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椿姫のドレス

作者: 月 夢想
掲載日:2018/11/22

この物語は実際に著者が体験したことから、想像を巡らして創作した作品です。

「こんな事があったらいいなあ」

と、思うことを言葉にして出来上がった物語です。

「椿姫って、ほんとうにいるんでしょうか?」

「ふぇ、寒む・・・」、なんて冷える朝だ。

今年は例年になく寒さが厳しいが、この分だと、春の訪れも遅いだ

ろう。僕はコートの襟を立てると、足早に駅へと向かった。

歩く靴音が、アスファルトの凍てついた音を、「コンコン」と伝え

てくる。

いつも立ち寄るカフェを横目でチラッと、時間を気にして通り過ぎた。

いつものカバンがなんとなく重いのもこの寒さのせいかと、思わず

右手をポケットに入れる。

(あれ~~?なんだ、温かい。そうか、もしかしたら、いや、

  そんな事が?)



=今朝出掛けに、マンションの生垣の椿に一つのつぼみを見つけた。

この寒さでつぼみも開けずにいるのか、でも何と可愛いいのだろう。

こんもりと丸長いピンク色のつぼみを見ていると、触りたくなる欲

情が湧いてくる。

このつぼみの中に小さなお姫様がいたりして「こんにちわ」なんて、

花びらをめくって・・。いつもの想像の世界に遊ぶ僕がそこにいた。

と同時に、好奇心もわき起こる。

 もうすぐ満開の椿の花が見れそうだなと、周りを見てみるが、他

につぼみは一つも見当たらないではないか。

「そうか、君が一番咲きか。道理で一つだけなんだな」

僕は我慢できず、ふっくらした椿のつぼみに、そっと手をあててみた。

やわらかくて、ぬっくりした温かな何ともいえない優しさが手から全

身を流れた。つぼみのぬくもりが欲しくて、その手をポケットにそっ

と入れたのだった。


「そうか、あの時の椿のつぼみのぬくもりは、春だったんだな」

ポケットのこの温かな感触は、あの椿のつぼみを包んでいた春を感じ

させる。その日一日中、僕はポケットの春を感じながら過ごしたのだ。

 会社の昼休みに食後の満腹感もあり、うとうとしていた時だ。

「何か言った?・・・」

起こされた声が、同僚の声でなかったことは確かであった。この何か

が、その時はわからなかったが、それが又、聞こえたのだ。

ふと、仕事の手を休めた時、昼休みに聞こえたのと同じような声が、

今度は言葉となって聞きとれたのだ。

そおっと、その言葉を耳の奥から取り出してみると、

「返してください!私の春を」

こんな言葉のようだったが、僕はすぐあの椿のつぼみの声だと信じた。

なぜって、今の僕にこんな体をなまぬるくなでるような事を言う人は

いないからだ。


 帰りの電車の中で、うとうとしながらやさしいつぼみの声を聞いて

いた。だがその声が、次第に切なく僕の胸に迫ってきたのだ。

「返してください、私の春を!」・・・「返して、お願い」

 僕は思った。そうか、あのつぼみの所だけ、一足早く花を咲かせる

ために春があったんだ。

それで、ぬっくりほわほわだったのだが、それを僕が奪ってしまった

のか。そうだったのか、と、僕はポケットに手を入れるのでなく、つ

ぼみの春を落とさないように、そっとハンカチでポケットの入り口を

ふさいだ。

 

帰路の駅に着くと、いつの間にか足早になっていた僕は、一目散にあ

のつぼみまで急ぐ。(まってろよ、今行くからな!)

きっと寒さに震えていることだろう。一段と冷え込む今日の寒さでは

あのつぼみも凍えているに違いない。「よかった、あった! 頑張っ

てくれてたんだ」

嬉しさをかみしめながら、僕はポケットから握り締めた春をやさしく

取り出した。椿のつぼみにその手を持っていくと、かぶせるようにそ

の手を開いた。一瞬、手の指の間をつめたい風がすぃ~と吹き抜けて

いった。そんなにも冷たい風の中に身をさらさせたつぼみのことを思

うと、思わず自分のやった愚かさに恥じた。

何となく、椿のつぼみが春に包まれて、嬉しそうに赤みを増したよう

な気がする。

それにしても春一番はいつ来るんだろう。           


この事があってから会社に向かう僕は、天気予報が気になるようにな

った。そして、自然にポケットにその手が入る。

 その後の僕は、あの椿のつぼみの声が聞こえないのがとても寂しい

・・・あの声が。

「返してください、私の春を!」

ああ、あの甘く切ない、ねっとりまとわりつくような温かみのあるあ

の声に包まれたい。

 

ーそれから数ヶ月したある日の事、僕はふと思い出した。

それはこの春の出来事で、あの椿のつぼみのことです。

 人間は不思議な生き物、同時に二つの感情はもてないようで、あれ

以後、忙しい仕事の中に椿の事はありませんでした。

一段落した仕事の隙間から出てきたあの時の感情が、僕の心を動かし

たのです。(どうなったんだろう・・・あの、つぼみは?)

 そんなわけで、僕は興味もあって再度あの椿のつぼみの所に行きま

した。あんなことがあってから、それはまるで恋人にでも会いに行く

ようなおかしな気分でした。何で、たかが花の事ぐらいで?。

まあ、それも当然でしょうが、こればかりは本人にしか分からない事

なんです。


 そこに行って見ると、春に満開な花たちでにぎわっていた椿も、今

は緑の真ん丸い実をたわわにつけてました。興味津々・・・あの時の

つぼみは、どこだろう?。確かこの辺だったがな、いやもう少し向こ

うだったっけ。

 キラキラ輝く緑の葉っぱをそっとかき分けながら、奥を覗くと。春

のあの椿なんでしょう、その椿の実だけが、真っ赤に染まっているで

はないですか。僕は思いました。だって、あの一番咲きのつぼみです

から、当然ほかのつぼみ達とは違うんだろうと。

そして、いけないとは思いながらも、今度はなんと言うんだろうと、

興味もあり、良心に逆らって、またまた持ってきてしまったのです。

また、返しに行けばいいや・・・こんな軽い気持ちも手伝って。

 でも、今度はぜんぜん春のときのような声はありません。人間おか

しなもので、予想がはずれるとまた空虚な気持ちになるもんです。

きれいな、つやつやな、真っ赤な椿の実を手の中でころころさせなが

ら家に帰りました。

 

その夜、何となく愛らしい椿の実を、お風呂にもって行くと、湯船に

浮かべて、うっとりとしていました。何となく一緒にいたかったので

す。

「あら~~恥ずかしいわ!」

おや?と、湯船の湯気の中に目をこらすと、なんと、目の前には赤い

椿の実がパックリと割れていたのです。おお~~、その中には、小指

の爪ほどの女の子が、椿の花びらのドレスをまとって小さな手で顔を

覆っているではありませんか。

(私は椿姫です。よろしくね。はずかしいの、タオルをお願い)と、

言葉を感じて、僕は急いでタオルを取ると、体を包みました。いやぁ

驚きました。あの赤い椿の実からお姫様が現れるんですから。

 

その夜は夕食のテーブルの上において、椿の国の事などを聞かせても

らいました。その事をお話・・・いや、それは僕一人の秘密にとの椿姫

との約束なので。

 とても幸せなひと時でした。至福のひと時とはこれなんだと、実感

した僕がそこにありました。あっという間に時間も過ぎ、寝る時間に

なりましたが、椿姫は僕の枕元で寝ることに。取って置きの小さなお

皿にその実を置くと、しばらくして椿姫はつぼみの殻に包まれました。

そう、一言、言い残して(夜明け前に起きましょうね。朝日は駄目よ)

こんなことを言ってたんですが、それが何の意味なのか?

 それがわかったのは、翌日の朝です。


『あ、しまった!。うっかり寝過ごした』

いつもなら起きれる僕なんですが、休日という気持ちが油断を生んだ

ようで、目の覚めたときはベランダの観葉を朝日が包んでいたのです。

 飛び起きると、枕もとの椿の実に目が走りました。

「あ、これは・・・!」

小さなお皿に乗せた赤い椿の実が、ぽっかりと口を開けていて、その

実の中に、もう椿姫はいません。そのときの僕の気持ちは、もう、は

ちきれんばかりの哀しさでした。(ああ、僕は、何てことだ。もう会

えないのか!)

 頭をあげると、二枚のカーテンの合わせ目が少し空いており、そこ

からお日様の光が赤い椿の実を照らしていたのです。そのとき思い出し

たんですが、昨夜、湯船で椿姫が言った、

「私ね、早春模様のお日様で帰るんですよ。椿の国へ」

今となってはうっかりが、後の祭りでした。そうか、早朝のぬるいお

日様に連れられて帰っていったんだな。でも、あの美しい椿姫と一夜

を共にできたことは、何と幸運な事かと、温かな感情が全身を包むと

同時に、椿姫も本当は椿の国へ帰りたくはなかったのではと、そんな

期待を抱くと、嬉しさがこみあげてきます。

あの、「返してください、私の春を!」の声から始まった神秘なこの

体験を、いつまでも僕だけの秘密にしておきたいと思っています。

 枕もとの赤い椿の実を手にとって、朝風呂に入ろうと、見ると!、

そのカラになった椿のカラの中に、真っ赤な一片の小さな小さな椿の

花びらがありました。

(椿姫のドレスの置き土産か・・・・)一瞬、僕の顔が思わずポワ~

と上気しました。椿のカラをそっとデスクの上に置くと、自然にあの

場所へと足が向かいました。眩しい新緑の光を浴びて向かう僕の右手

は、いつの間にかポケットに入っていました。


「私ね、早春模様のお日様で帰るんですよ。椿の国へ」


             

                                  完  



*このサイトで公開する理由

 筆力のスキルをアップしたいのです。

 作品の批評をお願いいたします。

 1.構成がおかしい。

 2.ここのところが理解できない。

 3.描写があればもっと良くなる。

 4.誤字、脱字がある。

 5.ここをこのようにすると読みやすい。

 6.ここの部分はいらないのでは。


 等、建設的な批評をお願いします。

 お待ちいたしております。

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