こえてきた。


「私も、きっと一人前の騎士になって帰ってくるよ」


「「う、うん」」


 スグルもルルもすっかり気にしてなかったが、右肩にはギルが乗っていたのであった。

 なんだか、恥ずかしい3人であった。



 しばらくすると王国騎士団の宿舎に到着したようでヴィルヘルムが「ここだ」と言って止まった。

 そこには赤髪の青年が立っていた。


「やあ、ルル。会いたかったよ」


 その青年は日本でいったら大学生の年頃であろうか、細いシルエットに沿った白い軍服を着ていて、細いながらも確かにその体はしなやかに鍛えられており、軍隊の前線で指揮をとる指揮官を思わせた。

 その青年はその髪と同じ赤い目を懐かしそうに細めながら手を挙げた。


 その青年を見るとルルはスグルの左肩で「お兄様」とつぶやくと、次の瞬間にはスグルの鼓膜を破るレベルで叫んだ。いつものように。


「お兄様!! スグルおろして!!」


 スグルは耳元で叫ばれてはかなわないと今すぐにそのおてんば娘を降ろした。

 するとルルはその青年の方へ駆けていくと思い切り抱き着いた。


「お兄様、会いたかったわ!」


「私もだよ、ルル」


 兄妹はきつく抱き合うとお互いに笑いあった。


「お兄様、私ピレネーの領主になったの」


「聞いているよ、いろいろ交渉したそうじゃないか、僕が知っているおてんばなルルはもういないのかい?」


 からかうように青年が言うとルルは「もう」と膨れた。スグルはなにこの子かわいいと思いました。

 スグルがルルを見て癒されていると赤髪の青年と目が合った。


「君がルルを救ってくれたスグル君だね。ありがとう。私はルルの兄でアルデンヌ家の長男、ギーシュ・アルデンヌ。今は王国騎士団に所属しているんだ。よろしくね」


 スグルはひそかに思い始めているルルのお兄様にいい印象を持ってもらうための会話を必死に考え始めた。


私、失踪しない。 ちょっと小説読んでただけ、デス。

人が増えると文書くの難しいですね。頑張ります。

さて、スグルはルルの兄からの好印象を得ることができるのでしょうか。

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