特性
遅くなってすんません、設定詰めるのに時間が掛かりました……。
代わりに今回は長めです。
「ちょっと拠点から離れただけなのに、えらい目にあった……」
(ゴロゴロー……)
その後、無事蜂蜻蛉から逃げ果せた俺たちは色々な疲れで糸の床に身を投げだし、寛いでいた。
「はぁ……。今回の戦い反省点が多過ぎるな」
迂闊にあの群れに挑んだこと、イセットの変化の把握を怠ったこと、まだまだ決定的な瞬間の油断が抜け切らないとこ……これ以外にも細かく指摘したらキリがない。
しかも今度は危うくイセットが死にかけたのだ、食料ある程度確保出来たし今日の残りはイセットの現状把握に費やす必要がある。
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名前『イセット』 性別『メス』 種族『虫精』
種族レベル『14』 属性『無』 特性『甲殻、旋回、魔力体』
《スキル》
『縦横無尽LV4』『剛柔兼備LV3』『風魔法LV9』『糸生成LV9』
『鎧術LV6』『増力LV6』『防御LV6』『操糸LV4』『忠心LV3』
『手当LV2』
《称号》
『名有化物』『付き従う者』『戦士』『唯一化物』
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まずは手っ取り早く確認出来るステータスから見れる情報を頭に叩き込んでから、イセットがゴロゴロしている方に体を向ける。
「イセット『剛柔兼備』使ってみてくれる? やれそうなこと全部やる感じで」
「? ……~♪(ゴクゴク)」
検証のしようがない『忠心』を除いて、他のスキルについては大体分かっているし、特性はちょっとした確認だけでも危険がありそうなのがあるんで後回し。
と、なると未だに全容をあまり知らない『剛柔兼備』を先に調べるとしよう。
理由は分かって無さそうだが、イセットも快諾し早速スキルを発動してくれたっぽい。
「ふーむ、『硬化』みたく光ったりしないのか。でも……柔らかいな」
「~~♪」
元が硬い甲殻なのにも関わらず、水風船かというぐらいにズブズブと指が沈む。
その頬を突っつく感覚がくすぐったいのか、楽しいそうに身を捩るイセット。
手に伝わる感触も含めて中々と癒やされる光景だが、ずっとこうしてる訳にもいかんので次のステップへ進む。
「今度は硬くしてみて」
(ゴクゴク)
一度も指を離し、イセットの調整が終わったのを確認して再び頬を突っつく。
うーむ、当然だけど、硬い! 本当に石か鉄みたいだ。
それにさっきとのキャップが酷過ぎて違和感が半端ない。
イセットの体はあまり体温が感じられないので尚更そんな印象を受けるのかもしれないな。
「今度は好きなように調節してみてくれる」
「ッ! (ゴロゴロ!)」
あ、頷いてただけなのがゴロゴロになった、なんかやる気スイッチっぽいのが入ったみたいだ。
むむぅ、といった表情でこめかみに指をつきムニムニと体を剛柔を調節していく。
ふーむ、ステータスを見るにこの剛柔の調節はかなりMPを食うらしく、イセットの膨大なMP量でさえこれだけでバリバリと減っている。
戦闘の際にこの消費量はちゃんと気を遣わないと致命的になるかもしれない、実際に前に戦った赤石がそうだったように……。
「……ー!」
「お、やっと終わった……っとと、分かったそんな急ぐなって」
そうやって10分ほど経過した頃か、MP2割減った辺で漸く納得いく出来に仕上がったのか、糸まで使って手をグイグイ引っ張ってくるイセット。
こんなに急ぐとは、はてさて一体どんなものか……。
と2、3度指で突っつき……衝撃を受けたように固まる。
「お、おう……これは、素晴らしいな……」
この言葉では言い表せない柔らか過ぎず、硬過ぎずの絶妙な弾み。
出来ることならこのまま感触を楽しみたいような、そんな快楽じみたものすら感じる神秘の甲殻に心を奪われる。
頬だけでは足りないと、滑らかな曲線を伝い首筋を、腕を、太腿を、とぷにぷにしながら楽しみ、そのままエスカレーターしていくように体の線を辿り、白くきめ細かい線のベールを掻き分け胴の方へ……
「……~~♪」
「……はっ!?」
……ってなりそうなとこでギリギリ正気へ戻り、慌てて手を引っ込ませる。
あ、危なかった……何が危ないかよく分からないけど、今とても危うくラインを越える所だった気がする。
いや、好きにやってと言ったのは俺だけど、まさかあんな危険なものが生み出されるとは……。
『剛柔兼備』の美殻、恐るべし……。
(ゴロゴロ~!)
イセットは見事なドヤゴロであったのだが、俺の方は正直さっきのは封印させるべきか否か、真剣に悩んでいたのでそれどころではなかったのだった。
♢ ♦ ♢
平常心に戻るのに暫し時間を要してから、次のステップ……今回もっとも重要な特性の検証に移る。
まず特に大した問題がないように見える『甲殻』と『旋回』から。
「つっても『甲殻』って何を確認すればいいんだろ?」
いや、そもそも何でインセットフェアリの特性には『甲殻』があるんだろう? 一番特性と言えそうな『飛行』みたいなのは、ないのに……。
そしてそれを言うなら、二足歩行も言うなれば人間種の特性とも言えるのに、それもない。
「そもの話し、特性って何が基準で付けられるんだ?」
ここまでの情報で予想するとなると……当たり前過ぎるのはシステム的には特性として設定していない?
妖精が空を飛ぶのはわざわざ特性という形で補正などを付与しなくても扱えるほど当たり前に出来ること……いや、自然にすることだ。
人間が歩くのだって同じ……や、それだと魔幼虫の『蠢爾』には疑問が……ああ、いやそれいうなら芋虫は本来『蠕動』の方が正しいのか。
だから漢字読みが魔”幼虫”なのかも、蜻蛉とか蝉の幼虫は普通に足あるし。
「内容を整理すると備え付けと外付けの差ってとこか……」
妖精という種族に『甲殻』が無理があったから特性という形で外付けで付与された。
既に兼ね備わっている部分は、その必要ないから付与されなかった。
そう考えると一応は辻褄が合う。
「いや、もっと製作側の意図を考慮に入れると……そうさせたいものを特性で強制している、ってとこか」
そうだ、WCOはかなり高レベルのAIを使用している、そうなると身体に引っ張られず製作側からあって欲しいその生物の習性までガン無視される可能性が出てくる。
だから縛っているんだ、特性という形で無理矢理に……。
「そこまでしなくていいだろ……」
よくよく思い返すとあの慎重な黒猪が挑発にやけに反応がいいのもおかしかったんだ。
多分だが、そういう煽りに弱くなる特性を所持していたのだろう、ならあの煽り耐性の無さにも納得がいく。
ほんと、ここの開発は程度ってものがないのか……。
「と、なると『甲殻』にも行動を誘導するための仕掛けがあるはず」
『甲殻』を持ってしなきゃいけない行動としなきゃだめな行動が設定されているはずだから、まずそれを探る。
一般的なイメージとしては軽く硬くしなやかであり、有機物だから燃えやすい、って所か。
普通なら巨体になり辛いってのもあるが、あの蜂蜻蛉を見るにここだとその常識は当てに出来なそうだ。
ってなると、確かめる方法は……
「気が進まないけど、これしかないよなぁ……。
ぶつくさいいがならと腰紐から炎の爪を取り出して、手の中でいじる。
「イセット悪いけど少しだけじっとしててくれ」
「……~♪(ゴクゴク)」
イセットがいいよって頷くのを確認をとり、使うのは不安しかないが、他に手がないと渋々とイセットに、でも出来るだけゆっくり近付け……瞬時にパッと離した。
「……!?」
「なっ!?」
嘘だろ、今ので少しだけどHP減っている、まだ触れていなかったんだぞ!?
バッグエッグ時代には一度も火を使う敵と合わなくて本当に良かった、もしあっていたらイセットは今日ここに居なかったかもしれない。
「これ以上『甲殻』の検証は危険だな……なら次は『旋回』だ」
(ゴロゴロ?)
イセットが『旋回』と聞いてすぐ「これ?」と言わんばかりゴロゴロしてきた。
いや、合ってるけどさ、そうじゃなくてね?
「えーと……そのさ、暫くまったく回らずじっとしててみてくれるか?」
「……!?!」
そう言った瞬間、びっくりした顔で口を開きっぱなしにして固まるイセット。
や、何もそこまで驚かんでも……。
「そんなにいやなら、ならこれ以上無理言わないよ。さっきも痛い思いさせちゃったし」」
「……………………ー(ふるふる)」
イセットの今後の安全のためには確認しておきたいが、それで本人に嫌われると元も子もないから、気を遣ってそういったんだが……。
すっっっっごい悩んだ末に承諾してくれた、
この前まで顔面筋すら無かったのに、ほんと表情豊かになったものだなぁ……と、感心しているとイセットが要望通り地に降りて正座の体制で止まる。
「……」
「……ー」
座禅でもしてるかのように、何故か二人して無言なる中、重苦しくも長い時間が流れる。
イセットからも何か修行僧みたいな雰囲気が……そんな煩悩を断ち切る程にムズいことなの?
そうやって10分ちょっとした時だった、遂に待っていた、一方起きて欲しくなかった変化が訪れた。
顔色が悪くなりはじめ、目に焦点(複眼だからあくまで雰囲気で)が合わなくなっていき、やがて手で口抑える……どう見ても酔ってるな。
「……、ー」
「ストップ……じゃなくてもう動いていいから!」
(ッ、ゴロゴロゴロンー!!)
「はは、お疲れ様」
生き返った~って全身から滲み出ている、どんだけ転がりたかったんだ……。
しかし定期的に転がってないと酔うのかー、これは何酔いって言えばいいんだろ、不転酔い?
これで『旋回』のデメリット大体分かった……
「……本当に、お疲れ様」
(ゴロゴロ?)
……そして、これで芋虫時代は相当無茶をしていたのがはっきりと分かった。
きっと『蠢爾』にも似たような枷があったはずだ、なのにこの子は転がり続けた。
俺のため、強くあるがために……だから今度は俺がこの子を守らないといけない……そのためにも一刻も早く検証を終わらせないと。
次はいよいよ最後、『魔力体』の検証だ。
「でもこれはな……」
『魔力体』の検証は、一歩も間違えると取り返しの付かない、それは女王蜂蜻蛉戦で嫌というほど分からされた。
だからといって不明点を明らかにしとかないと、それはそれで危険過ぎる。
そんなのいつ誤爆するか分からない銃の引き金を壊れませんようにと祈りながら引くのと一緒だ。
意図的にHPを減らすのは危険、ならやれるのは……
「イセット何でもいいからMPを出来るだけ消費してみてくれない」
「……ー。~♪(ゴクゴク)」
『魔力体』とは一番関係が深いはずの魔力(MP)を消費させて様子を見る、と思ってそう言ったんだが。
ソレを聞いたイセットは明るい顔で頷いてくれたけど……何だろ、どこか翳りがさしていた気が……いや、そんなMPを使うだけだ、そんなはずない。
どこか言いしれない不安を懐きながらも、イセットは俺が頼んだ通り『操糸』、『風魔法』、『剛柔兼備』のMPを消耗するスキルを次々起動する。
それから操作した糸の剛柔の調節し宙に立体的絵を描く、それの上を風に乗って転がり舞う、みたなのをして5分が経過頃、MPは3割程が減った。
……意図的に多量垂れ流しているのだろう、消耗が早い。
暫くして4割、更に時間が過ぎて20分辺りに遂に5割を切り――
「ッッ!?! イセット今すぐやめろ!!」
「……ー」
俺があまりの光景に声を荒げて叫ぶと、まるでそうなると分かっていたばかり、すんなりとスキル使用をやめるイセット。
なん、だ、今のは……一瞬だったけど、あんなの……それなのに、何でイセットこんな冷静に……ッ。
「なぁ、最初から分かってのか?」
「……ー」
「最初っからそうなると分かってて進化したのか聞いてんだよ!!」
「……、ー」
イセットは何を答えるでもなく、いつものように楽しげに転がるでもなく、ただ穏やかに微笑んでいた。
存在が掠れかけている、透明になった右腕を庇って……
奴らは主がために自分のありとあらゆるモノ顧みない。
それはとてもなくバカで愚で矛盾した生き方だ、おらぁそうは絶対に逝きたくない。
だが、自分の主を守り死んだ、あの最後の一匹の虫けらだけが……何故かとても美しく見えたよ。
ー 『蟲災』にて死した英雄 コニィ・スティングレィ




