尽焔に安息を求めて
「迷った……」
「……ー」
手負いの身体を引きずって森を彷徨うこと体感数時間、俺たちは完全に道に迷っていた。
空を飛べるイセットがあるにも関わらず『架け橋』の方向を見失ったのには当然理由がある。
「どこを見ても刻んあった目印はなし。あんの鳥野郎ども……魔力回路が治ったら殲滅してやる」
(ゴロゴロ~!)
爆発で相当遠くへと飛んだのか、どこにも途中に幹などに刻んあった目印がない。
それに加え、今まで遥か上空に待ち構えていた鳥魔物の群れ……それらが何故か今になって待機高度を下げ始めた。
いや理由はなんとなくだが分かる、黒猪との戦闘で出来たあの空き地……そこで魔物を狩るために降りて来たのだ。
それと黒猪という大きな脅威が地上から消えたのも一因であると考えられる。
「にしてもイセットが鳥類が苦手とはな」
「……~~」
「落ち込むなって。イセットにはいつも助けられてるからこれぐらい気にしなてたら寧ろ罰が当たる」
最大の誤算はこれ、イセットはどうも鳥が苦手らしい。
倒せないことはないみたいだが怖がって明らかに動きが鈍る、そんな状態で一人での高空偵察は危険だ。
やっぱり虫が鳥類と被食関係にあることが多いからだろうか? 今のイセットを虫と分類していいのかは曖昧だけど。
「俺が、もう少し頑張ればいいだけだから」
「……ー!」
「心配か?」
(ゴロゴロ!)
怒られた……こんな身体で無理して欲しくないのだろう、喋らなくてもそれぐらいは分かる。
ついさっき無茶したばかりだけらな、こういう反応は仕方ない。
「でものんびりしてる暇もないんだ。ミーチェさんやメジャトたちがどうなってるかも気にかかる」
「……~」
「そっか、イセットもか。……なら、急ごう」
(……ゴロゴロ!)
気を取り直して見覚えのある場所を目指して歩くこと数分『索敵』に反応があった。
「おっと、危ない。イセット隠れるぞ」
「……~♪」
マントのように身に纏った黒い毛皮でイセットを懐に入れると同時に全身を包み、その場で 沈む。
森を彷徨ってから暫くして分かったことなのだがこの毛皮は今は暴発で消し飛んで今は亡き炎の爪同様に、黒猪の能力を一部使えるようだった。
そして今分かっている能力は……
・包まれている部分を意識すると影を通して”影の世界”に潜ったり浮いたり出来る、なお”影の世界”は無茶苦茶寒く無酸素無重力なので毛皮を脱いだり長居すると死ねる。
・出口は地面の裏面を黒い水面に見立ててる形で、影がある部分に外の景色が覗ける場所。
・包んだまま日陰にいると存在感が薄れる、実際すぐ目の前を鶏っぽい魔物が通ったのにも気付かれなかった。
……て、ところまで分かった。
昔に宇宙の教材でやったVR無重力体験空間みたく、挙動が色々危ないんで一挙動にも細心の注意がいるが、今の体調で戦闘はなるべく避けたかったから、これには本当に助かった。
ただ流石に影を実体化させたり、操ったりする能力はなかったみたいだ。
何度か試してみたがうんともすんとも言わない。
MPが必要なのかもだから、これはそん時でもまた挑戦するとして。
「大丈夫だよな、またチートとか変なクラッキングプログラム仕込んであったりしなよな?」
システム警告は消えてるし、運営にもコールして《その問題は対処済みです、ご安心ください》と帰って来たから大丈夫だとは思うけど、それでも何かあるんじゃないかってつい不安になってしまう。
まぁ、だとしても……
「……捨てて行く気はないけど」
単純に便利なのもあるが、これはアイツの生の証だ。
俺がそれを無下にするなんて絶対にあってならない……そう、絶対に。
……その後も黒い毛皮の力で木陰に隠れながら森を彷徨いたが、一向に進展はなし。
そのことが思ったより堪えたのか、痛みも増し疲労も加速していく。
それでもと歩を進めてみるが、徐々に視界の焦点でぶれ、ぼやけて始める。
「はぁ……ぐぅ……ッ。やばいな……そろそろ限界だ」
「……~!?」
駄目だこりゃ……何処かで身体を休めないと、気が遠のいて……このままじゃ倒れてしま……。
―― すぅ、と鼻先を掠れる細い感触に顔を上げる。
「……? これ、は」
「ふ~ん、ふ~ふん♪」
鼻歌交じりに天の川が流れるような銀閃と戯れる、一人の女性がそこにいた。
白銀を紡いだが如し銀色の髪、新雪を思わせる真っ白な肌それらと対照的に燃え上る深紅色の瞳が美しく幻想的に輝く。
どこか冷たい印象を醸している外見とは対照的に彼女がいる場所から暖かな香木の匂いを嗅ぐわせる。
その矛盾を孕んだ天女に見紛うが程の、あまりの流麗なさについ見惚れてしまい……気軽んでしまった。
「あ……やば……」
「……~!?」
「え、人!? ちょっとだいじょ……」
慌てて声を張り上げる女性とイセットの姿を最後に俺は意識を手放した。
♢ ♦ ♢
「……ん?」
「あ、やっと目が覚めた」
(ゴロゴロ~!)
「はは、この子はまた転がってる!」
万力に引かれてるように重い瞼を持ち上げると、いつもの小さなコロコロした感触と姦しい声が耳朶を打つ。
それらによって自分の現状を思い出し、片腕で静かに状態を起こす。
「……~ッ」
「ああ、心配掛けて悪がった。ありがとう」
すると直ぐにイセットが抱きついて来たので、指の腹で撫でながらこれを落ち着かせる。
と、いったところで真横から生暖かい視線を感じ、バツが悪くなりながらも振り向く。
「仲良しさんだね~」
「えーと、その……」
「びっくりしたよ、私の警戒網をあっさりと欺いて侵入した来た人が居るかと思えば、いきなり目の前で倒れるんだもん。助けようと近付いたらそこの妖精ちゃんに殺され掛けるしね、もう散々」
「それは、本当にすみません……。ほらイセットも謝って」
「……ー(ペコリ)」
「いいよいいよ、もう気にしてないから。妖精と戯れるなんて貴重な体験も出来た事だしね!」
そう言って謝罪すると手をひらひらとさせながらおどけてみせる銀髪の女性プレイヤー。
殺されかけたのにそうれで済ませていいんだろうか? と、疑問を呈したいところだが今それより聞かなきゃならない事がある。
本来、せめて謝礼ぐらいするべきだが、今はそんな余裕も暇も物もない。
「それでそのー、俺はどれだけ寝てました?」
「う~ん……正確か分かんないけど陽の傾きからして2,3時間ぐらいかな?」
「もうそんなに……」
これは不味いかもしれない……ミーチェさんの最後の様子からして俺たちを探してる可能性がある。
あって間もない相手にそこまでするかは不明だが、可能性はある……なら行かいないと。
黒猪を倒したことでまた森の生態系に変化が起きている、ミーチェさん達にこれ以上迷惑を掛ける訳には……。
「それじゃ、本当に失礼しました。そしてありがとうございました」
「ちょ、ちょっとちょっと! その身体でどこ行く気!?」
「『架け橋』に、知ってる場所に着けば行けるので」
「え、『架け橋』!? ……ってとにかく待った!」
簡略に返事をしてから踵を返そうとしたのだが、肩を掴まれ阻まれる。
無視して行こうにも、全身に隈なく負傷中な状態で振り解ける訳もなく激痛が走り反射的に足を止める。
「ぐッ!?」
「わわ!? ご、ごめん痛かった?」
「……いえ、ちょっとチクっとしただけです」
「すっごい顰めっ面じゃん。嘘なのバレバレだよ……なんでそこまでして」
「俺たちを探してる人が居るかもしれないので」
「”かもしれない”って、あなたね……。はぁー……。座んなさいというか、横になれ!」
「痛たたっ! 何を……」
ザラッ
痛みを訴える俺を無視し自分の膝の上に頭を乗せる……所謂膝枕をさせ強引に身体を横たわらせザラッとした音が鳴る。
柔らかい、そしてちょっといい匂いがする、上の見晴らしはあまり良くないがこれはなかな……ってそうじゃない!
「え、いや……これ」
「いいから怪我人はちゃんと休む! 親御さんにそう教わらなかったの?」
「それは……耳にタコが出来るんじゃって程に聞かされましたけど……」
「それと妖精ちゃん……いや、イセットちゃんだっけ? ほら、その子もこんなに心配してるよ?」
「……~!」
さっきからずっと俺の胸ぐらにしがみついてゴクゴクと首を縦に振る。
それを見てほっこりしながらも、申し訳なさを感じる……むぅ、ここは俺が折れるべきなんだろけど。
でも、あったばかりの人にずっとこうしてるのも……
「大丈夫、ここは安全だから。何も気にせずそのまま楽にしてて」
「あ……」
優しく絹のようにスベスベとした手が髪を掻き分け頭を撫ぜる。
懐かしい感覚だ……そういやまだ身体が動いていた頃遊び疲れた時にお母さんこうして頭を撫でられたな。
もう朧気にしか思い出せないけど、とても暖かくて落ち着く……。
このまま身を委ねて眠ってしまいたい、でもそういう訳には……なんとか気を……確かに……。
そうだ、口を動かして……何とか眠気を……。
「頑張ったね、こんなになるまであなたは本当に頑張った。えらいえらい」
「えっと…………あの。そういやまだ……名も名乗って、ませんね……俺はアベル、です」
「そう。私はイブン、最初はイブにしようとして失敗しちゃって、こんな記号みたいになちゃった」
「はは……俺と似てますね……俺もキャラ、メイクの時に……アダムにしようと、してですね……」
「ふふ、それもしかして口説いてるの?」
「違い、ますよ……ただ俺ぁ…………ー」
「……~♪」
「……おやすみ。アベルくん」
「ここです、『嗅別』持ちの人が嗅ぎ分けてくれました!」
「おーい、いんのなら出てこい! そして一戦やらせろ!」
「それで出でくる奴がいるか! 下手したら逃げるわ!」
「邪魔、ケッセン静かにしてちょ!?」「ひでぇー……」
「あ、奥に誰かいるいるぞ!」
「ッ、アベルさん!」
「シーッ、静かに。やっと眠ったのよ、まだ起こしたくないの」
「あ、え?」
「すぅ……すぅ……」
「それに……これを起こすのも可哀想でしょ?」
「確かに、そうですね……?」
……かなり後に聞いた話だが、この時俺は何か大切な物を取り戻したように凄く満ち足りた幸せな顔で眠っていたという。
執筆進まない……そしてこれから仕事でありますます執筆がががが。




