芋虫は戦士の夢を見るか?
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名前『イセット』 性別『未定』 種族『魔幼虫』
種族レベル『11』 属性『無』 特性『蠢爾、草食』
《スキル》
『回転LVMax』『回避LV9』『逃走LV8』『突進LV8』『弾化LV7』
『硬化LV7』『風魔法LV5』『糸生成LV3』
《称号》
『名有化物』『付き従う者』
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・行動ログ
《天職祭壇への接続を確認しました》
《条件を満たしているため、祭壇が起動します》
《魔法士の星石が光を放ち出した……》
《密偵の星石が光を放ち出した……》
《光っている星石の内1つを手に触れると就職が開始されます》
天職祭壇が光を放ち、起動してる側らで俺は、その只中にある我が従魔のイセットの行動ログを開いた状態で状況の推移を見守っていた。
どうやらイセットには俺と同じく魔法士と密偵の条件を満しているようだ。
これで密偵、戦士、魔法士3つが正確にどの星座が対応するのか、それがはっきりしただけでもかなりの収穫と言える。
「はて。イセットは何を選ぶかな?」
ま、上記したのも重要だし知りたい事でもあったが、やっぱり今一番気になるのはイセットがどんな職業を選ぶのかだ。
イセットのならどれについても難無く使いこなせると思うが、それでも期待と僅かな不安が収まる気配はない。
ドキドキと心臓が高鳴り煩く響き、遂にイセットがゴロゴロと動き出して……
……そのまま祭壇を降りてきてしまった。
天職祭壇から、ふっと光の奔流が掻き消える。
あ、これ途中で降りたら普通に止まるのな…………
「……って違ぁーう!? え、何で降りてきたの?」
(ゴロゴロ、ゴロー……)
「へ? あー、なるほど。あの中に気に入ったのがなかったのかぁ……」
(ゴロ……)
どうもうお気に召した職業がなかったようで仕方なく戻って来たらしい。
むぅ……これは困ったな、今は色んな不安要素が潜在しているから出来得る限り戦力を高めておきたい。
でもそれでイセットに無理強いするのも何か違うしな……なら確証はないがあの仮定を試すしかないか。
「なぁ、イセットはどんな職業にしたかったんだ?」
(ゴロ? ゴロ、ゴロ、ゴロゴロー!)
一瞬何故かとゴロっと身を傾げたが、直ぐにゴロゴロとしたボディーランゲージでどのような事がしたいのか必死に伝えようとする。
「えーと、前に出て……敵を、えいえいと? あ、やっつけるね……ふむふむ。あー、うん……なるほどな?」
やっぱまだこんな内容が詳細なのはゴロゴロ会話法だと難解だが……要するに戦線に出て敵とどんぱち出来るのがいいと言う事のようだ。
文面的にそれらしいのは戦士かな。
後はどうやって天職祭壇の選択肢に戦士を出させるかだけど……これには考えがある。
まず、この天職祭壇がいう条件についての考察からいこう。
俺が天職祭壇に上がった際に何を参照して条件を導き出したのか?
メニュー画面を一通り洗ってみたが、それらしいのはステータス欄のスキルぐらいしかない。
あの時俺のスキル構成で当て嵌まりそうなのは『素手』が戦士、魔法全般が魔法士、そして直前に取ったはずの『追跡』が密偵。
そしてイセットは『風魔法』が魔法士の、『逃走』が密偵の条件を満たしたのだと推測出来る。
この仮定があってるなら、戦士というイメージからそれらしいスキルを習得すればいいのではないか? と思うのだ。
イセットのSPも10余ってることだしな、この仮定があってるなら直ぐにでもいけるはず……。
問題はイセットが習得可能スキルでそれがあるのかだけど……うーむ、どれも微妙だな。
剣とかの武器系があればわかり易かったのだが、流石に芋虫魔物に剣の適正はないのか選択肢にすらない。
まぁ、これは俺に『糸生成』とかのスキルがあっても困るのでこの仕様でいいけどさ……。
取ったらとったで何処から糸が出るんだって話でもある……口か? 蜘蛛みたくお尻か?
……あかん、これ以上は想像しちゃあかん気がする……。
「むぅ…………あれ、何でこんなとこに?」
やな想像を振り切るため、唸りながらもイセットの習得可能リストをスクロールしていってたのだが、そこで妙な位置にあるスキルを発見。
ないと思ってた武器系スキルの『鞭術』……イセットは糸でなら鞭のように扱えるので候補にいるの自体は不思議じゃない。
おかしいのは何でなんの脈絡も無くスクロール最下段にいるかってことだ。
俺のリストと見比べてみるとこっちのは武器系と思われるスキルはかなり上の方へ一纏めに並べられている。
こういうリストは表示設定を弄らないと普通は似たような手順になるものだ。
ただの魔物と人間アバターの仕様差かもだが、それでもここまで極端なのは違和感を覚える。
もしや……と思い亀戦辺りのログまで遡ってみるとこんなインフォが書かれていた。
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《一定熟練度に達しました》
《『鞭術』スキルを習得可能になりました》
なるほど、リストにないスキルも熟練度ってのが貯まると選択肢に出るってことか。
そこまでイセットのはログを頻繁に見る訳でもないので気付くのが遅れたが、これで合点がいった。
最近追加されたからリストの項末にいた、という訳だ。
既にある『鞭術』は……戦士ってイメージじゃないが、これなら今からでも条件に合いそうな他のスキルを出現させれば可能性はある。
なら、今から新しいスキルの熟練度を稼がないといけない訳だが……。
「イセット、どうも新しい職業出すにはもう一頑張りいりそうだけど……体は大丈夫か?」
(ゴ、ゴロゴロ……)
な、何とかっ……っていう引き摺った感じのゴロゴロでの回答が帰ってきた。
あんま大丈夫そうには見えないなぁ……それに本当に今日は獅子奮迅の活躍だったからこれ以上は無理はさせたくない。
「やっぱ続きは休んでからでも……」
(ゴロ、ゴロンーっ!)
そう思い気を使って休憩を提案したら、そんな暇はない! とばかり飛び跳ねるイセット。
確かにどれくらい猶予があるか分からない、そしてそれは若しかすると俺よりもイセット方がよく理解してるまである。
何だってこの子は、ずっとこの魑魅魍魎が跋扈する森をひとりで逃げ延びて来たのだから……。
……こうなると引き止めるに引き止められないじゃないか。
「はぁ……熟練度を稼ぐにしても何にするか、だな……」
仕方なく、俺のリストを参照して戦士適正がありそうでイセットが再現可能なスキルを探す。
一番それぽい武器系は……駄目か、糸を繋いでブンブン振り回すなら出来そうだが、それを剣術って認識されるか怪しい。
身体強化系は……『強腕』とかそれっぽいのがいるがこれの場合どうやったら腕のないイセットに熟練度が貯められるかが不明過ぎる。
「他には…………『鎧術』? 使えなくはないけど、芋虫の体に合う鎧なんて……いや、ゴブリンが残したのをこうすれば……。うん、これなら何とか……! 」
一旦隠れ家まで引き返し、イセットには”直ぐ準備してくから”と暫く休むようにと有無を言わさず言い渡しておく。
その間にゴブリンの住処残骸から奴らが使ったと思しき革鎧を拾い集め、作業に取り掛かる。
まず革鎧を丁度いい形に整えるために短剣を手に切り分けていく。
因みにこの短剣はひょろ長ゴブリンが投擲に常用してたやつだ。
俺は投擲技術もスキルもないし、刃筋の立て方もよく分からなかったので戦闘ではまるで使い物ならないが、こういう時には便利なツールなので2,3個ぐらいは持ち歩くようにしている。
作業はつつがなく……とはいかず案外しつこい革鎧を『風魔法』まで併用し悪戦苦闘しながらも何とか望む形に切り分け、必要なとこに穴を開けていく。
それが終わると今度はイセットの体に合うのか直接当てて未調整、イセットには少量ながら粘着糸と強糸を出して貰う。
「こうやって強糸を穴に通して、固定具を作って……粘着糸で付着させて……と。う~ん、ちょっと不格好だけど、一先ずはこれでよし!」
(ゴロゴロ~?)
「はい、ちょっとだけじっとしててくれよな……ここをこうして結ぶと……よし、イセット専用鎧の装着完了! だけど……」
出来るだけ身を丸めるのを阻害しないよう、節節に隙間を作らせて硬くも柔軟性があり、汚れで黒ずんだ革鎧を纏うその姿は正しく……だんご虫であった。
元からだんご虫っぽさが出ていたイセットだったが、これでは傍から見れば全くだんご虫と区別がつかない!
別にそれで問題が起こる訳でもないが、こう、なにかなぁ……このままだと本当に次の進化があればだんご虫魔物なりそう……。
まぁ、それはともかくとして。
(ゴロゴロ……)
「窮屈そうだな……。でも『鎧術』習得可能になるまで辛抱してもらえないか? そうすればイセットの望む職業が出そうなんだ」
(ゴロ……、ゴロゴロ!)
「そっか、やってくれるか! なら、あとひと踏ん張りだ、俺も協力するから今日中に終わらそう!」
(ゴロゴロ!!)
それからイセットの『鎧術』熟練度稼ぎのためのスパーリング……とういうよりは模擬戦が始まった。
俺は受け流しやすいように大振りで拳を振り、イセットはそれを革鎧で防ぐか受け流し、それを繰り返し反覆する予定だ。
熟練度を稼ぐのが目的なのでこれでいい、どの道お互い体力もあまりないので本気の打ち合いとか無理があるのだ。
……とか思っていたが、後の全体的な模擬戦の戦績や流れだけをザックリいうと、最初こそ慣れない鎧に動きを阻害され、扱いが分からず敗戦濃厚だったが慣れ始めたら寧ろこっちが押され気味。
その上、扱いが安定したと途端に『硬化』や『弾化』まで交えて上手く力を受け流しやすい具合に肉体強度を調節するなんて離れ技を披露してみせた時には、ほぼ負けが確定していた。
それで俺がムキになって挙げ句、結局本気の打ち合いなってしまい……
「う、あぁ……もう……うご……け、ない………」
(ゴ、ゴロゴロー……)
……両方共にグロッキー状態で引き分け、仲良く地面に倒れ伏して決着となった。
自分でも何をやってるんだとは思ったが、イセットに引けをとられるのが無性に嫌で……不安だったのだ。
「あー、でも……ゆっくり、してる……場合じゃ……ないよな」
不明瞭な感情には一旦蓋をして、イセットの行動ログと習得可能スキルのリストを目の前に開く。
そこにはしっかり『鎧術』スキルの習得ログが残っていて、リストにもちゃんと載っているのが確認出来た。
……正直、鎧は不出来でボロだし、鎧術なんて全然知らないので、これ本当に熟練度が貯めてるのか確証は無かったが……どうにかなってようでよかった~。
「イセット、今からスキル推薦送るから、それ取ってくれるか」
(ゴロゴロ)
イセットの習得可能リストから『鎧術』を選択して推薦メッセージを送る。
煩わしい気もするが従魔の習得可能リストは見ることは出来ても、こっちから勝手に選択して習得させるのは不可な仕様なのだ。
まぁ、このWCOレベルのAIなら、キチンとした自我と主張があるのだから当たり前だけど。
イセットは推薦を断る事はなく受諾、『鎧術』を習得した。
後はもう天職祭壇に再び向かうのみ!
「……の前に少しだけ、きゅうけいー……」
(ゴロゴロー……)
……結局、天職祭壇に再度訪れようになる頃には夕方なっていたのであった
おかしい……初期の構想ではここはさっくりと終わらせるつもりだったのに……異様に長くなってしまった何故だろ、不思議だな……?。




