光の揺り籠を……
空歩猿を倒した俺とイセットはお互い怪我したこともありその場に日が沈みかける今までもじっと休み続けていた。
俺の怪我は全部治すのはMP的にもスキルレベル的にも無理そうだったので止血した程度に留めて殻に少し罅割れが出来ていたイセットを集中的に治療した。
そのせいか俺のHPが未だに5割を切っている状態だ。
「むぐむぐ、ここにバナナっぽい果物があって本当に良かった。しかも意外と美味い」
多分血も足りなくなってるだろうしここで食べ物を見つけなかったら貧血で衰弱死したかもしれないので本当に助かっている。
それにしても、あんな見た目毒々しいなのにマジで美味い、あの猿がここに住み着く訳だ。
因みにこれは怪我が治ったイセットがお腹を鳴らしていた俺を見かねてか例の垂直登りからのジャンプで木に登り採ってきてくれた物だ。
うちの従魔が有能が過ぎる……。
(ゴロン?)
「おお、どうしたすり寄ってきて。ん? 撫ででほしいのかな? ほーれ、えらいえらい」
(ゴロゴロ~♪)
どうやら褒めて欲しかったようみたいだな……ふふ、愛い奴め。
暫くイセットを愛でて和んでいると、ふとまだステータスやログを確認してないことを思い出した。
あー、MPを溜めて傷を癒す作業に精一杯で完全に忘却の彼方だったな。
いい加減見とくか、メニューからステータス欄選択、と……あ、イセットのも見とかないとだ。
配下欄からイセットのを選択してウィンドウ並べてとこ。
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名前『アベル』 性別『男』 種族『人間族』
レベル『8』 属性『無』 特性『なし』
《スキル》
『走行LV5』『風魔法LV5』『水魔法LV5』『光魔法LV3』『素手LV7』
『抗魔LV3』
《称号》
『大物殺し』
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名前『イセット』 性別『未定』 種族『虫卵』
種族レベル『7』 属性『無』 特性『甲殻、喰香』
《スキル》
『回転LV7』『回避LV6』『逃走LV5』『突進LV5』『弾化LV4』
『硬化LV2』
《称号》
『名有化物』『付き従う者』
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うわ、また軒並みレベルが上がったな。
俺の種族レベルが6から8にイセットが4から7に上がり種族レベルがもう少しで並びそうになってる。
SPは10SPの『抗魔』取ったばかりなので俺のは4でイセットは『硬化』取るのに5SP使って今7だ。
その気になればイセットはもう1つぐらいスキルが取れるな。
「あ、言い忘れるとこだった。イセット、欲しいスキル取るのはいいけどこれからはスキル取る前に……こう何か、そうだ2回跳ねて知らしてくれる?」
(ゴロ?)
「何でっていきなり知らないスキル出されたらびっくりするからだ! 兎に角、次からはスキル取る前にちゃんと報告して、な?」
(ゴロゴロ~!)
うん、いい返事だ……って何故ゴロゴロしてるだけのイセットと普通に会話成立してるんだ、俺は。
……いや、まぁー俺たち的にはいいことだし別にいっか。
ステータス確認はこれでいいとして……本格的に途方に暮れてきたなぁ。
何せ日が沈んでもうすぐ真っ暗になるっていうのに寝床も何もない。
野ざらしのままで寝るのは危ないから近くの洞窟とかの囲われた場所を探せればいいけど、まだ疲れて上手く体が動かない。
何故か今は結構時間が経っているのに襲撃がないが、この状況がいつまで続くか分からない以上悠長に構えてる暇はない。
「そういや火爪熊を倒した時も暫く敵が寄ってこなかったな……」
多分これはゲームシステム的な規則が働いてこうなってる気がするけど、判断材料が足りないからどういう仕組みなのかまでは分からない。
そもそも真面目に検証しようものなら何度リスポーンする羽目になるやら。
「あー……やばい、マジで眠くなって来た」
うぅ……瞼が重い……今寝ちゃだめだ、なのにどんどん目が開けられなくなってくる。
(ゴロン? ゴロゴロ~……)
「え、見張るから……眠とけって。お前も疲れてるだ、ろ」
(ゴロ! ゴロ!)
「何でいきなり跳ねて……あ、新しいスキル取るから、大丈夫ってこと……か」
一体何のスキル取るつもり……あ、だめだ……もう、意識、が……。
♢ ♦ ♢
「うぅ……ふあぁ~……。あれ、どこだここ? えーと、確か昨日はWCOにログインしてそれから…………ハッ、そうだイセットど、こ……え、ナニコレ?」
まだ濃く残っている眠気と抗いながらも昨日あったことを思い出しイセットを呼び掛けようとした時、それが視界に入って強張った疑問の声が漏れる。
だって目の前に毛が真っ赤な犬、角生えた兎、平耳毛ムジャラの化物とかの他にも様々な魔物だと思われる死体の山が築かれていたのだ、寝起きにこれはかなりキク。
不意打ちの衝撃的な光景に呆然としていると俺が起きたのに気づいたイセットが何処からかゴロゴロとすり寄ってきていた。
(ゴロゴロ~♪)
「イ、イセット。これ、お前がやったのか?」
(ゴロゴロ!)
そうだよ! 凄いでしょ、って雰囲気を全身から醸し出している……顔があったらきっと会心のドヤ顔していることが容易に想像出来た。
まぁ、実際に凄いんだけど、こんな数の魔物を一人で倒すとか俺が万全を期しても出来るかどうか……何となく無理そうな気がする。
俺の戦い方は間違いなく持久戦に向いてないからなぁ……。
「うん、イセットは凄いなー(なでなで)」
(ゴロゴロ~)
「それに凄く頑張った。……だからおやすみ、な」
(ゴロゴロ?)
イセットが首を傾げるように傾き疑問を表すが問答無用に腕の中に抱えるあげる。
「当分の間俺がこうしてるから、イセットもちょっとは眠っとけ。不便かもだが安全な場所が見付かるまで勘弁してくれよ」
(ゴロゴロ……)
「はは、心配してくれてるのか? 大丈夫だって、ささっと辺り見回るだけだから……じゃあ、今度こそ本当におやすみ、イセット」
言い終えると同時に『光魔法』での治癒の時と同じように、だけど労うようにゆっくり魔力を染み込ませていく。
やっぱり目に見えないだけで体内(殻内?)のあっちこっちが負傷しているようで腕の中でもぞもぞとしてたイセットの反応が徐々に鈍くなり、ついに大人しくなる。
『光魔法』での治療は浸透する魔力が暖かく包み込まれる感覚で……ぶっちゃけた言い方をすると非常に眠くなる、それも疲れている時は特に。
で、昨夜戦い通しだったはずのイセットがそれをされるとどうなるか……。
(……ZZZ)
「寝てる、か? 正直あんまり区別がつかないが、雰囲気を見るに熟睡してるみたい、かな?」
いまいち確信が持てないが、どっちにしろ暫く安静にしていてくれそうだ。
そこで改めて周りの惨状に目を向ける。
随分と派手に暴れたなー。
この魔物の数はイセットの特性の『喰香』がまた広まり始めたせいだろうか? いや、そもそも水拭きした程度で『喰香』ってのが落ちるかも確信が持てないけどさ。
やっぱこの際なんでもいいから何処か密閉させれる空間が欲しい。
こんな森の只中でそれは無理があるのは承知してるけど、自分で作るにもそんな技能は備わってない以上、何処かで見付けるしかない。
「しっかし、イセットの戦術エグい。ここにいるの全部頭に陥没してるじゃんか」
多分『弾化』と『回転』で高所に飛び移って、『硬化』で頭頂部に落下体当たりしたのだろう、空歩猿の時にもそれで何回か撃ち落としてたし。
全部は無理だけど使えそうな部位あるかな、と一日で野生生活が沁みた気持ちで死骸の山を物色しようとした時に、ふとそう言えばと昨日空歩猿が倒れた場所に目を向け、ピタッと固まる。
「空歩猿の死体が、ない?」
俺が寝入る前までは確かにそこにあったはずの空歩猿の死体がない。
その代わりと言わんばかり夥しい血痕の上に薄緑の小石と炎のような橙色を発している大きな鉤爪があるだけだった。
「どうなってるんだ、これ。って言うか何で空歩猿の体にめり込んでるはずの爪が転がってるんだ」
寝てる間に何者かが持っていった? いや、死体ごと持ってたなら何故か爪が残っている持ち帰るにしてはちょっと不自然ではある
野生動物とかが食った? これも周り食べ滓の骨や肉片1つ無いのは変だ。
もし、この時の俺にドロップアイテムっていう知識があったならさしたる疑問に思わなかったかもだがそんなものは露知らずなので大いに混乱した。
「そうなると……死体の部分だけが、消えた? んな馬鹿な」
いや、まぁいくらリアルに作られたと言ってもWCOはあくまでVRゲームだ、あり得なくはないか。
でも、それならこの妙な色の小石は一体何だ?
うーむー……空歩猿が消えた場所にぽつんといるしあれの体内いたものか、とか?
「推測があってるなら。これがあの戦いの戦利品ってことになる訳か……ちょっとごめんな」
イセットを一言断わってから片腕で抱え直し小石と爪を拾いまじまじと観察してみる。
「……何となくだけどあっている気がするな。うん、やっぱりこれがあの猿のだ。だって……何か見てるだけで無性にムカつくし!」
コイツとも死闘を繰り広げたはずなのに火爪熊の時のような感情は湧いてこず、何故かイラッとくる。
……それでも回収していくけどな、捨てるとあんな苦労して何も収穫なしだ。
それだけは勘弁願いたい。
「よく見るとイセットが狩った方にもぼろぼろ落ちてるな……米粒サイズだけど」
でも、ちゃんと死体が残ってるのもいる。
この差は何だろう……あーもう、ネット使えればな一発なのに! 何でこのゲームは外部回線全シャットアウト仕様なんだよぅ……。
「はぁ~、無い物ねだりしても仕方ないか。暗くなる前に安全な場所を探さないと」
HPも八割ぐらい回復してるしこれなら余程のこと……特にあの巨大黒猪が出ない限り一撃で殺られる心配はない。
色々な不満や疑問を置き去りにしてイセットを抱えたまま俺は森の奥へと入り込んだ。
ガサガサッ
「……グギャギャ!」
どこからか鳴る、卑しい声と共にとは気付かぬままに……
アベルくんのRPGゲームの事前知識は”敵倒してアバターを強くする遊び”ぐらいしかないのです。
作者の力になるよう酷評でもいいので評価ポイントを押していたたければと!
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