フェアリインセット
連・日・投・稿、です!
純白のドレスと長い髪を靡かせ、四枚の翅をばたつかせながら優雅に滞空する妖精……イセットが黒猪の前に下降して平べったい鼻先に停止したかと思うと腕を一振りしてから直ぐにバックに飛行で退避。
黒猪は当然追撃しようと進もうとするが身じろぎするだけで動けない様子だ。
「ブルルゥ……」
……一瞬過ぎて良くは見えなかったがイセットの手から無数の糸が吹き出して滑らかに宙を舞い、周囲の木の幹を支えにして四肢を拘束したと思われる。
イセットがもう一方の手を振るい今度は俺の胴体をぐるぐる巻きにして『風魔法』を併用して引っ張って空中へ飛翔。
「うお!?」
飛翔と言っても俺が重いせいでギリギリ森の木の天辺を通れる程度の高度だ。
平時ならもっと優しく運んでくれないかと文句の1つでも言いたいが俺そして、実はイセットもそんなに余裕はない。
俺は全身くまなく無事なとこがないし、イセットの表情らしい表情を作れるようになった顔にもはっきりとしたと疲労が浮かんでいる。
『糸生成』で糸を出せば腹が減る、そしてさっき黒猪を足止めするため限界まで糸を生成したイセットは一気に莫大な量のカロリーを消費した筈だ。
要するに早く何か食べないと体力が保たない、それで落ちると今度こそ踏み潰されて終いだ。
「魔力は……まだあるから。引っ張るだけ、にしといて……」
イセットの負担を少しでも減らすため自分で『風魔法』を使い体を浮かせる。
かなり強めに、それでいて体をイセットが引っ張る方に押す感じで風を吹かす。
……そうやって暫くの間、絵面は完全に妖精に拉致される人間にしか見えない状態の空の旅が続いた。
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名前『アベル』 性別『男』 種族『人間族』
レベル『16』 属性『無』 特性『なし』
《スキル》
『走行LVMax』『風魔法LVMax』『水魔法LV9』『光魔法LV8』『素手LVMax』
『抗魔LV9』『追跡LV5』『索敵LV7』『隠密LV6』『偽装LV5』
『魔量再生LV5』『固定LV3』
《称号》
『大物殺し』『密偵』
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名前『イセット』 性別『メス』 種族『虫精』
種族レベル『11』 属性『無』 特性『甲殻、旋回、魔力体』
《スキル》
『縦横無尽LV4』『剛柔兼備LV1』『風魔法LV7』『糸生成LV8』
『鎧術LV5』『増力LV5』『防御LV5』『操糸LV1』『忠心LV1』
《称号》
『名有化物』『付き従う者』『戦士』『唯一化物』
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《転種進化の全行程が完了しましまた》
《『魔幼虫』から『虫精』に進化しました》
《進化ボーナスにより統合可能スキル『硬化LVMax』と『弾化LVMax』が自動統合します》
《スキル『剛柔兼備LV1』を習得しました》
《スキル『操糸LV1』を習得しました》
《スキル『忠心LV1』を習得しました》
《称号『唯一化物』を獲得しました》
《『糸生成』レベル7がレベル8に上がりました》
《種族レベル10から11に上がりました》
「……何か、色々すげーことになってんな、イセット」
森の上を飛び、黒猪から何とか命からがら逃げ果せた俺とイセットは、大きな茂みの中に身を寄せ合い息を潜めている間に俺のと進化したイセットのステータスを確認を行う。
俺のは……まぁ、昨日から多様なスキルを使いっばなしだったので全体的にレベル上がりいいのとひょろ長幽霊を倒して(しれっとイセットも)レベルアップした以外は特に言うことはない。
魔虫から進化して虫精になったイセットだが項の上から下まで変わってない所がない。
今までずっと『未定』だった性別が『メス』になったり、前の特性が全部消えて新しく『飛行、旋回、魔力体』に置き換わったり、称号が増えたり、スキルに至っては新しく増えるどころか統合されたりと本当に目まぐるしい程に激変している。
「それに……。えらく別嬪さんになちゃったな……」
(ゴロゴロ~♪)
「いや、流石にもう転がらなくていいよな?」
(ゴロゴロ!?)
「そんな、ショック受けるようなことなの……。んぐ……、おう、しっとりサラサラだ」
虫精となり容姿が人間のそれになっても俺の体の上を戯れるようにゴロゴロと転がり顔面に来てゴロンと俯せに寝転がるイセット。
そこで初めて、進化したイセットの姿を細部まではっきりと見れた。
今のイセットは背丈15cm程の小人みたいなサイズをして、背中からは両端を合わせて横幅10cm程の翅を生やした全体的に白い、まるで可憐な少女のような妖精の姿になっている。
そしてドレスだと思っていたのは実は体毛だったらしく肩甲骨周りと腰周りを円を描くようにグルっと長い毛が整然と伸びていて、それが光を反射してキラキラとした華美なドレスのように錯覚させていたのだ。
それに遠くからはよく見えなかったが、2本の触角が眉毛代わりにいる目元は全体的に白い他の部位とは対照的に白紙へ漆黒の絵具を一滴垂らしたが如く真っ黒な色だった。
その吸いこまれそうな瞳を覗いてみると、そこには区切られた無数の小さな個眼が収められているのが見て取れる……どうやら目は複眼になっているらしい。
瞼もないのか瞬き1つしないのは見る人によっては不気味に感じるかもしれない。
それに体の方もよく見てみると皮膚だと思っていた部分は甲殻で出来ているのか関節には節があり、それがまるでアンティークドールを彷彿させる。
確かにこれは虫の妖精だと言うのも納得の、はっきり言って異形ではある。
「まぁ、俺は気にならないから別になんの問題もないけどな」
(……?)
「何でないよ」
(ゴロゴロ~)
俺の独り言に怪訝そうに首を傾げてたイセットが「なら、いいや」と言いたげにまたゴロゴロし始める。
感情表現が豊かになったからか以前よりも意思疎通しやすくなったので寧ろプラスってか、俺的にはプラス要素しか見当たらない。
俺からしたら、その虫と妖精混ざりあった異形の姿も、これはこれで特異な美を醸し出している、と思う。
「それはもういいとして……。治りそうにないなぁー……」
(ゴロゴロ……)
考え事をしながらも『光魔法』と『水魔法』での治療は継続的に施しているのだが一向にHPバーが戻る気配がない。
いや、少しは……具体的に4割まで戻ったのだがこれ以上がどうしても回復しない。
多分、再生させるだけでは足りないという事だろうけど……俺が自分の体を看ようにも未だに体は微動だにしないから、何とも歯がゆい状態が続いている。
「どうしたもんかな……。突破口になるスキルを取ろうにもSPが足りないし、動けないから稼ぎようも無い」
俺が途方に暮れているとイセットが何か決心した顔をして翅を振動させて浮上し茂みの外へと飛び出す。
「おーい、イセット何処行くんだー。流石に今一人にされるとかなり心細いんだけど……」
情けない事を言ってる自覚はあるが身動きが取れない状態で一人ってのは想像以上に心にくるものだ。
長くその状態が続くと気温が低ないのにうすら寒気を感じて、このまま一生動けないのではとか余計な事ばっかり考えるようになる。
それは俺にとっては洒落にならない恐怖であり、トラウマである。
「……~♪」
「……はは、ちゃんと見えてるよ~」
そんな気持ちに勘付いてかはしれないが、俺を安心させるために笑顔を向けて元気に手を振って示している。
「どこにも行かないよ」、って……まぁ、ただ気のせいかもだが、それでも心の中にあった不安はしかと薄れていった。
俺の表情から解れたのを確認してイセットもっと上空へと上昇、腕を広げて力強く突きだす。
次の瞬間イセットの指の甲殻の隙間から『糸生成』の糸を噴出遠く長く流麗に広げていく。
それはまるで虚空に白く煌めく樹木が2本、左右に翼の如く広げてくような幻想的な光景であった
・『操糸』
MPを消費し糸を自在に操れるようになる。
・『忠心』
”主”の関係にあるモノと共にいる際に『忠誠度』の値によってステータスが変動する。
*称号『唯一化物』の通知を書き忘れたのを加筆修正しましまた。
『剛柔兼備』については……本編で!