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SS #009 『 BEAUTY & STUPID 』  作者: 柳田喜八郎
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SS #009 『 BEAUTY & STUPID 』 Chapter,05

 それから数分後、中央市内で最大火力を誇る『湾岸支部』からの砲撃が開始された。

 この支部はその名の通りジャクソン湾に面した湾岸エリアの治安維持を担っており、海側から敵性勢力が接近した場合には首都の最重要防衛拠点として機能する。配備人員も多く、平和な住宅街の支部とは比較にならない本格的な軍用装備品が揃っている。

「うおおおぉぉぉーっ! すっげーっ! なんだありゃあぁぁぁーっ!」

「建物が変形した!?」

「なにあれ! ミサイル!?」

 支部の屋上がパカッと開き、市民に何の予告も無く地対空ミサイルが発射された。

 続いて北側バルコニーにずらりと並んだ支部員たちによる魔導砲の一斉射撃。

 王宮の北の守りであるレガーラントブリッジに向け、南の防衛拠点・湾岸支部が最大火力で総攻撃を仕掛けているのだ。歴史の授業をきちんと受けていた市民たちは、これが『中央攻略戦』の真逆の構図だと気付いた。

「だ、だめだ! 湾岸支部の攻撃で勝てるわけがねえ!」

「そうだよ! だって初代魔女王様は、最初にレガーラントブリッジを落として、そこを足掛かりに中央市を制圧して……」

 うろたえる中央市民の声を聴いているかのように、巨大な竜は空中要塞に絡みつき、不気味な声で吼えて見せる。そして地対空ミサイルを長い尾で叩き落し、続いて飛来した魔導砲を強烈な《衝撃波》で相殺する。

「うわあ! やっぱ効いてねえ!」

「いや、まて! ほら、あれ!」

 ミサイルと魔導砲に気を取られた隙に、レインが巨大なイカに化けて墨を吐きかけていた。

 粘り気のあるイカ墨を顔面に吹き付けられ、竜は視力を奪われたらしい。挙動がおかしくなり、ロドニーとチョコの攻撃がストレートに届くようになった。

「やった! ちゃんと援護できてるぜ!」

「きーしだーん! がーんばーれよーっ!」

「もっとジャンジャンぶっ放せーっ!」

 盛り上がる市民らの耳に、マルコのアナウンスが聞こえてくる。

「市民の皆さん! 上空からの落下物にお気を付けください! 水の魔法が使える方は、お近くの木造家屋、家畜小屋、物置などに水をかけてください! ご家庭のホース、地域の消防ポンプなども使用し、庭木や街路樹に水をかけてください! 火の粉による火災の恐れがあります!」

「えっ!?」

「そいつはまずい!」

「ちょっとあなたー!? ホースってガレージの中だったかしらーっ!?」

 大慌てで動き出す市民たち。総司令部の壁に無数に設置されたモニターには、あちこちの町会で消防用ポンプを引っ張り出す様子が映し出されていた。

「さて、これで火災は予防できるとして……」

 各支部への連絡や情報収集のため、総司令部には本部事務職員のほかに情報部のオペレーターも動員されている。彼らはシアンから説明された手順通りに動いているが、これが八百長試合であることは知らされていない。本当に封印されていた竜族がよみがえり、中央市に攻撃を仕掛けようとしていると思っている。

 総司令部内は、これまでに体験したことがないような異常な緊迫感に包まれていた。

(言えませんよね……相手はどこかの映画監督並みに面倒くさい演技派ドラゴンだなんて、絶対に……!)

 自分とオペレーターたちの恐ろしいほどの温度差を感じ、マルコは表情筋の制御に尋常ならざる努力を要していた。

 マルコが必死に真顔を保っている間に、場面は第一幕クライマックスに移行している。

 最大火力を誇る湾岸支部、次いで大型兵器所有率の高い鉄鋼団地支部と東町倉庫街支部が連携して波状攻撃を仕掛け、イカスミ目潰しを食らった竜に大打撃を与える。しかし逆上した竜は出鱈目に《衝撃波》を放ち、そのうちの一発がレインに直撃。気絶して自由落下するレインをロドニーとチョコが追いかけ、間一髪、地面に直撃する前に空気のクッションで受け止めることに成功する。

 このころには国営テレビ局と各ラジオ局の取材班がレガーラントブリッジに到着し、現場の様子を逐一伝え始めていた。繁華街やスタジアムの大型モニター、大手百貨店の外壁に取り付けられた街頭テレビには、気を失ったレインを地面に寝かせ、必死に応急処置を施すチョコの姿が映し出されている。

 望遠カメラで撮影されているため、音声はない。だからこそであろうか。チョコとレインに何かを話しかけ、それから再び空へと飛びあがるロドニーの姿に、市民らは思い思いの言葉と感情を託していた。

「それでこそ男だ! 行け! お前はまだやれる!」

「やれえええーっ! クソドラゴンを叩き落とせえええーっ!」

「ぶん殴れ! 倒れた仲間の分まで!」

「人狼族の誇りを見せてくれぇぇぇーっ!」

 当然、国営放送の中継は中央市内の各騎士団支部でも視聴している。直撃を受けたレインを心配する声、本部の決定を待たずに出撃すべきとの声、風属性の隊員だけで飛行小隊を編成すべきとの声。ありとあらゆる意見が飛び交い、どこの支部でも侃々諤々の白熱した議論が巻き起こった。

 支部員が口にした意見は、表面的にはそれぞれ違うもののように聞こえる。しかし、その根底にある思いは同じである。


 仲間がやられたんだ、黙って見ていられるか。俺たちにもやらせてくれ。


 誰もがそう思い、ジリジリと闘志を燃え上がらせていた。

 マルコが号令をかけたのは、その時である。

「各支部、砲撃を開始せよ!」

 待っていましたとばかりに動き始める支部員たち。

 狙い澄まされた砲撃は竜の巨体に次々と着弾し、竜と空中要塞は黒煙に覆われる。


 総攻撃の成果や如何に。


 黒煙が晴れると、そこにはほぼ無傷の竜がいた。

「嘘だろ!?」

「今のが効かない!?」

「違う! 効いてはいるんだ! 見ろ!」

 硬い鱗に大きな傷はなくとも、竜は煙を吸って大きく咳き込んでいた。

「いける! いけるぞ! 図体はデカいが、相手は生き物だ! 呼吸できなければ、戦ってなんていられるか! ガス弾を撃ち込もう!」

「ですが支部長殿! 竜の近くには特務のロドニー・ハドソン隊員も……っ!」

「む!? そ、そうだな。ガス弾では、彼も……」

 おおよそどこの支部でも、そのような会話が交わされていた。しかし、彼らの逡巡は数秒後には無用の心配であったと知れる。

「あっ! 支部長殿! ご覧ください! 国営テレビにっ!」

「これは……っ!」

 風の魔法で人目に付きやすい岩の上に降り、ロドニーは取材クルーのほうに何かを叫んでいる。遠すぎて声は聞こえないが、その表情、口の動き、騎士団の共通ハンドサインを、支部員たちは正確に読み取った。


 健康状態に異常なし。三十秒後に撃て。俺はターゲットの上へ行く。


 それからロドニーはテレビカメラに映るようにガスマスクを装着した。

 拳を突き出し、指を三本上へ向け、三、二、一、Go。

 それを見た支部員たちの表情は、揃って輝いていた。

「三十秒後にガス弾発射! カウント開始ぃぃぃーっ!」

「ガス弾発射三十秒前! 二十九、二十八、二十七……」

「通常弾並びに魔導砲、第二射に備えよ!」

「了解!」

 良くも悪くもメディア慣れしたセレブである。テレビ映りは最高に良い。ハンドサインを出す様子も、手際よくガスマスクをつける仕草も、市民のハートをつかむには十分すぎるパフォーマンスとなった。

「うおおおぉぉぉーっ! いっけえええぇぇぇーっ!」

「次こそ仕留めろよぉぉぉーっ!」

「がんばってーっ!」

 盛り上がる市民の声は最高の『言霊』を生み出し、ロドニー・ハドソンという一個人に注がれている。

負の感情の集合体がマガツヒであるならば、正の感情の集合体は何か。そこにいる存在を何と呼ぶべきか。その答えを目の当たりにし、オオカミナオシはただただ彼を眺めていた。

「我は……何を誤っていた? あれに闇を肩代わりさせ、我が『役割』を遂行する。それが最適解ではなかったのか……?」

 呆然とした様子のオオカミナオシに、コニラヤはうんざりした顔で言う。

「ようやく? 遅すぎるよ、オオカミナオシ。お前の『器』は『ただの入れ物』なんかじゃない。心を持った人間だ。人間は何度汚れても、どんなに叩きのめされても、心が死なない限りは何度でも立ち上がれる。何度でもやり直せる。お前と違って、誰かの愛や応援を受けていくらでも強くなれる。何のために『器』にも同じ能力があると思っていた?」

「……分からない。それについて考えたことは無い」

「じゃあ、どうして神に『思考制限』や『記憶操作』なんて能力が与えられていると思う?」

「分らない。それも考えたことがない」

「人間の心が優しすぎるからさ。彼らの心は、長年一緒に過ごしてきた神的存在を攻撃できるようにはなっていない。もしも僕らが堕ちるときには、何も考えられない状態にして戦わせるか、自分と過ごした思い出を忘れさせるか、なにか小細工をしてやらないと共倒れになる。その結果できた『隔離された世界』のことも、すべて見てきたはずだろう?」

「我には複数の事象を結び付けて類推する思考は設定されていない。今、其方の発言を以ってはじめて『一連の事象』として認識された」

「ああ、もう……これだから自動プログラムは……」

 つい当たり前の感情と思考がある前提で会話してしまうが、オオカミナオシはこういう存在なのだ。勝手にこちらの常識を押し付けてみても、彼の存在カテゴリーが変化するわけではない。

 コニラヤはこれ以上の問答は無駄と割り切り、オオカミナオシに向かって本音をぶつける。

「僕はね、君なんかいらないと思ってる。少なくとも、これから先の未来にはね。君は時代遅れのポンコツなんだよ」

「それを決めるのは我ではない。創造主だ」

「知ってる。神的存在が自らの世界の終わりを選択することはできない。だから僕は、時計の針をもう一つ二つ進めようと思っている」

「何をする気だ?」

「僕が何を司る神か、自己紹介からやり直したほうがいいかい? よく見ておいてね。これは未来への第一歩だ」

 コニラヤが視線を向けた先ではガス弾による攻撃が始まっている。

 これは市内に入り込んだ敵性勢力を無力化させるために用意された催涙弾であり、殺傷能力はない。ただし、市内の全支部から一斉に発射された場合はその限りではない。もしもあの超高濃度ガスの中に人間がいたら、呼吸困難で死亡していることだろう。

 事前に申し合わせていたこととはいえ、この催涙ガスにはダンテも本気で参っている様子だ。激しく咳き込み、盛大に鼻水を撒き散らしている。

 催涙ガスで遮られた視界の中、ロドニーはまっすぐ上へと飛んでいる。そしてダンテの真上に位置取り、どこかに向けてハンドサインを出している。

 いったい誰に合図を出しているのか。

 疑問に思う支部員、市民らの前に示された答えは、この上さらに『芝居』を盛り上げるものだった。

「攻撃開始!」

「おっしゃあああぁぁぁーっ! 行くぜえええぇぇぇーっ!」

「オラアアアァァァーッ!」

「落ちろォォォーッ!」

 現れたのはベイカーとメリルラント兄弟、騎士団本部及び近衛隊所属の雷獣族たちだった。彼らは幻覚魔法で姿を消し、竜の真下に陣取っていた。

 一斉に放たれた《雷霆》は竜に直撃。感電し、竜は動きを止める。

 そこにさらなる伏兵、グレナシンが襲い掛かる。

「アンタのせいで無駄に早起きさせられたじゃない! 睡眠不足は中年オカマのお肌に悪いのよぉぉぉーっ!?」

 非常に個人的な絶叫は国営放送のマイクには拾われず、現場の士気をやや落とすにとどまる。しかし発言内容はともかく、グレナシンの攻撃は誰の目にも分かる『超・有効打』となった。

 天才ゴーレム使いと称されるナイルは偵察用ゴーレムや医療用ゴーレムなど、特殊技能を持ったゴーレムの扱いに長けている。なんでも一通り作れるし、何を作らせても並みの術者よりずっと性能の良いものを作り上げて見せる。だが、そんなナイルが唯一白旗を上げた物がある。

 それこそがグレナシンの作るゴーレム、『薄羽蜉蝣』だ。

 このゴーレムに核となる呪符や呪具はない。グレナシンは砂を操る蟻地獄族であるため、初歩的なゴーレム巫術と生まれ持った能力を組み合わせれば砂で虫型ゴーレムを作り出すことなど造作もないのだ。

 数千億匹の薄羽蜉蝣が標的に取りつき、そのまま動かなくなる。これはただ、それだけの技である。だが、それだけの量の砂を背負わされたらどうなるか。答えは考えるまでも無い。


 重さに耐えきれず、竜が落ちた。


 真下にいた雷獣たちは素早く包囲陣を形成し、全方位から一斉に《雷火》を放つ。

 グレナシンが使用した砂にはマグネシウム粉末とアルミニウム粉末が混ぜられていた。そこに火花放電を引き起こす魔法を撃ち込んだのだ。当然、大爆発が起こる。

「やった!」

「こりゃあ死んだだろ!」

「竜を仕留めたぞ!」

 一斉に歓喜の声を上げる市民たち。

 しかし、アーキタイプドラゴンはこの程度で死ぬようなやわな生き物ではない。

 風を操り、あっという間に炎を消してしまう。

 そして空へと飛び上がる。

「ああっ!?」

「逃げやがった!」

「早く追えよ!」

 地上の雷獣たちは飛び上がることができない。ダンテはこのとき非常に強力な《急速下降気流(ダウンバースト)》を使用していたのだ。雷獣たちは立っていることもままならず、次々と倒れていく。

 このまま逃げられてしまうのか。

 視聴者の胸に、そんな思いが込み上げた時だった。

「食らえ! 《風陣・死式》!」

「《砂塵噴射(サンドブラスター)》!!」

「《火炎放射》!!」

 ロドニー、グレナシン、チョコの三人同時攻撃である。最強クラスの台風に匹敵する暴風圏に引火性のある砂が投げ込まれ、そこに火炎放射を食らわせたのだ。


 巨大な炎の竜巻が発生し、竜の巨体を飲み込んだ。


 事前に本人から「このくらいなら大丈夫」と申告されているが、全員、当初の予定以上の力で攻撃魔法を放っている。これが八百長試合だと知る者にとっては心底肝の冷える光景である。

「や……やっちまった、か……?」

「終わっちゃって……ませんよね?」

「やだ、ちょっと、これ、まる焼けじゃない……?」

 三人の呟き声は誰の耳にも届いていない。テレビカメラに映るのは、真剣な面持ちで炎の竜巻を睨む三人の姿だ。視聴者の目には、それは一分の隙も無く竜の反撃に備える戦士の眼差しとして映っていた。

 実際は、やりすぎたかもしれないという思いで陰嚢が縮み上がっている顔だったのだが――。

「……え?」

「嘘だろ!?」

「なによそれ!?」

 ダンテは死んでいなかった。それどころか、より禍々しく、いかにも強そうな棘だらけの姿に変化して雄叫びを上げる。

 翼を大きく動かし、炎の竜巻をかき消す。

「人間ども! これで仕舞いか!?」

 ドスの利いた悪役ボイスでそう言い放ち、ダンテは注意を引き付ける。そしてその隙に素早く尾を振り抜き、グレナシンに背後からの一撃。ペガサスに乗って宙に浮いていたグレナシンは踏みとどまることができない。叩かれた勢いそのままに吹っ飛ばされ、竜の巨大な手にキャッチされる。

「あっ!?」

「副隊長!」

「フハハハハ! どうだ? 攻撃できまい。迂闊なことをすれば、こいつに当たってしまうかもしれんぞ? ん? ほら、どうした?」

 返しの難しいアドリブを入れないでくれ。

 全演劇関係者が一度は感じることを、なぜかここで味わう破目になった特務部隊である。が、この場で誰よりも肝の据わった『ハッタリ上手』は当たり前のようにこう返す。

「副隊長! 必ず助ける! 今は防御に専念を!」

 ベイカーとメリルラント兄弟は一度は地面に叩きつけられたものの、ぐっと踏ん張り、《急速下降気流(ダウンバースト)》に抗って立ち上がっている。

「てめえ、よくも地面にキスさせてくれたな……」

「覚悟はできてるジャン?」

「ベイカー隊長! 俺とアスターが砲台作ります! 兄さんと二人で!」

「俺の足引っ張んじゃねえぞベイカー!」

「引っ張れるほどのんびりやる気か!?」

「んなワケあるか! ガンガン行くぜ!」

 短い怒鳴り合いで打ち合わせは終了。エリックが主力でベイカーがサポート、ストップモーションを挟まない超速コンボに持ち込む段取りが組まれた。

 アスターとレクターが先行して飛び上がり、同時に《雷陣・惨式》を使用。空中に強烈な磁界を形成。ベイカーとエリックは《雷装》と《銀の盾》を使い、雷の鎧と物理防壁を纏った状態でそこに飛び込む。

 二人は電磁加速砲の如く、超加速状態で磁界を抜けた。

「なっ!?」

 ダンテは本気で驚いていた。

 《銀の盾》で物理防御した人間大砲。こういった無茶な戦い方ははるか昔から存在していたが、ダンテが知る人間大砲は風か火の魔法で爆風を起こすものであった。科学技術の進歩によって魔法攻撃のバリエーションが増えたことなど、ダンテには知る由もない。

 電磁加速による人間大砲は秒速500m。回避不能の正面突破攻撃に、竜の巨体が大きく揺らぐ。

 衝突による一瞬の静止状態。その中でベイカーは《銀の鎧》を使う。エリックが全力で戦えるように、まずは人質にされているグレナシンの安全を確保したのだ。

 エリックはそれを確認すると《雷霆》の超高速連射を開始。一撃ごとの攻撃力もさることながら、普通の術者では不可能な利き腕を無視した両手交互撃ちである。十秒に満たない時間に百二十発もの《雷霆》を食らえば、さすがのアーキタイプドラゴンもノーダメージとはいかない。

 演技ではなく、本気でよろめいている。

「これで仕舞いか? アーキタイプドラゴン!」

 先ほどのセリフをそっくりそのままお返ししてやると言わんばかりに、ふんぞり返って言い放つエリック。その横を、自由落下して磁界に『再装填』されたベイカーがすり抜けていく。

 よろめく竜の顎に二度目の人間大砲攻撃が極まる。

 だが、ダンテは倒れない。

「く……ふふふ……ハハハ! なかなかいい攻撃だな! だが! この程度で私を倒すことなどできない! 見るがいい! これが私の力だ!」

 エリックに向けて放たれる《鳴竜》。これは《魔鏡》と《衝撃波》を合わせたような技で、対象を魔力の壁で包囲し、その中で《衝撃波》を多重反響させる。

 咄嗟に《銀の鎧》を纏うエリックだったが、攻撃のほうが強すぎた。魔力の鎧はあっさり破壊され、エリックは空気の拳で滅多打ちにされる。

「お兄チャン!」

「このっ!」

 自分たちで形成した磁界に身を躍らせ、攻撃に出るアスター、レクター。だがいくら弾速があろうと、三度目ともなると弾道は読めてしまう。

 ダンテは風の防壁《空墟》を形成し、二人の攻撃を完全ブロックしてみせる。

「クソ!」

「通らねえっ!」

「いや、まだだ!」

 直上からの声に、竜は上を向く。

 顎への一撃を決めた後、ベイカーはロドニーによって空中キャッチされていた。

 そして二人は魔女王ヴィヴィアンから下賜されたベイカー専用魔導兵器、可変機構銃砲『Beauty & Stupid』に魔力をチャージしていて――。

「これで仕舞いだ! アーキタイプドラゴン!」

「な、なんだそれはっ!?」

「貴様も男ならわかるだろう? ヤル気で巨大化するカワイイ息子だ!」

「隊長の膨張率なめんなコラァッ!」

 魔力を注入するほど巨大化・高破壊力化する可変機構銃砲を説明するのに、このセリフは適切だろうか。人質にされているグレナシンは「言うほど大きくないわよねぇ?」と呟いていたが、幸いこの声は誰にも聞かれておらず、ベイカーの個人情報は流出を免れた。

 ともかく、二人分の全力チャージを受けた『Beauty & Stupid』は今や戦艦主砲もかくやというサイズにまで巨大化している。帯電状態の銃口を突きつけられ咄嗟に逃げ出そうとしたダンテだが、それはできなかった。

「逃がすワケないジャン!?」

「エリック兄さんの仇!」

「待てコラ! 俺は死んでねえ!」

「レインの無念は俺が晴らす! 安らかに眠れ!」

「チョコぉぉぉーっ! 私、生きてますからぁぁぁーっ!」

 誰しも興奮状態にあるため、現場では多少の混乱が生じている。が、そんなことは些細な問題である。

 倒れていた雷獣族たちも加わり、全員で騎士団員の得意技、《緊縛》を発動させている。本来は犯罪者を取り押さえるための対人魔法であっても、これだけの人数、それも特別攻撃部隊に選抜されるほどの実力者たちが使うのだ。逃げようとする竜をほんの数秒足止めするくらい、容易いことだった。

「や、やめろ! さすがにそれは、私でも……っ!」

「この状況でイヤヨヤメテは誘い文句だぜ?」

「可愛がってやる。イイ声で鳴け!」

 発射される魔弾。ベイカー本人はこの魔弾を《クリームパイ》と命名しているが、膣内射精を意味するスラングであるため公式には『呼称無し』とされている。なぜ公式名称が無いままなのかというと、魔弾の効果がベイカーの命名通りのものであって、他に適切な呼称が存在しないからだ。

 発射された魔弾は標的の内部にとどまり、微小なオタマジャクシ形状に分裂。エネルギーが尽きるまで全力で泳ぎ続ける。女王とその愛人がベッドの中で考案した武器は、そもそものコンセプトが『精子みたいな弾』である。開発を請け負った技術者ならびに使用認可を出した関係省庁担当者がどれだけ渋い顔をしていたか、想像に難くない。

 当然、効果のほうもベッドの中で決めたものだ。直撃を食らったダンテは絶叫しながらのたうち回っているのだが、案の定、その様子はおかしなことになっている。

「やっ、やめ、あっ♡ あああぁぁぁーっ♡ 死ぬっ♡ 死んじゃうっ♡ はひぃ~んっ♡」

 魔弾クリームパイ(非公式名称)の効果を知っている本部所属・近衛隊所属の騎士団員たちは、笑いをこらえるのに必死である。

 この魔弾に殺傷能力はない。なにしろ深夜のテンションで詳細を詰めた武器だ。分裂したオタマジャクシはエネルギーが尽きるまで全身に性的刺激を与え続ける。たいていの者はあまりに強い刺激に耐えきれず一分と持たずに失神。そうでない者も、放心状態のまま数時間は身動きがとれなくなる。そして一度この魔弾を受けると、それ以降は通常の性行為では満足できず、ベイカーに特殊プレイを懇願する哀れな犬になってしまうのだ。

 ある意味では、一発で殺してくれる普通の銃弾のほうが人道的な武器と言えた。

「どうだレジェンド野郎。貴様ら竜族がイケイケでブイブイ言わせていた時代には、可変機構銃砲など無かったのだろう? 俺たちを甘く見た罰だ。しばらくそこでのたうち回っているがいい」

「レジェンド野郎……ブイブイ?」

 ベイカーの脳内では『伝説の竜族』も『伝説の暴走族』も同じジャンルに分類されているらしい。さらりと飛び出た死語に目をパチパチさせながら、ロドニーは先輩にして大親友、幼馴染にして職場の上司である男のなんとも表現しがたい魅力を再確認していた。

 後輩の微妙な表情などお構いなく、ベイカーはどこまでも自分のペースで言葉を発する。

「ロドニー、テレビクルーのほうに声が届くように風向きを調整してくれ」

「あ、はい」

 ロドニーが風を操ると、ベイカーは遠く離れた物陰から撮影を続ける国営放送のクルーたちに手を振った。

「今、ロドニーに風向きを変えてもらっている。こちらの音声は拾えているか?」

 この問いに、キャップを被ったディレクターらしき男性が、手で『〇』を作ってみせた。

「今使った魔弾に殺傷能力はない。精神攻撃系の技だ。止めを刺さない理由について、ネーディルランド国民全員に説明したいと思う。こちらへ来てくれ」

 ベイカーが「来い」というのだから、もう安全なのだろう。テレビクルーたちは頷き合い、引き絞られた矢の如く現場に向かって突進する。

 テレビクルーがベストポジションに着いたところで、ベイカーはダンテに向かって問いかけた。

「さて、竜族の生き残り、ダンテ・セロニアス。答えてもらおう。貴様が蘇ったのは何のためだ?」

 このセリフは当初の予定通りのものである。大幅なアドリブと予定外の魔弾使用はあったものの、メディアを利用した全国生中継はダンテとコニラヤ双方が申し合わせて決めた『最も重要なエンディングシーン』なのだ。これだけは絶対に外すわけにはいかない。

 ダンテにはまだ魔弾クリームパイ(非公式名称)が作用している。少しでも気を抜くと甲高い嬌声を上げてしまいそうになる中、必死で真面目な声を作ろうと努力している。

「わ、私は、この地を、再び……し、支配……し、て……」

 先ほどまでのあられもない悲鳴はテレビクルーのほうには届いていなかった。カメラに映っていたのはベイカーとロドニーの二人がかりの魔弾攻撃で地に落ち、のたうち回る竜の姿のみである。途切れ途切れの声も、荒い鼻息とビクビク震える体も、事情を知らない一般市民には大打撃を受けて弱り切った様子として理解された。

 ベイカーは持ち前の演技力をいかんなく発揮し、いかにもそれらしい表情と声色でダンテに話しかける。

「やはりそれが目的か。しかし、貴様はもう理解しているはずだ。貴様の力では我々を倒すことはできない」

「く……認めんぞ……我ら竜族が、人間ごときに……」

「貴様の認識などどうでもいい。ここにあるのはただの事実だ。受け入れろ」

「なぜ……止め、を、刺さない……?」

「貴様を飼うためだ」

「な……に……?」

「先日、市内で竜の骨が発見された。その骨を詳細に分析したところ、竜族の体内で生成される物質が癌や糖尿病の治療薬として使える可能性が出てきた。新薬開発のために貴様を飼育させてもらう」

「薬の、材料……だと? 私が……おとなし、く、飼われると、でも……?」

「貴様に抵抗する権利は与えられない。マルコ王子、お願いします!」

「えっ!?」

「王子!?」

 慌てて振られたカメラが捉えたのは、幻覚魔法で姿を消して近づいていたマルコの姿だった。

 魔女王ヴィヴィアンから借り受けた『初代魔女王の錫杖』を掲げ、マルコは現代では禁呪とされている魔法を発動させる。

「敗北者よ! 我が前にひれ伏し慈悲を乞え! 命ある限り、我が命に従え! 《隷属》!!」

 竜の首に茨の輪、全身に植物の蔓のような文様が浮かび上がる。

「く……私が、人間などに……!」

「貴方が粗暴なふるまいをしない限り、私が貴方に暴力をふるうことはありません。食事も、住環境も、可能な限り貴方の要望に沿うものとします。ある程度は行動の自由も認めます。ですからお願いです。もうこれ以上、誰にも攻撃しないでください。王立騎士団は、弱者を虐げるために存在する組織ではありません」

「……弱者、だとっ!? 私がっ!?」

「ベイカー隊長もおっしゃった通り、それが事実です。受け入れてください。竜族が人間を支配した時代は終わりました」

「認めん! 認めんぞ! 私にはまだ、こいつが……っ!」

 現場中継を見ていた誰もが息を呑んだ。

 体を起こした竜の手に握られていたのは、ぐったりと動かないグレナシンだった。これまでずっと竜の身体の下敷きにされていたのだ。いくら《銀の鎧》があっても、内臓の一つや二つは損傷しているだろう。

 しかし、マルコは平然と返す。

「それがどうかしましたか?」

「なに!?」

「貴方は人質に取る相手を間違えた。グレナシン副隊長殿が、その程度の拘束で無力化されるとでも?」

「こ、こいつは貴様の仲間だろう!? いいのか!? このまま握り潰すぞ!」

「できませんよ」

「なにを……うっ!? こ、これは……っ!?」

 竜の手からサラサラと砂粒が流れ落ちていく。グレナシンだと思われていたものは、砂で造られたゴーレムだったのだ。

 では本人はというと、どこかに消えてしまったわけではない。

「アタシはここよ!」

 竜の足元の地面が崩れ、すり鉢状に陥没する。いわゆる蟻地獄である。

 バランスを崩して地面に突っ伏した竜の鼻先に、蟻地獄の中から飛び出したグレナシンが剣を突きつける。

 グレナシン本人の剣は人質に取られた際に落としている。ならば誰の剣かというと、それは櫛の歯のような特殊形状を見れば一目瞭然であった。

「観念しやがれへっぽこドラゴン。俺の剣は切れ味最高だぜ?」

 進み出てそう言うのは王立騎士団が誇る最強戦士、エリック・メリルラントである。

 エリックがドヤ顔で言うには訳がある。魔導式ソードブレイカー『サージヴォルテージ』はオートチャージ型の武器であり、平時からエリックの魔力をチャージし続けている。武器のコンセプトは『魔力切れでも雷撃できる予備バッテリー』。しかし、いつでもどこでも無駄に元気なエリックに魔力切れなどあるはずもない。つまりこれは自分用の武器ではなく、仲間に使わせるための武器なのだ。

 グレナシンはエリックの剣を手に、物騒な笑みを浮かべる。

「最大電圧十億ボルトの大馬鹿丸出し破壊力よ? いくら竜でも、顔面に食らったら脳ミソ焼き切れるんじゃないかしら?」

「い……いつの間にそんなものを……!?」

「最初のアタックの時よ。アンタが人間レールガンにびっくりしてるころには、アタシはもうこの剣を渡された後だったの」

「どうやって!?」

「俺がかけた《銀の鎧》で、副隊長に剣を貼り付けておいたのだ。貴様の死角になる体の正面側にな。あとは俺とロドニーの砲撃で拘束が緩んだ隙に、ゴーレムと入れ替わりつつ剣を回収、砂に潜ってタイミングを計っていた、と」

「わかったかしら? アンタは火力でも作戦でもアタシたちに負けているの。降伏なさい」

 グレナシンは剣の側面で竜の鼻先を撫でる。

 ひんやりとした金属の感触と、帯電状態特有のゾワゾワとした感覚。これにより竜は完全に戦意を喪失。深く項垂れ、テレビカメラの前で宣言する。

「……認めよう。私の負けだ……」

 この敗北宣言を受け、マルコの掛けた《隷属》の魔法が完全発動。竜は本来の姿を保つことができなくなり、ぐっと縮んで、体長一メートルほどのオオトカゲになってしまった。

 グレナシンの足元でおろおろと戸惑うオオトカゲ。ロドニーがその首に縄をかけると、マルコはカメラに向かって頷いてみせた。

「終わりました。皆様、どうぞ彼らに惜しみない拍手を。この国の平和は、勇敢な騎士たちによって守られました。さあ! 祝杯を揚げましょう!」

 しばしの沈黙。それから、地を揺るがすほどの歓声。

 この日、この瞬間のことを、ネーディルランド国民は数百年にわたって語り継ぐことになる。

 初代魔女王ですら成し遂げられなかった『竜族の奴隷化』を、マルコ王子と騎士団は見事に成し遂げて見せた。ベイカー隊長の言によれば、癌や糖尿病の治療薬も開発できるかもしれないという。これは新たな伝説の始まりだ。竜を殺して回るだけの時代とは違う、新たな時代の英雄たちがそこにいる。自分たちは今、英雄と同じ時代に生きているのだ。

 初代魔女王と十二剣士の伝説にあこがれていたかつての少年たちは、誰もが胸を熱くしていた。

「えっ!? あ、あの、皆さん!? なにを……わあっ!?」

 駆け寄ってきた騎士団員らによって高々と胴上げされるマルコ。

 ここまでくればもうヤケクソだと、魔女王から借り受けた錫杖を掲げ、マルコは叫ぶ。

「女王陛下、万歳!」

「万歳!」

「王立騎士団、万歳!」

「万歳っ!」

「すべての国民にーっ!」

「バンザーイッ!」

「……って、あの! 皆さん、これ、いつまで!?」

「国民が満足するまでだ! 短すぎると不完全燃焼になるからな!」

「あと一分二十秒くらい続けたほうが感動的よ!」

「そ、そんなに!?」

 ベイカーとグレナシンのメディア慣れは重々承知していたが、秒単位の計算をしているとは予想外だった。このまま胴上げされていたら腰をおかしくしそうだったが、何はともあれ、マルコは自分の役どころをきちんと演じていた。

「女王陛下、ばんざーいっ!」

「ばんざーい!」

 特務の面々以外はこれが八百長試合であったことを知らない。全員で力を合わせて竜族を打ち負かし、捕えたことを心底喜んでいる。結果的に国民を騙すことになると気に病んでいたマルコだが、彼らの笑顔を見て吹っ切れた。たとえこれが芝居でも、今はこれでいいのだ。神的存在について話したところで、見えない人間にとっては何をどうしても理解不能であろう。だったら目に見えてわかるように、納得できるように、みんなで思いを共有できるように、時には道化も必要なのだ。


 演じることも、王子である自分に与えられた『役割』のひとつ。


 そう思った途端、何かがすとんと腑に落ちた。

(演じること……道化というと……まるであの人のようですね……?)

 今、ここにいない男の顔が浮かんだ。

 彼はこの世界のどこにもいない。驚くほどあっけなく、あっさりと『自分が生き残らない世界』を選択したあの男。あの男は常に何かを演じていた。それが理想の自分なのか、職責に合わせたキャラクターだったのか、それはマルコには分からない。しかし彼はたった一つだけ、嘘偽りない言葉を口にしていた。

 演じ続けた男がさらけ出していたただ一つの本音が、この世界での『死』を選択した理由なのだとすれば――。

(……彼は、本当は誰よりも、この世界を愛していたのでは……?)

 もしもう一度あの男に会うことがあったとしても、あの男がマルコに理由を話すことは無いだろう。あの男とは本音を語り合うような仲ではないし、たとえ仲が良かったとしても、あの男が簡単に本音を吐露するとは思えない。何かを思い悩んでいても、けっして他人の手助けを求めない人間だからだ。

 すべてはマルコの憶測にすぎない。けれど自分は、こう言わねばならないと思った。

「国民の皆さん! この国を守った勇敢な騎士たちに、何度でも、惜しみない拍手を! 限りない称賛の声を! 私は王立騎士団を、心の底から誇りに思います! 騎士たちよ! 本当にありがとう!」

 胴上げ終了後、マルコがカメラに向かって言ったこの言葉は、中継を見ていた支部員らにも届いていた。それぞれの街で、それぞれの支部で、感謝と歓喜の声がこだまする。

 この『勇敢な騎士』にあの男が含まれていることを知る者はいない。あの男は人前で、大勢の人間から祝福されることなど喜ばない。だからこそマルコはあの男に向けて、届くことのない祝福を送りたかった。

 これがマルコなりの、精一杯のいやがらせだからだ。

「あの、王子! よろしいでしょうか! そちらの錫杖について、詳しい説明をお願いいたします!」

「えっ!? あ、はい! この錫杖は初代魔女王ヴァルキリー様から代々受け継がれる特別な錫杖で……」

 勝利の余韻に浸る間もなく始まったヒーローインタビューに、マルコは必死で答えてゆく。そしてマルコがテレビクルーを引き付けている間に、特務の面々はダンテを連れてさっさと撤収してしまった。確かにこのタイミングを逃したらどこにも移動できなくなるだろうが、それなら私も連れて行ってくれと、心の中で叫んでいたマルコである。

「王子! 先ほど『祝杯を』とおっしゃっておられましたが、王子のお好きなお飲み物はなんでしょうか!?」

「え、ええと……ビール、でしょうか……」

「国民の皆さん! お聞きになりましたか! ビールです! 王子のお好きなお飲み物はビールです! ちなみに、どちらの銘柄が!?」

「よ、よく飲むのはランブルダンブルかキンバーですが……」

「なるほど! ありがとうございます! 全国のビアホールのみなさーん! ランブルダンブルとキンバーの在庫は大丈夫でしょうかーっ!? 今夜は売り切れ必至ですよーっ!!」

 咄嗟に答えた銘柄は中央市民がごく普通に飲んでいる『庶民向けの酒』である。普段からその銘柄を愛飲している市民は勝ち誇った顔で味とコストパフォーマンスの良さを語り出し、そうでない市民は王子が低所得層に気を遣ったに違いないと考え、思い思いに王子の優しさ、親しみやすい人柄を称え始めていた。人はどこまでも、自分の物差しで世界を測るものなのである。

 どこもかしこも仕事は休み。学校も休校。中央市民は広場や酒場に集まり、冷めやらぬ熱気に身を任せて歌い踊った。

 この熱狂はそれから一日中続き、結局、夜になってもお祭り騒ぎが終わることは無かった。


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