1人の冒険者
1人の冒険者の独り言です。
「はあー……今日の薬草採取やっと終わったー」
今日も朝5時日が昇る前にギルドに行き、新人とベテランにもみくちゃになりながら、1人でできる薬草採取クエストを受付に持っていき、街の外東側から北側のオリース丘とミフェー草原で採取する薬草を小走りで探しまくること約7時間、ようやくクエストの採取量の薬草を集めきって街に帰る途中だ。
「ふうー、この街でのギルドの仕事は薬草採取だけだけど、新人からベテランまで難易度の違うランクの仕事が毎日有るうえにベテランの仕事以外ではモンスターとの遭遇や戦闘がほぼないから楽だし、死亡率が他のギルドより低いからこの街に来て皆と冒険者を始めたってのに…………」
手をマッサージしながら、かつてのパーティーメンバーの事を思い出す。視線は空を向いても転びはしない。準3級の冒険者だしな。
「…………あいつ、中堅になった途端「俺達は経験を積んだ。ここじゃなく、カザーノーンシティやメーモモールの街のギルドにいる奴らみたく、モンスターを倒しまくってそれだけでお金が稼げる2級の冒険者目指してザトア街に行こう!!」って熱血漢丸出しで言うんだもんなー。」
首を揉みながら街道を歩く俺、しかも独り言。…………ちょっと前は6人いたから誰かが2言喋れば他の誰かが何か言うんだけどなー………今や俺1人。
「他の4人と一緒にザットを説得しようとしたけど結局2日でサーニャもサリーもビクトルもウィニィアもザットの熱意に押されて一緒に行っちまったからなー」
俺は1人愚痴りながら林と草と石コロしかない道を歩く。
「でも分かってんのかよ………俺達の村は俺らが生まれてた後、6回もモンスターの群れに襲われたんだそ。しかも4回目は準一級、6回目は特準三級のモンスターが来やがったんだぞ。」
魔族の始祖の一体が封印から解放されかかってるせいで、ここ50年魔物の発生率や遭遇率がどの場所でも一割から三割増してる。うちの村にも1回目から3回目、5回目はゴブリン、ビックラット、コボルトの群れが襲ってきた。
その時は村の防壁と国から支給されたマジックアイテムのシールド型ゴーレム持った木こりや狩人のおっちゃん達が防いでくれてる間に緊急用昇光石を使って街のギルドに連絡、すぐに来てくれた3~4級の冒険者パーティー4~5組の人達がモンスター退治してくれて、村人に死人は出なくてすんだ………………。
…………けど準一級のデビルナイト、奴が村を襲った時は村は半壊、近くを別のクエストの為に移動中の準二級のパーティー2組が倒してなかったら、ゴーレムシールド持った村のおっちゃん達8人の死亡と12人の大ケガじゃすまなかった…………。
とそこで俺は6回目に現れた、いや通り過ぎただけの特準三級のモンスターを思い出して寒けと震えを感じた。
奴は……………………マテリアルクラウド、その幼生体はただ昼頃、西の雲の中から地上スレスレを飛行していっただけ、ただそれだけで、数千のアクアランス、とぐろやジグザグに動くサンダーウィップ、大人より大きいファイアーボール、民家を切り裂くウインドカッターに民家を押し潰すウインドマッシャー、それらが奴が2分間通り過ぎるまで豪雨のように降り注ぎ、村は壊滅、死者70名負傷者者66名の災害を起こしていった。
「奴のせいでサーニャとサリーのおばさんと弟、ビクトルの親御さん、ウィニィアのじいちゃんばあちゃんも死んじまったし、俺の母ちゃんと父ちゃん二人共ケガでしばらく仕事と家事が出来なくなったからなー」
だから俺達6人は9才で冒険者登録して金稼ぎを始めた。準7~8級は楽な仕事限定だから、俺達みたいなガキや鍛えてない主婦の人も多く小銭稼ぎの為に登録してる。
そして俺達は毎日ほとんど休まず安全な仕事をしていってその報酬を実家や村のために使ってもらった。毎日朝方~夕方には物資搬送の為のマジック馬車が走ってるから、朝早く村から街に行くことができて、夕方には村に帰れたから9才のガキでも仕事が出来た。
それに7級からは安全に取れて儲けが少し出る薬草採取のクエストも受けれるからそのクエストを中心にやって、他の冒険者が6級以上の採取方法や採取場所の発見が難しい薬草の取り方を盗み見して(皆ベテランのやり方を盗み見して覚える。教えてはくれない)難しいクエストをこなし、3年かけて準4級に昇格した。
その後一年と半年の時間をかけてギルドの格安戦闘訓練コースを受講して最終訓練まで受講した。………………普通は3ヶ月で受講は終了するんだけど、俺達のお金は村の為に使ってたから、満額用意できなかったから、十分の一ずつかき集めたお金で10回に分けて受講した。ギルドもそういう貧乏人には色々対応してくれる。…………借金や後払いは一切認めないけどな…………。戦闘訓練コースは朝から晩までトレーニングと基礎知識の詰め込みがあるから夕方村に帰る俺達は、受講中あんまりクエストが受けれなった。だから短期に受講する前と後はいつもよりクエストをこなさないといけなかった。これも受講期間が長引いた理由、俺達は村の稼ぎ第一で働いてるからな。
金がない最初は採取用の道具や最低限の防具、装備品は村の共有の物を使い、村にないのは金を貯めて中古品を安く買って使ってた。
それでも受講終了後からの半年で少し体が大きくなった俺達はそこから頑張ったお陰で四級の冒険者になった。そのおかげでさらに高く売買される薬草の採取クエストを受けれて、村の借金は減り、村の生活は大分安定した。
四級になってから2ヶ月後にはミリー川の水草採取クエストや草ウサギを狩ったりして実績を増やしてギルドから準三級に昇格した時、ザットが他の街や都市に行ってもっと強くなろうと言い出した。
「準三級に昇格した途端この地区の外に行こうってなー……………俺達は村の稼ぎの為にクエストこなしてたけど、やっぱり花の一級冒険者に憧れちまうか~。」
確かに強くなるなら若い内に強くなった方がいい、準二級のポーション用の材料の薬草採取やモンスター討伐は一定以上の実力と技能が必要になる。その分受け取れる報酬も三級までの報酬の6倍以上、それにギルド公認の冒険者は準二級以上、三級以下はどんなにクエスト成功率が高くても通い詰めのギルドで顔を覚えてもらうだけ、ギルド特典ーーランクにもよるが、ギルドの定めた宿屋の無料宿泊、各種厚遇、それにギルドが提供するマジック冷凍室やマジック保管庫を格安で利用できる。後ギルドお抱えの飲食店や販売店での格安利用、そのほかランクが上な者程破格の扱いになる。そりゃあ上を目指すのはほとんどの人達にとって当たり前だ。
それに都市や重要な街に攻めてきた魔物を討伐すれば国から地位が貰える、さらに準二級以上なら特一級~二級の魔物の討伐許可が降りていて、もし特準三級を倒せば1人につき40年都市で働かずに暮らせるお金が手には入る……特一級なら討伐した国で特権階級入り、しかも死ぬまで大商人のような豪華な生活が確定する。
「でもな」
空を見上げて深呼吸一回
「三級以上のクエストはどんな種類でもクエスト死亡率40%以上、生き残ってもケガで二度と歩けねえ体になることもザラ、運がよけりゃ今までの功績を鑑みギルド病院で一生世話になる、悪けりゃこじきだぜ。村のために50才まで頑張りたい俺はモンスター遭遇率の低さナンバー3のミウェット地区からはでたくねっつーの。」
だから俺は残り、あいつらはよその都市へ行った。
「まああいつらの言う通り、二級まで腕を上げてそれ以上は無理そうだったら三級から準二級の単体の魔物を狩るクエストを中心に20年続けて小金持ちになって村に帰り、そのお金で村を支えつつ、村で暮らしながら準三級や四級の仕事をして生計をたてつつ村を支えようってのも分かる話だし、そういう中堅パーティーが各国何処にでもいるのも知ってるけどさぁ……………………」
腰を叩きながら歩きつつ、1人喋れる俺。…………変人じゃないぞ。
「準二級のモンスターは早いペースで二級になる、クエスト中に二級に進化なんてザラだ。それに三級以上のクエストはクエスト内容以外の厄介事が幾つもある。そんなクエストを幾つも受けてたら……いつか俺達の誰かが死ぬかもしれねえ、単体のモンスターを6人で囲んでてもだ。」
「そしたら…………村の奴も悲しむだろうが」
「そして今別の場所でモンスター討伐してるお前らが死んだら………………俺がすげぇ悲しくなるだろ」
下を向いて深呼吸を一回、首を揉みながら俺は今日の採取した分の薬草を持ってギルドへと歩く。この先何十年もずっと。ずっと。
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