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白い思い出、還り路  作者: 涙雨
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第弐話


「あんた、今なんて名乗ってる?」

真雪(まゆき)。友人が付けてくれたんだよ」

 外とは違い程良く暖かな部屋の中。

寒や寒やと、高い位置で一つに括っていた髪を解けば真白いそれが視界の端で揺れる。その様子を視界に留めた白鋼がするりとわたしの髪に触れた。

「ずいぶん伸びたんじゃないか?」

「元々長いからねぇ。ほら、髪は女の命って言うだろ」

 だからそれなりに大切にしているのさ。

溜め息と共にそう零せば、目の前の白鋼は目を瞬かせた。次いで、あまりにわたしの性格とかけ離れたその発言が、冗談だと合点がいったのか半目になる。

「そのおちゃらけた性格は変わらないな…」

「仕方ないだろ、性格はそうそう変わらないさ。」

 肩を竦めれば大きく溜め息を吐かれた。

わたしという人間はこんなにもおちゃらけているのに、周囲のものは何かと堅物が多くて困る。やれやれだ、もっと柔軟に生きれば良いものを。

そんな心中を察したのか白鋼は今日一番大きな溜息を吐いた。

「それで、今日は泊まっていくか?」

「ちょっと顔を見に寄っただけだよ。土産話も終わったしね」

「……真雪」

 不意に、彼の声が固くなる。

垂れ目がちなわたしの目と反対に、釣り気味の切れ長の目に浮かぶのは憐憫の色か。

何を憐れむのか、わたしという人間はこんなにも気楽に生きているのにな。へらりと笑えば、その色は濃くなった。

「お前がどうしてそんな生き方をしているのは知っているが、もう少しここに」

「宛もなく彷徨ってるわけじゃぁないよ」

 ぴしゃりと言えば、白鋼の眉は悲しげに歪む。

あぁ、すまない、すまない。そんな顔をさせたかったわけじゃぁないんだ。けれど温かな空気もどこか遠く、わたしは誤魔化すように笑って立ち上がる。

「本当に独りぼっちになる前にね、わたしは現状をどうにかしたいんだよ」

 またねと手を振れば、なにも言わず手だけを振り返した。白鋼は何も言わない。何も言えないのだろうと勝手に思う。

賢い白鋼は、わたしの言う現状をどうにかしたいというその意味を、きっとしっかり理解しているのだろうから。そしてそれに対する“当たり前の願い”ですら、わたしには絶対に言えない事も解っているのだろうから。



『死なないでほしい』


 友人に対して、当たり前に願うだろう我儘を言わせられないのは、なんとも悲しい事だと……───もう千年は思い続けている。



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