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10話 巨人式農地改革

 それはルルの一言から始まった、彼女曰く。


「貴族たるもの弱みを握られたままではいけない」


 らしい。スグルにはそれだけでは何のことなのかさっぱりであったが、そのなにも分かりませんという彼の表情を見るとルルがハアとため息をついて言った。


「あなたの食べ物はどこから来てると思う?」


 いわれるとスグルはすぐに思い至った。来たばかりのピレネーはド田舎でとてもスグルを養えるだけの食料は手に入らないだろう。ということはそういうことだろう。


「実質、僕とその主人のルル様の命運は王様が握っているということか」


 スグルもそういうことかと思っているようだが、どこか危機感が薄い。これも日本が良くも悪くも平和な国だからだろうか。


「なんで一番の当事者のスグルがそんなにのほほんとしているのか私はすごい不思議に感じるのだけど」


 心底あきれたというようにルルは言う。


「スグル、お抱え騎士になったのだから少しは危機感をもってもらわないと困るよ」


 ギルも同調するように言った。


「ごめんなさい」


 スグルも自分の危機感のなさに気付いたのか、しょんぼりする。


「もういいわ、でもあなたにはこれから仕事があるの」


 ルルはスグルにやさしく微笑むと言った。


「これからスグル、あなたは牛よ」



 その不穏な言葉にスグルがビクビクしながら過ごすこと二日、まだ寝ぼけ眼なスグルのもとへそれはそれは見事な巨人サイズの馬鍬(まぐわ)が届いた。


「これは私からスグルへの最初のプレゼントよ、特注品でとっても高かったんだから自分の分の食べ物がとれるくらいまでには働いてもらうわよ。そしてゆくゆくは農地を広げていってピレネーをリトリアの食糧庫にしてこの国での貴族の地位を確固たるものにするわ!」


 スグルはルルの最初の褒美が馬鍬なのに苦笑いしつつもなんだかんだ、この小さな女の子のためならばという気持ちになった。命令されるたびにM気質になっていくスグルなのだった。


「うん、がんばるよ」


 スグルがにやにやしながら言うと、ルルはつづけた。


「こちら、農民のアーロンさんよ。いろいろ教えてもらいながら作業してちょうだい」


 スグルがうなずくとアーロンがお辞儀をして自己紹介を始めた。


「スグル様、わたしは、ここら辺を管理しているアーロンといいます。一緒に農地を広げましょう」


 アーロンはそういうとスグルの隣のベンに向くと言った。


「こちらがスグル殿の小さな部下と聞いているベン殿ですね、私と一緒に種植えなどをお願いします」


「おうッ!」


 ベンの逞しい声を合図にスグルたちの農地改革は始まった。



 さすがに巨人式農業の効率は凄まじかった。

 あっという間にベンとアーロンの種植えでは間に合わなくなり、領地中の領民が総動員されることになった。そして三日もするころには、ド田舎であるピレネーの領民だけではすぐに追いつかなくなり、領主様であるルルが解決策のお触れを出した。


「移民募集、農地を開拓した者に農地を与える」


 その効果は絶大であった。王国内での領地間で関所のないリトリアでは人の移動が活発だ。そのため他の領地の地主に従っていた小作人たちが一斉にピレネーに流入したのであった。


「驚くほどに領民が増えましたね」


 ギルが言うとルルがうなずいた。


「そうね、私もここまで効果があるとは思わなかったわ。領民の生活を知るということの大切さを感じたわ」


 ルルがそう言うと、それを聞いていたフィンが言った。


「王国内の領地が豊かになるのはいいですけど、代わりに領民が減った他の領地の領主様がどんな反応をすることか……」


 それを聞いて思い至ったのだろう。ルルとギルは主従揃って顔を真っ青にした。



 そのころ、スグルは……。


 農地の開拓をひと段落して、急速に出来上がりつつあるプレハブ並みの速度で出来上がる家々の資材を運ぶのを手伝っていた。

 そうしていると、突然、あちらこちらで「巨人様」という声が上がり、歓声があがった。

 子供から、老人、スグルが大好きな美人なお姉さんまでみんなである。その光景にスグルは顔中の筋肉を総動員してニヤニヤした。


「ベン、僕幸せだよ」


 スグルがまだ12,3のベンに不適切な表情で語りかけると、精神年齢はきっとスグルより上であろうベンがため息をつきながら言った。


「兄ちゃん、ルル様をたてないと面倒くさいことになるんじゃねえの?」


 スグルは確かにとうなずくと、言った。というか叫んだ。


「僕に食べ物を与え、ピレネーの領民に土地と自由を与えたルル・アルデンヌ様に最大級の感謝を!」


 スグルが叫ぶと興奮した領民も続いて叫んだ。


「ルル・アルデンヌ様に最大限の感謝を!」


 何回も復唱される喝采は波が広がるようにピレネー全体に響き渡っていった。

 それはもはやルル教徒の集会のような様であった。その様子に今更ながらスグルは思った。


「ベン、これもしかしてやりすぎた感じ?」


 スグルとベンは顔を見合わせて同じ言葉を言った。


「「これは確実に怒られる」」



 そのあと、もちろんそんな騒ぎがルルの耳に入っていないわけもなく、スグルは怒られた。


「私を立ててくれるのは嬉しいけど、そんな目立ち方したら恥ずかしいじゃないの!」


 そういうことらしい。



 そしてそのもはや聖女ルル誕生とでもいうべき騒ぎは王都まで届いていた。

 そんな王都の中央、豪華な作りでありながらいざという時の防御も鉄壁な造りをした。王城の最深部、王の間では駆け付けた各地の領主達が国王に詰め寄っていた。


「なにが聖女ルルだ! 私の領地の領民が減ったではないか! 王様、領主会議の開催を進言いたします!」


「「進言いたします!!」」


 さすがの国王といえどもこの数の領主を無下にはできず、領主会議の開催が決まったのであった。



 その数日後、ルルたちがいるピレネーに領主会議への招集と、議題を知らせる手紙がとどくと、ルルは卒倒した。

 紙にはこう書かれていた。


「ピレネー領主、ルル・アルデンヌ殿

 移民政策と、聖女ルルについて他領地から多くの抗議がよせられたため領主会議が開催されることとなりました。参加されなき場合は反逆の意思ありとみなし、貴族の称号のはく奪と国王軍の派遣があるため参加されますよう」


 ルル以外の家臣一同もそろって心臓がとまりそうになったことは言うまでもない。



「あなたはこれから牛よ」

 かわいい娘に言われたなら僕は軽く牛になります。もう4足歩行でもーもー鳴きます。

 それが、作者、桃色レモンです。


 それでスグルのM気質、実はちょっと前の話からその鱗片を見せています。彼は一体どこまでいってしまうのでしょうか? さすがに僕ほどはこじらせないとは思いますが。

 あ、それと僕、女の子をいじるのも好きです。現実でいじったことはないですけど……。

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― 新着の感想 ―
[良い点] トイレのことも食料のことも、色々現実的に考慮して、なんかとてもいい作品です。 主人公がMであるってところも意外と面白いですね。
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