あなたがワタシをくれたから……
ちょびっとだけ短い。
(コロコロ)(コロコロ、コロ)(ゴロゴロ)
プチッ
今日も転がっていく……
(コロコロ)(ゴロゴロ)
グシャッ
今日もまた転がっていく……
(ゴロゴロ)
今日も……ただ転がっていく……
「グルルァー!!」
(ゴロゴロ)
今日も……コロガッテイク。
ワタシの生はそれだけだった、それ以外には何も無かった、許されなかった……何も、出来なかった。
そうやってまた転がって転がって転がって転がって続けて、そして躓いた……
きっとそれワタシ達の必然で運命なのだろう、みんなそうだったのだから。
これでワタシの短い、あまりにも短い生の全て終わる……はずだった。
ワタシを脅かす敵を襲いかかった背の高い別の”敵”によってその未来は阻まれた。
でも、その時はただ終わらされる対象が変わった、それぐらいの認識だった。
だって今までもずっとそうだったんだから。
どのようなモノが来ようと、それはワタシを壊し、甚振り、食らうがためだったから。
だが、予想に反して”敵”は襲って来なかった、どころかまるで関心がないみたいだった。
ワタシはそれが不思議でついその”敵”に近づいてしまった。
何故だろうか? 今までなら転がって逃げて転がって逃げて、また躓くまで転がり続けたはずなのに……その時は何故か近づきたかったのだ。
そこで初めて”敵”はワタシを見た。
そこに殺意などなかった、残虐などなかった、食欲すらなかった。
衝撃的だった、今までもそのどれもを向けて来ない”敵”などワタシの世界にはいなかったのだから……
だからなのだろうか、いつの間にかワタシは願っていた……この”敵”について行きたいと。
そうしたら”世界”がワタシの願いを”敵”に届けてくれたのだろう、と本能的に分かった。
”敵”は少し悩んだ後、彼はワタシを受け入れ、その日からその”敵”はワタシの”主”となった。
それからのワタシは怒涛の日々だった。
名前を貰った、力を貰った、温もりを貰った、そして自分を貰った。
だからどれだけ大変なことでもする、主の力になるがために。
例えそれがワタシの生物として定めを破ることで、どれ程の苦痛に苛めれようとも……
「グギャー!」
(ゴロゴロ……!)
耳障りな不快な鳴き声にワタシは過去の追憶から現実に戻る。
体のあっちこっちに対を成す尖りを持った、ゴブリンが放つ回し蹴りを宙で転がって避ける。
後に続くは蹴りの軌跡をなぞる火の線がチリチリと表皮を焼く音。
戦いの状況は、あまり芳しいものではなかった。
ゴブリンが見せる逃げ場を無くす独特な動きと、ギリギリ躱しても今の通り尖りから噴き出た火炎に少しずつだが身を焼かれ、ジリジリと命を削られていく。
それに対してこっちの糸での攻撃はその火に燃やして封じ、迂闊に接触すればあの鋭い尖りを差し込まれ瞬時に体を内から燃やし尽くす。
既に『風魔法』での斬撃も試してみたが強靭な糸の補助がない風の斬撃では些か威力が足りず、かすり傷か打ち払われるかのどっちかだ。
因みにワタシの主が拙いながらも丁寧に作ってくれた革鎧は結び目が焼け落ちてバラバラになり脱がされている。
不便もあったし決して出来がいいとは言えなかった、それでもワタシの身を守る一手であり何よりあれも主に貰った大事なものの1つなのは変わりない。
その悲しみと憤りをぶつけるようにゴブリンを攻め立てるが、その一切を流され躱され挙句の果ては反撃をくらい火の余波で傷を増やすばかり。
この間新しく得た『縦横無尽』の力も数合やりあってるうちにゴブリンはワタシの動きを正確に捉えてみせた。
多分ながらくワタシと似たような戦い方をするあの空を飛ぶ石との戦いを何度なく繰り返して来たのだろうと、あまりにもなれた手際を見てそのことに本能的に気が付いた。
「グギャギャッ」
(ゴロ、ゴロ!)
相性が悪過ぎる……本来なら直ぐに戦うをやめて、逃げるべき相手だ。
もし、ここでワタシが逃げてゴブリンを振り切ってしまえば、戻って来た主はゴブリンの群れと合流したこの強いゴブリンと群れを同時に相対してしまう。
それはだめ、ワタシが主から何であれ奪ってならない、していい訳がない!
(ゴロゴロー!!)
「グギャンーッ!?」
こんな時に主はどうしていた?
決して引く事の出来ない戦いで壁にぶち当たった時に、ワタシの主ならどうしていた?
決まってる……望む未来を掴むために、自分など顧みずどれだけ困難でろうとその障害を打ち破る!
自身が焼かれ裂かれようと構わず肘の尖りを突き出したゴブリンへと『縦横無尽』を全開で突進する。
驚くゴブリンの顔に『硬化』した体が全速で衝突、顔面の右手側が凹む。
「グギャー!!」
(ゴロッ!)
にも関わらず膝蹴りで反撃したが、ワタシは躱すのではなく串刺しならないようにだけ気を付けてゴブリンの太腿に貼り付く。
ワタシを引き剥がそうとしたが『増力』を持つワタシは簡単には剥がれない。
『糸生成』で糸を大量噴出して、がむしゃらにワタシとゴブリンを雁字搦めにする。
ボォー!!
「グギャアアァァァァァアアーッ!?!」
メラメラと糸を伝い炎がワタシとゴブリンを包み込む。
火に強い身を持つゴブリンもこれには堪えたのか森を引き裂かんばかりの悲鳴を轟かせる。
ワタシは『風魔法』で薄い風の膜を張ってはいるがそれでも熱は届き、元から熱に弱いワタシの体はそれだけで命(HP)を零してしまう。
ワタシが先に死ぬか、ゴブリンが先に死ぬかの競争。
ゴブリンはワタシを殺そうと膝の尖りを打ち付け、ワタシは炎を強めるためにもっと多量の糸をぶち撒けながらも糸を切るため鋭くなった小さな牙で噛みつく。
お互いがお互いの命を削り合い火花を振りまく剥命の炎舞。
もう少しで大きな炎により儚い命の灯火が飲み込まれんとしたその寸前、ゴブリンの方に変化が現る。
今にも消えそうな程弱々しかった気配が瞬時に膨れ上がり、凄まじい力で死力を尽くし纏わりつくワタシをあっさり撥ね飛ばす。
(ッ、ゴロゴロー!)
空中で減速して地に叩きつけられての死は逃れたが、既にワタシの命は残り僅か。
もう、体に力が入らない……ワタシの体はあの炎により、もうボロボロになっていた。
まばゆく揺れ動く死が、ワタシに歩み寄る。
もうどうしようもない窮地で終わり運命が舞い戻ってかのよう。
でも、ワタシは絶望したりしなかった……だって、また来てくれたから。
「――うちのイセットに、何しようとしてんだてめぇーッ!!」
「グゲェッ!?」
激しく、優しくそして消えてしまいそうな程に儚い、そんな主に。
ああ、だからワタシはワタシをくれたあなたに全部で返してたいの。
「イセット、大丈夫か!? こんな酷い怪我して……」
(ゴロ、ゴロ……ッ)
「え、何を……や、やめろ! 今動くのは……!」
喰らう、喰らう、喰らう、クラウ……。
スベテデ、カエスタメニ。
《種族レベル14から15に上がりました》
《特殊条件『律格反抗』『妖精捕蝕』『変革願望』『絶対忠誠』を満たしました》
《これによりとある特殊進化が可能です》
《ただし、この進化をすると種族レベルは10まで下がります》
《進化しますか? YES/NO》
《YESが選択されました》
《――それでは転種進化を開始します》
保護する習性がない親の元で産まれたバグエックは特性と脆さにより99%が3日内に死を迎える。
つまり、そういうことなんです……
『蠢爾』:虫のように動く。それ以外の動作をした場合その部分は激痛に苛まれる。
『草食』:植物を食べる。他を食べると長い間腹痛が消えない。




