蜂蜻蛉乱獲戦 ー前ー
また前後編になっちゃいました……やっぱ分量調節がムズいです。
「何にしても今はまずここから動かないとな……大声あげちゃったし」
「……~♪」
照れくさそうに頬を掻きながら、くすくすといった感じの表情のイセットとその場を駆け去る。
走りながらも幾分か冷静になって頭で、やる事とやるべき事そしてやれる事を整理していく。
だからと言って手掛かりはない、現実世界でも研究者の人達はそれに関しは何も教えてくれなかったし、自分で調べる余裕は無かった。
この深い森中でなんの根拠もなく無闇矢鱈と探しては『架け橋』を見付けるのにはどうしても時間掛かる。
だったら焦ってあっちこっち飛び回るんじゃなくて、現状でイセットの死のリスクを少しでも減らす方に焦点を合せるべきだ。
「自分で何か出来る事は…………これは、いけるか? でも、SPが足りない……」
何か有用なスキルはないかと、習得可能スキルのリストを流し読みしていたら、追加されたスキルで1つ気になるものが引っ掛かった。
だが必要なSPは5、で今の俺が……
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名前『アベル』 性別『男』 種族『人間族』
レベル『17』 属性『無』 特性『なし』
《スキル》
『走行LVMax』『風魔法LVMax』『水魔法LVMax』『光魔法LV8』『素手LVMax』
『抗魔LVMax』『追跡LV6』『索敵LV8』『隠密LV7』『偽装LV6』
『魔量再生LV6』『固定LV4』
《称号》
『大物殺し』『密偵』『起死回生』
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……って状態で現在の残存SPは4、要求SPは5だから後は1レベル上げればいい。
それに丁度いい魔物(経験値)の目星もついている。
ただ問題あるとすればLVMaxのスキルに現れた項目……上位化と統合化だな。
レベルMaxのスキルに何か変化はないかとついさっき詳細情報を表示してみたのだが、案の定詳細にはそのスキルの上位のスキルと統合スキルを選べるようになっていた。
これでなんのインフォもないのは正直悪意しか感じない。
「統合出来るのは『水魔法』と『風魔法』での『水流魔法』1つだけか。そして当然どっちもSPがいる、と」
上位化はなんかわんさかいるけど、今は省略するとして。
統合、上位化をして純粋に強化での安全策を図るか、それとも不確定要素もある新スキル習得して突破口を探るか選ばなきゃいけない訳だ。
「……ま、これはまずレベル上げに成功してからだな。イセット一旦繭に戻るぞ!」
(ゴロゴロ~♪)
「いや、地べた転がらずじゃんと、普通に翅で飛べよ……」
捕らぬ狸の皮算用をしててもしょうがないと、気を引き締め直し、時にじゃれつつイセットと共に仮拠点の巨大繭へと帰って行った。
♢ ♦ ♢
「どうだ、お前の目でもよく見えないか?」
「……~♪(ゴクゴク)」
「よしっ! これで大体の場所には設置完了」
あれから数時間後、俺達一旦仮拠点の巨大繭に寄って諸々の準備を済ませ、あの蜂蜻蛉が大量にいた方向へと罠を張り巡らせながら近付いていた。
このあたり現在、大量に経験値を獲得出来る場所はここ以外だと上空の鳥型魔物しかないが、あんななんの障害物もない虚空で鳥の群れと戦うとか正気の沙汰ではない。
だからと言って狩れるどうか分からない新しい獲物を探すのもリスクが高い。
ならばある程度戦術が割れている蜂蜻蛉の群れを相手する方が、他よりはよっぽどましだ。
万全を期すためイセットの糸でいつもの罠を張り、俺が『偽装』徹底して隠し、やつらと同じ複眼を持つイセットに審査してもらう。
後はこの罠地帯(会場)に蜂蜻蛉をどうご招待するかなんだが……。
「まぁ、これは俺が囮になるしかないか」
(ゴロゴロ!!)
「ダメだ、イセットがやる場合、かなりMP使うだろ。色々と危ういから許可出来ない」
「……ー」
「はは、そんな心配しなくても大丈夫だ。今回はもしも備えも一応あるから。じゃ行ってくるから、ちゃんと隠れてて!」
不安そうな顔をするイセットを指でそっと撫でて宥め、昨日蜂蜻蛉と出くわした所まで疾走する。
ああは言ったが不安要素があるのには変わりないし、”備え”もあれは万が一に出来れば助かるってだけで確実性は欠ける。
「それでもやってやる。これ以上イセットに無理はさせられない」
俺が下らない感傷に囚われて暴走したせいで、またイセットを危機に陥らせた、これ以上そんなことはさせない。
そんな決意を反芻しながら森を掻き分け進むこと十数分、やっとこ蜂蜻蛉が数匹見えて来た。
「おっとと……」
そいつらの視界に入る前に『隠密』発動して『偽装』で身を隠し、跡を着ける。
まずは蜂蜻蛉の巣を見付けて、あの罠地帯来るやつの数出来るだけ調整する腹積もりだ
都合の良い事に蜂蜻蛉共は今狩を終えたばかりなのか、獲物を持って飛び立とうしているところだったようだ。
これを追っていけば恐らく蜂蜻蛉の巣に辿り着けそう、なのだが……。
「……やっぱ早い。こっちは『追跡』使ってるのに、気を抜くと一気に引き離されそうだ」
それとあまりデカい音が立てる訳にもいかないから『風魔法』を併用出来ないのが痛い。
見失いかけながらも必死に追い縋り、そこまで離れてない場所に巣があったのか、数分経たず何とか目的地へ
着いた。
「……これは、また珍風景だなぁ」
そして着いた先にあったのは一本木が生えている池、ただし普通の池ではないのは一目瞭然だった。
そこには木の根元に生えた蜂の巣が池へ沈められていて、その蜂の巣から出入りして水中を小さなバグエッグが泳いたからだ。
よく見ると池には多分スズメバチなどか作る肉団子も居て蜂より蜻蛉の幼虫に似た虫がそれに群がっている光景と、なにかピクピク痙攣している肉団子にバグエッグが群がり体当たりする光景が見受けられた。
幼虫……多分、蜂蜻蛉版の魔幼虫は餌やりだと分かるんだけど、バグエッグの方は何を……?
「あ、孵化った」
なるほど、バグエッグの方には弱らせた獲物を仕留めさせてレベル上げ育てているのか。
それによく考えると、そのための獲物は『喰香』で丁度いい雑魚が引き寄せられるだろうし、不足することはない。
上手く出来てるもんだな……と、もっと注視してみると、弱った獲物はバグエッグだけが仕留めていた。
あれ、どうやって蜂蜻蛉になるんだ、と思いきやそれはすぐに答えが見られた。
だった今、他より少し大きめの何もしていない蜂蜻蛉の幼虫の背中が割れて、瞬時に蜂蜻蛉へと羽化したのだ。
それを見て1つの仮説が浮かぶ……ちょっと確認することにしてみよか。
「ふむ……ちょっくら失礼、と!」
「シィ……?」
静かにそう言って糸が繋がっている石を投げ、蜂蜻蛉の幼虫に軽く当てる。
無論これはただの糸つき石ではなく、イセットに予め出してくれた石の部分が粘着糸で覆われた、言ってしまえば捕獲用の道具である。
まぁ、俺の投擲技術はそれほど高くなので蜂蜻蛉には通じないだろうが、今のような状況にはとても有用だ。
しっかり幼虫がくっ付いたか確認し、一気に引き寄せる。
「やっぱり攻撃しない……気は進まないけど、やらなきゃ。ごめん、なっ!」
「……シィッ!?」
流石になんの危害を加えない生物を殺すのにまだ抵抗があり、つい謝りの言葉を口にしながら拳を振り下ろす。
するとあまりにも呆気なく、本当に羽虫が潰されるように幼虫は死んだ。
やっぱちょっと罪悪感が湧くが……これで確信した。
「蜂蜻蛉は転種進化した個体だ……」
レベル10に達した個体にしちゃ脆すぎる、打たれ弱い種族だとしても、ここまで脆いのは不自然だ。
なにより自分が死ぬ寸前まで抵抗の意思さえ示さなかった、多分この幼虫の姿がイセットの『蛹化』に該当する形態なのだろう。
それと蜂蜻蛉単体が普通に2回進化したにしてはちょっと弱いのも確信を得た要素の1つだったりする。
「ま、何にしたって予定に変更はないがな」
寧ろご都合だな、池の中にいるのは障害になりえない、おまけにここは完全に蜂蜻蛉の領域で他の邪魔もないという事なのだから。
懐に手を入れて白い物体……イセットの作った網の束を取り出す。
蜂蜻蛉が密集してるとこに網の束を投げ、『風魔法』で空気をかき混ぜ網が広く散らばるようにする。
「「ギチィ!?」」「ギチギチッ!?」
「ギチギチィー!?!」
網に絡み取られた蜂蜻蛉が次々に落下し、第一段階は無事成功。
次に手元に残っている糸を持ってもっと後方へ下がり、炎の爪で引っ掻いて火を点ける。
この糸はすべての網に繋がっている、それを燃やせばどうなるか……敢えて言うまでもないだろう。
「「「「……!?!?」」」」
「ッッ!? 視界が、燃えて……」
今にも胃がムカムカとして、腰も抜かしそうだ。
結構距離を取ったつもりだったが……はは、それでもこの猛火はキッツいな……。
でもそんな甘ったれた理由でビビってる余裕は、ない!
「ぐふっ!!」
どうも喝が足りてないと思われる自分の顔面に、強烈なパンチをかましお灸を据える。
「ぐぅ……。しっかり、しろ。ここから本命、だろうが」
頭がくらくらするが、お蔭で余計なもんが吹っ飛んで腰は抜かさず済む。
今は方向と足がはっきりしてるとそれでいい、過去の幻影なんてぶっちぎってしまえ。
「ギチィー!」「「「ギチギチ!!」」」
「「ギチギチィーッ!!」」
網と炎を免れた蜂蜻蛉の生き残りが、いきり立ち俺に向かって殺到する。
「よーし、そう……来なくっちゃ。また鬼ごっこといこうぜ、羽虫共ォー!!」
―― まだ少し覚束ない足を誤魔化すように、気炎を上げながら踏み出した。
・蜂蜻蛉
天敵である蜻蛉を返り討ちにし続けて、その肉を食らって進化した女王蜂蜻蛉が始祖として生まれ落ちた新種。
女王蜂蜻蛉が産卵したバグエッグには生まれつき『蜂蜻蛉の系譜』という称号が付与され、それ持つもの同士では本能的に共同体を築かせる効果がある。
その代わりに『蜂蜻蛉の系譜』を持つものは蜂蜻蛉関連以外の進化の道が絶たれしまう、かなり特殊な部類の群衆型魔獣。




