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◇幕間劇十『親愛なるあなた達へ』(麻夜視点)

 思えば、あなた達に出逢ってから色々な事がありました。


 最初、あなた達に出逢いたてだった当初は、あなた達は私の事をあまりよく思っていませんでしたね。

 知らないフリをしていましたが、私は気付いていました。


 あの時は、私はミスティック・リアの駒としてしか自分の存在価値を見出すことが出来ませんでした。

 そして、人の気持ちがわからなかった。


 結局あなた達は私が竜人に対して拷問を行っていたことを知って、一度はミスティック・リアを出ていってしまいましたね。

 ……あなた達が私の事を嫌っていても、私はあなた達のことを嫌いになれませんでした。

 だから私は、あなた達に手紙をしたため、個人的に協力することにしたのです。


 何故嫌いになれなかったのか、今ではわかります。

 私は自分の抱えている辛い過去を理由にして、そして、自分が駒として使われている事も理由にして、()()()()()()()()()()()をやめてしまっていた。

 だけどあなた達はどんな辛い環境でも、“自分なりの正義”を貫いていた。

 きっと私は、あなた達のことを心のどこかで尊敬していたのです。


 やがてあなた達は私が行っていた拷問を止める手段を持ち込み、二度と拷問を行わないことを目的としてミスティック・リアに戻ってきました。

 そしてあなた達は……やがて私を仲間として迎え入れてくれた。

 私の罪を(ゆる)し、私を受け入れてくれた。

 ああ、なんて優しい人達なのだろう……私はそう思いました。


 思えば、未来(みく)を救う為に魔法士になる決意をしてから、私はずっと孤独を貫いていました。

 その方が決意が揺るがないだろう……そう考えているようで、実の所、また友人を喪うのが怖かったのかもしれません。

 それでも私は、あなた達の仲間になることを選びました。


 失望されるかもしれませんが、正直なことを言います。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()

 そう思ったからこそ、あなた達の仲間になることを選んだのです。


 そして、共闘することを通して、あなた達と絆を深めていきました。

 死と隣合わせの状況を共有することで、私は轟速で絆を深められたのではないかと感じています。

 ……今では分かりますが、これはあまり表に出すことでもありませんね。


 私には、もう十分です。

 もう、私は十分な思い出を得ました。

 だから、私は旅に出ようと思います。

 ──それは、一度行ったら帰って来れるか分からない異世界への旅。

 でも、私はきっと戻ってきます。

 あなた達に、かつての私と同じような気持ちを味わって欲しくはないから。

 そして何より、あなた達と一緒に居たいから。


 それでは、また会いましょう。

 さようなら。


 *


 私はペンを置いた。

 これまで隠していた、自分の心の一番柔らかい部分を曝した。

 彼らと出会う前の私だったら、考えられない選択肢。


「……だからこそ、私は選ぶのです」


 そう、私は自己犠牲によってしか正義を選択出来ない。

 “正義”を教えてくれた彼らに、この身を以て尽くすまで。

 私がどうなっても、それでいい。

 それで彼らが悲しんだとしても、それでいい。

 もしかしたら、これは思いやりじゃなくて自己中心的な行動なのかもしれない。

 だけど私は……それで構わない。


「別れの準備は済んだか?」


 背後から人の言葉を喋る不気味な黒猫の声が響く。


「ええ、この手紙を残しておけば、私はそれで十分です」


 黒猫は、ふん、と鼻を鳴らして嘲る。


「詮索する気はないが、よほど気に入っていたようだな、奴らのことを」

「気に入っていたのでしょうか。もしかしたら友情を持つと同時に、嫉妬の感情も持っていたのかもしれないし、尊敬の感情も持っていたのかもしれません。私にとって彼らに向けるこれらの感情は等価です」


 私は遠くを見つめるように答える。黒猫は今度は大きく溜息をついてみせた。本当に可愛くない。


「相変わらず貴様の言う事は意味がわからん」


 彼とはミスティック・リアで何度も顔を合わせたので、そこそこ話すようにはなっていたけど、あまり仲良くはなれなかった。


「貴様とは同じ臭いを感じたから近付こうとしたが、貴様、根っからのひねくれ者の我とは対照的に、根が素直だからな……。奴らとウマが合うのもそのせいだろう」


 私は頭の上にクエスチョンマークを浮かべた。


「それは褒めているのですか?」

「別にそういうつもりはない」


 嘘だ。こいつは素知らぬ顔をして褒めるようなことを真顔で言ってくる奴だ。自分でも意識しているようだけど、こいつは根っからのひねくれ者だ。


「さて、あまり長話をすると、魔術に最適な時間帯を過ぎてしまうからな。魔術の準備を始めよう」


 *


「流石だな、ミスティック・リアで魔術の訓練を受けていただけあって魔法陣の作り方が完璧だ」

「それは褒めているのですか?」

「褒めている」


 予想外の返答に、私は思わず目を丸くした。


「最後くらいは、素直に答えてやる。帰ってこれるか分からない旅だ。一応……我なりの気遣いだ」


 似合わないことをするなと思って、私は思わず笑ってしまった。


「……二度とやらないからな」


 余計に笑える。


 私が一頻り(ひとしきり)笑い終えたあと、シェマグリグは「時間がない、始めるぞ」と言った。

 私は咳払いをして、呪文を唱え始める。


()は禁じられた扉、鍵なき扉。我が魂を鍵とし、我が名においてひとときの解放を──!」


 魔法陣が青白く光を放ち始める。


「──航路よ開け、力よ、大いなる旅路に最高の守護を与えたまえ!」


 私の愛しい仲間たち。

 きっと私は戻ってきます。

 それではどうか……お元気で。


 ()()()()()()()()


≪ 第五章 完 ≫

 ご愛読ありがとうございました。無事第五章を完走することが出来て、安堵しています。

 これから第六章のプロットを立てていくので、しばらく更新をお休み致します。

 ごゆるりとお待ち頂ければ幸いです。

 それでは、またいつか。


 小鳥遊賢斗


P.S. 冬休み中にプロット完成させて来年から更新再開します。決してエタりません。(2020/12/25)

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