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連休明けの災難2

「なんで俺、こんな所にいるの?」


美少女に聞く。


「少し休憩なさりたいと言われたものですから。草原が心地よさそうだからと」


「いや、そういうことじゃなくて。大学にいたよね、俺たち」


「大学……賢者様は大学で学ばれていたのですか?素晴らしいですわ」


美少女がうっとりした表情で俺を見る。


「君だっていたじゃないか。さっきまで大学で話してたじゃん。友達と講義に出てただろ?」


「私は、簡単な読み書きしかできません……賢者様のような知恵も知識も……」


悲しそうな顔をする美少女。からかってるのか?

いや、でも、この景色はなんだ? 俺はいったいどこにいるんだ?

美少女にあれこれ聞こうかと思って、やめた。どうせまたはぐらかされるに決まってる。

初対面の時からそうだった。いきなり変な部屋に連れていかれて、今じゃこんな得体のしれない所に飛ばされて。


きっと何かのトリックだ。催眠術……いや、ゲームの画面とか、仮想現実のたぐいかな。

受験勉強してたから最近のゲームは全く知らないけど、すごい進歩だな。

もう現実と全く区別がつかないぐらい画面がきれいになってるみたいだ。

いやいや、感心してる場合じゃない。早く現実の大学に戻らなきゃ。

次の時間の講義は絶対に抜けられないのだ。


「俺、大学に戻りたいんだけど。悪いけど、もうこのゲーム止めてくれる?」


「賢者様のおっしゃられる大学とは、どこにあるのですか?」


あくまでシラを切る彼女。ちょっと腹が立ってきた。


「知ってるだろ? 君が俺をこんな所に連れてきたんじゃないか! 早く戻してくれよ!」


「あ、あの……確かに賢者様をここまでお連れしたのは私ですが、大学のことは……」


「芝居はやめてくれ! もうバレてるぞ、ゲームだって!」


適当に歩き出してみる。草を踏み分ける感覚もリアルそのものだ。


「歩いてれば壁に当たるのか? どっちに行けば画面外に出るんだ?」


「あ、賢者様! そちらは先ほど私たちが来た道ですよ!」


美少女が慌てて呼び止める。

ということは、こっちが出口だな。そうに違いない。


「賢者様! ペリュッカ討伐はどうなされるのですか! 私一人では……」


「ゲームしたいんならほかの奴を誘ってくれよ」


なにがペリュッカだよ。そんな奴、聞いたこともない。ボスかなんかだろうけどさ。

俺は美少女が必死に呼び止めるのも聞かず、草をかき分けながら進んでいく。


……ほんとにリアルだな。


「待ってくださいっ!!」


突然、後ろから抱きつかれた。美少女は必死になって俺を止めようとしている。


「…………」


これは男のサガなのか、彼女の柔らかい服と体の感触を背中に感じ、俺はピタッと立ち止まってしまった。もう少し、この感触を味わっていたい。俺の本能が俺の理性に訴えかける。


「お願いしますっ!! 賢者様だけが頼りなのですっ!!」


女の子に頼られるのは初めてだ。しかもこんなかわいい子に頼られたとあっちゃ、悪い気がしないわけがない。ちょっとだけでも話を聞いてみるか。数分だけでも。

この体勢のままで。


「君さ、名前なんだっけ」


そう。俺はこの子の名前を知らないんだった。せっかくだから名前を知ってお近づきになっておこうか。


「え? 名前……ですか?」


美少女は不思議そうな顔をして俺から離れる。

しまった……質問ミスだ。もうちょっと「帰る」とかなんとか言って、ごねるんだった。

そうすりゃ彼女は体を張って必死に俺を止めたろうに。


「私……メアメアですが……」


「いや、ゲーム内の名前じゃなくて、本名を知りたいんだ」


「これが本名です。賢者様に対し、偽名など使いません。決して!」


少しムッとするメアメア。

まさかほんとに本名とか? いや、ゲームのキャラ名だろ、どう考えても。


「まあいいや、メアメアさん。俺たち、誰かを倒しに行くって言ってたけど……」


「ペリュッカです。恐ろしい異世界の力を操り、私たちの国の平和を脅かす、大魔導士」


「そいつ、すごく強そうだけど。俺に倒せるの?」


「はい! 賢者様なら必ずや!」


またもやウットリとした表情で俺を見つめるメアメア。

オープニング部分をすっ飛ばしているので、俺にはこのゲームのストーリーが皆目見当つかない。


よくあるストーリーだと、俺はレベルを上げていろんな敵を倒し、装備を整え、困難に打ち勝ってボスをしとめるはずだが。

このゲームはどうなってるんだろう。俺は自分の服装を確認してみた。


大学で着てたのとまったく同じ。普段着だ。

これはどう考えればいいんだ? ゲームもまだ序盤なのか、それともこのゲームには防具という概念がないのか。


……あれ、待てよ。なんか持ってるな。

ズボンのポケットの中に何かが入っているのに気づいて、取り出してみると。


小さな扇風機が入っていた。携帯型の小型扇風機だ。

最近芝生が熱くなってきたので、これで涼もうかと思って買ったけど、効果はイマイチだった。


要するに、このゲームでは現実世界で持っていたものがそのままアイテムになるということらしい。

かなり自由度の高いゲームだ。攻略方法は人により千差万別だな。


「俺、こんなものしか持ってないから。ペリュッカ討伐はすぐには無理かなあ」


俺はメアメアに扇風機を向け、スイッチを入れた。ものすごく弱々しい風がメアメアのほほを撫でる。


「!!!」


メアメアが驚愕して後ろに飛びのく。


「な、なに? どうした?」


そこまで驚かれると、俺まで驚いてしまう。


「賢者様は風を操られるのですね!! やはりペリュッカを倒せるのは賢者様だけです!!」


「いや、こんなのでどうやって」


「ペリュッカは風を避けると聞いたことがあります。きっと賢者様の術に恐れをなしているのですわ!」


この小型扇風機のせいで、どうやら俺は風属性という扱いになったらしい。


「でも、これじゃあいつを倒すのは無理さ。そうだ、もっと強力な武器持ってくるから。今日の所はこれで引き揚げよう」


俺は適当なウソをついてメアメアを説得しようとする。


「……そうなのですか。けれど、最後の街を出てからもう3日です。次の街まで行かれてはいかがかと」


「え? そんなに歩いてることになってるの?」


「はい……貧乏な私には馬車もなく……申し訳ありません」


「うーん……君さ、魔法とか使えないの? 近くの街までひとっとび、みたいなやつ」


「魔法? いえ、魔術を使えるのは大魔導士だけです。私にはとても」


「え? このゲームの魔法って、そんなにハードル高いの?」


けっっこうシビアなゲームなのかもしれない。できる限り現実世界に似せようとしてるのかも。

いや、待てよ。俺は賢者と呼ばれてる。もしかして俺、魔法を使えるんじゃないか?


「俺は魔法を使えるんだっけ?」


「使われるのですか?」


ワクワクした表情を見せるメアメア。


「いや、俺が聞いてるんだけど」


「試してみられてはいかがでしょう?」


「……そうだな」


もちろん現実世界で魔法なんか使ったことはない。一生懸命考えてみても、呪文なんか何も出てきやしない。

ゲーム内だから、何か頭に浮かんでくるような仕組みがあるかと思ったけど、そんなものはなかった。


「いかがですか? 魔法をお使いになれそうですか?」


メアメアは相変わらず俺に期待をしている。

こんなにかわいい子に期待されたら、何かせずにはいられない。


「うーむ……サインコサインタンジェント……サインコサインタンジェント……」


こないだ聞いたような気がする講義内容の一部を適当に唱えてみる。


「す、すごいです! 賢者様!」


素直に感動した様子を見せるメアメア。この子、ゲーム内ではキャラに徹する主義なのか?

俺はぶつぶつと適当に数学用語を唱え、最後に。


「きえーい! アークタンジェント!」


自分でもバカっぽいとは思ったけど、キメ台詞みたいな感じで叫んでみた。


その瞬間。


「あーっ!! 賢者様!!」


メアメアの姿が蜃気楼のようにぼんやりとしはじめ、ユラユラ揺れだした。


「お、なんか起きるぞ」


俺はメアメアに手を振ってみる。余裕の表情の俺とは逆に、かなり焦っている表情のメアメア。


「置いていかないでください! 賢者様ぁぁぁーー!!」


どんどん景色が薄くなる。あたりが暗くなっていく。

そして、同時に、眠くなる……。


~~

芝生に寝ている。俺は目を開けた。


「どこだ! まだゲームか?」


がばっと起きてあたりを見回すと、そこは。


大学だ。戻ってきた。ほっと胸をなでおろす。

ゆっくりと起き上がって、時間を確かめる。昼休みが終わりかけていた。


「ありゃ、寝すぎたぞ」


次の講義に出るために、俺はキャンパス内を走りだした。


「……あれ?」


走り出して気づく。

小型扇風機がなくなっていた。

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