対人戦
初めて目にするプレイヤーたちに俺は正直気が緩んでいた。
これでもしかすると安全に『架け橋』まで行けて、イセットも助けられかもしれないと、そうな甘いことを考えて浮ついていたのだろう。
だから、プレイヤー側からの下卑た表情と狙い定める視線に気付くのが遅れてしまった。
「プレイヤーだ……俺以外の。イセット早く行ってみよ、もしかすると『架け橋』の位置もしってるかもしれない! おーい、こっち見てください、ちょっと聞きたいことが……」
「……ー!!」
「ぐえっ。い、イセット何で服引っ張って……」
シュ――――ッ!
今の……矢? あのプレイヤーたちから、何で、いきなり……。
実は魔物……でもダイブマーカーの偽装は重犯罪はず、なら何でも……。
カンーッ!
「……~!?」
「っな!?」
状況を飲み込めず、思考がぐるぐると混乱しているとイセットの方から硬質な音を鳴らし矢を受け流している光景が目に映る。
なにを、やってんだ俺はッ!!
気取ったこと言っといてまるで気構えがなってない、今だってイセットが警戒してたから良かったもののそうじゃなかったら二人仲良くお陀仏で終わりだった。
心中に赤信号を灯せ、そうじゃないとまた何も出来ない内に失ってしまうばかりだ、俺はもう十分学んでいたはずだろ。
3撃目が来る前に木の裏に身を隠し、『索敵』スキルで敵の位置を把握する。
こっちが隠れたと一拍おいて二手に別れた、移動先から推測すると見えないのを利用して包囲ってとこか。
厄介だが少しでも時間が出来たのはご都合だ、この隙にあのスキル習得を済ませておける。
イセットも途中に帰ったら取りたいのがあると言ってたし、それもスキル推薦で敵に気付かれないよう、習得を促す。
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名前『アベル』 性別『男』 種族『人間族』
レベル『18』 属性『無』 特性『なし』
《スキル》
『走行LVMax』『風魔法LVMax』『水魔法LVMax』『光魔法LV8』『素手LVMax』
『抗魔LVMax』『追跡LV7』『索敵LV8』『隠密LV8』『偽装LV7』
『魔量再生LV7』『固定LV6』『魔力供給LV1』
《称号》
『大物殺し』『密偵』『起死回生』
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名前『イセット』 性別『メス』 種族『虫精』
種族レベル『15』 属性『無』 特性『甲殻、旋回、魔力体』
《スキル》
『縦横無尽LV4』『剛柔兼備LV4』『風魔法LV9』『糸生成LVMax』
『鎧術LV6』『増力LV6』『防御LV6』『操糸LV5』『忠心LV5』
『手当LV3』『魔術LV1』
《称号》
『名有化物』『付き従う者』『唯一化物』
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迎撃準備完了、これでイセットにも暴れてもらえる。
逆に俺が使い物にならなくなるかもだが……そこは気合で耐えれば何とかなる範囲だ。
どんどん包囲が狭まって来ている、逃げ道を完全に塞いで追い詰める算段なのだろう。
そうなるとかなり不利になるが、当然好きにさせる気はない。
「イセット、俺のMPが許される限り暴れてよし」
(ッ! ゴロゴロー!)
魔力の使用許可を出すなりゴロゴロと張り切って回転し、間近の俺に辛うじて見える細い糸を周囲にばら撒く。
すると『操糸』で糸を操作して地を這わせてプレイヤーたちの後方へまで伸ばして逆に糸での包囲網を敷くイセット。
だが、そんな複雑な作業をしたにも関わらずイセットのMPバーは一切に減っていない。
「がはッ!?」
(ゴロゴロ!?)
そこで俺の体にスキルの反動によるものと思しき異変が起きる。
突然全身からエネルギーを根こそぎ吸い取られるではと思うほどの喪失感に襲われ、勝手に肺の空気が吐き出され膝の力が抜けた。
かと思えば莫大な量のMPが消失したのが視界に入る。
こうなった理由は既に分かっている、俺が即前に習得した『魔力供給』によりデメリットのせいだ。
・『魔力供給』
MPを消費し、対象にスキルレベルに応じた分だけMPを譲渡する。
譲渡の際に行動が億劫になる程の喪失感を伴う。
分かってはいたことだが想像以上にキツイな、これ……今すぐにでも、全部投げ出して寝っ転がりたい欲求に駆られてしょうがない。
それにレベル1だからだろうけど、消費分の1/10しか回復されてないから余計力が抜けそうになる。
「俺は大丈夫だ……それより、来る!」
「……~ッ!」
「はっはー、カモめっけ!!」「死にさらせや!」
「SPと経験値じゃ、ヒャッハー!!」
俺を心配して振り返るイセットに叱咤して、汚く喚く敵の襲来を報せる。
ほんと効果説明通り一歩動くのさえ億劫で蜂蜻蛉戦でのダメージも残っているが、一人で戦うイセットを思い浮かべ、ない気力を振り絞って奮い立つ。
杖と短剣を持った男二人を背に剣をもった長身の男が先頭で俺に凶刃を斬りつけよとしたのでそれを避ける……が避けた場所が悪かった。
「まず一人、もっらいー!!」
「しまっ……」
避けるため必死に横飛び俺に向けて、後方に待機してた弓使いの小柄男が矢を放つ。
回避は間にあわないと腕で急所を庇ったが矢の衝撃はなく、前を見ると矢は空中で停止していた。
どうやら事前張ったイセットの糸に運悪く引っ掛かって助かってようだ
「んなっ!? いきなり矢が止まった!?!」
「ッ、――はッ!」
「え……ぐぎゃーッ!?!」
えれを知る由もない弓使いの男は突然のありえない光景に間抜け面を晒し呆けていたので、その隙を逃さず『風魔法』で無理矢理体を押し出して接近し、顔面に突進の威力を乗せてストレートをかます。
無論炎の爪はこいつら飛び出す前から握り込んでいたので、額に風穴空いて上頭内が焼かれ即死だ。
弓使いがちゃんとポリゴンとなり砕け散りるのを確認してから割いてた意識をすべて他の3人に戻す。
「あ、あの野郎! よくも(・ω<)を!」「しかも一撃だと!?」
「んなことより、この羽虫の方がやべーんだよ。はよなんとかしろ!」
まさか後衛だと言っても瞬殺されたのは想定外だったのか明らかに連携が乱れ、お互い自分勝手に喚き散らしているプレイヤー衆。
指揮系統もクソないな、これならまでゴブリンの方が統制が取れていた分マシだったぐいらだ。
イセットが奴らを『縦横無尽』での高速立体起動と糸でのトリッキーな攻撃で翻弄してるのも一因ではあるが……それを勘案してもお粗末過ぎる。
「まぁ、偉そうなこと言ってるけど……俺はもう動けないな。ぐふっ……、イセットのやつ、本当に……遠慮なく使いやがって。さては結構、鬱憤が溜まってたな」
さっきので流石にカス欠だ、それにイセットがバンバンMPを使ってるから『魔力供給』での喪失感が
半端ない。
直ぐにでも座り込んで観戦モードに入りたいが、周囲の警戒もいるし、杖持ちが魔法主体の遠距離タイプ、まだ気を緩める訳にはいかない。
「幸い『火魔法』は使って来ない。これならイセット一人でどうとでも出来る」
つっても油断はしない、もし火を使う素振りを見せたら、死ぬ気で俺が食い止める。
そうやって警戒しながらもMP回復に努めて魔力を供給していると、ついにリーチ的に攻めきれず焦った短剣使いが無闇に突っ込んでカウンターを首に食らいダウン。
「がひゅ……」「|ω・`)!」
「くそ、攻撃がまるで見えね! いったい何なんだこいつは!?」
また仲間がやられたことで躍起になってイセットに襲いかかるが、どうやらイセットの攻撃手段がまるで見えないのか、攻めが及び腰になっている。
杖持ちは何度か自分だけ逃げようとしているがすぐにとこともなく現れる糸に阻止される。
無駄なことを、この辺りは既に糸で取り囲まれたイセットの空間、逃げ場などもうどこにもいない。
「くはっ!? こ、このままじゃ……」
「 (´Д`)!? クソが! こんなのとやってられっか!」
前衛の剣使い深手を負い、このまま行くと数分持たず片付かと思ったその時、杖持ち俺が突ったってる場所に全力疾走して来る。
懐からは見覚えのある赤い石……火属性の魔石が詰め込まれた魔術陣が書かれた袋を取り出した状態で……。
「こうなりゃ、テメーだけでも道連れしてやら」
「やば……」
あの野郎、自爆する気か! くぅ……まだ足が動かないってのに……。
見たとこ『抗魔』で耐えきれる魔石の量じゃなし、一か八か限界引き寄せて迎撃するしか……。
そう腹を括って身構えた俺だったが、予想外の方向から横槍が入った。
「は、ザマー見ろ……へっ?」
あと一歩で俺を巻き込める範囲に入るって時、杖持ちの足元から緑色の光が立ち昇る。
するといきなり光った場所から強烈な上昇気流が発生し杖持ちを宙に身体ごとかち上げる。
何が何だか知らんがMPが抜かれる感じからイセットが何かでしてのは分かった、なら俺がやる事は……
「ぎぁあぁぁぁあー!?!」
「この隙に逃さない、だけ!」
「ぐえェー!?」
『風魔法』強制的に腕を押し出して腹に握ったままだった炎の爪を叩き込む。
それと並行してありったけ魔力を乗せて爆弾と思われる物騒な袋を上昇気流に合わせる形で上空へと吹っ飛ばす。
コウァ――――――――――ッッ!!!!
次の瞬間、辺り一帯に撒き散らされるあらゆる物壊さんばかりの轟音と、身を持ってかれそうな程の爆風を見舞う。
治したばかりの鼓膜がまた破れたが、これで……
「――――ッ!?!」
……こいつにトドメが刺せる。
爆発が免れたことで俺が油断してると踏んで、魔法で石礫を作っていた杖持ちの腹に爪をもっと深く食い込ませ内蔵を焼き焦がす。
嫌な匂い残して杖持ちは息絶え、同時にイセットも剣使いを脳天から両断して仕留めたのが見える。
奴らのアバターが消えるのまできっちり確認してから、早急に鼓膜を治し、絞り出すようにこう言い放つ。
「やっと、終わった……。イセット俺ももう限界、頼むから繭内まで運んでくれ……」
「……~♪」
ここへ来て、やせ我慢してた疲労が一気に押し寄せてきてその場に汚れなど気遣う余裕もなくぶっ倒れる。
情けないと思うかもだが、今日はもう本当に限界一歩も動けない、動きたくもない……。
まぁ、最後にこんな感じでかなり締まらない格好にはなったが――
―― こうして俺とイセットの初の対人戦は無事、勝利という形で幕を閉じた。
と言う訳で初プレイヤー遭遇(PK)でした。