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◆第八十話『裏側の真実』

「アキくん、久しぶりだね」


 将大と話している最中、後ろから詩織の元気な声が聞こえてきて、僕は改めて安心した。


「詩織ちゃん、元気そうで良か──」

「詩織! 本当に元気になったんだな!」


 将大の言葉を遮り大きな声で話し掛けた僕の口を、詩織が慌てて抑える。


「声大きいよアキ君……」


 僕ははっとして周りを見回す。

 だがさして周りが気にしているようには見えない。

 杞憂だったようで、僕は深く安堵した。


「記憶喪失になった事は、ミスティック・リアの人達が隠してくれてるんだよ?」


 耳元でひそひそと話し掛けてくる詩織。耳にあたる吐息が、ちょっとだけこそばゆい。


「でもそんなことより、なんで将大君がうちの高校に居るの?」


 僕と一緒にいる将大の姿を見て、詩織は不思議そうな顔で話し掛けてきた。

 確かに将大が転校してきたのは昨日だ。疑問に思うのも当然だろう。

 本当の事情を大きな声で話すわけにもいかないので、僕は小声で詩織に伝えた。


「これから幻想戦争が加速していくらしいんだ。戦うなら一人より二人で、二人より三人で、三人より四人で。そんなわけで、出来る限り仲間とは離れない方が良い、ということらしい」

「そういうことだったんだね……」


 詩織は昔から物分かりがよくて助かる。


「ところで、ちょっと話したい事があるから、場所を移したいんだけど、いいかな?」


 *


 詩織の呼び掛けで、僕達は教室から屋上への階段の踊り場へと移動してきた。


「……それで? わざわざ移動してきたってことは幻想戦争に関係のある話なんだろ?」

「そう、そうなの」


 詩織は神妙な面持ちで話し始める。


「私ね、幻想戦争に関する記憶を取り戻してからも、なかなか気を失うまでのことが思い出せなかったの。だけど今朝になって、ふと思い出したんだ。私が死んだと勘違いした竜人が、こう言っていたの──」


 息を呑む。わざわざそれを急ぎで伝えようとしているということは、重要な話なんだろう。


「──『これでルシフェル様の脅威となる人間を粛清することが出来た。やがて我らが父はこの世界の表に君臨し、全ての人間を従えるだろう』って」


 将大と顔を見合わせる。

 前半部分が引っ掛かった。


「ルシフェルがこの世界に転移してこようとしてるのは知ってたけどよ、つまり詩織ちゃんがルシフェルを倒す鍵になるってことか?」


 腕を組んで考え込む詩織。

 窓から冷たい風が吹き込んでくる。


「わからない。けど、話を聞く限りそうなるよね」


 詩織の魔法は基本的に結界魔法で、とてもじゃないが積極的に戦えるような能力ではない。

 自力で攻撃さえ出来ない彼女の魔法が、どうルシフェルにとって有利に働くのかはよくわからなかった。


「仮に生き残っても、記憶を失っているから戦闘不能に近い状態、という寸法か。よくもまぁそんな汚いことを」


 うんうん、と頷く将大。


「やっぱり勝負は正々堂々とやらないとな。不純な要素は戦いには不要だ」


 恐らく戦いに関する彼なりの哲学があるのだろう。

 尤も、哲学という言葉を持ち出すと嫌がるだろうが。


「……とりあえずミスティック・リアに報告しようよ。これが本当なら大きな一歩になるかもしれない……って、これが本当ならっていうのは私が言う言葉でも無かったね……」


 久しぶりに詩織の天然な部分を見て、僕は思わず吹き出してしまった。

 詩織と将大も釣られて笑いだす。


 ひとしきり笑うと、僕は次のアクションの言葉を繋いだ。


「帰る時に守護天使たちとも話してみよう、学校じゃ不審がられるから」


 僕らはお互いの顔を見合わせ頷いた。


 *


「なるほど、そういう意図があったのね」


 リリスが僕の話を聞いて感想を述べる。


「でもさ、シェマグリグの話を聞く限りだとこちらの世界に転移してくるのにこちらでは特別な儀式は必要ないんだろ? なんでルシフェルの場合はここまで大掛かりな準備をしているんだ?」

「ああ、そこね。そういえば言ってなかったわね」


 どうやら元から知っていたらしい。聞かれなきゃ答えないのか。


「ルシフェルはこちらの世界に『肉体』単位で転移してこようとしているの。肉体っていうのはね、霊体と比較して情報量に莫大な差があるのよ。時に取り残された世界はいわば幽界のようなもの。肉体が転移してくる必要が無いから、それだけ行う儀式を省略できるのよ」

「なるほど」


 うんうん、と頷く僕。リリスは僕の知的好奇心を満たしてくれるのでそういうところは好きだ。


「でも、詩織ちゃんがルシフェルの脅威になるとはねえ。これから凄い力でも芽生えるのかもしれないわね」

「そんな、そんなことはないよ」


 詩織は謙遜する。事実、彼女の力がどうルシフェル対峙に役立つのかはよく分からない。


「いいえ、詩織はきっとやってくれます。私は詩織の力を信じています」

「もう、恥ずかしいからやめてよテレサ」


 少しだけ耳が赤くなっているのが分かる。

 そんな彼女のことを僕は少しだけ可愛いと思った。


「でも、そんな沢山の竜人を従えられるってことは、ルシフェル自体も相当な強さの筈だよな。一体どんな能力なんだろうな」


 将大は本当にこういう話題が好きだなと思った。

 流石に幻想戦争をゲーム扱いしてるとは思わないが。


「たぶん、『光』に関する能力でしょうね。ルシフェルっていうのは、『光をもたらす者』って意味だから」

「へー、さすがリリスさんだな」

「あらー、褒めても何も出ないわよ? 今度天界から美味しい物持ってくるわね」

「いや分かりやすいご褒美出てるけど!?」


 文先輩のツッコミにクスクスとリリスは笑う。


 ──そんな談笑をしながら、下校していた僕ら。

 ミスティック・リアに着いた途端、ある驚くべき事実を知ることになるとも思わずに。

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