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◆第七十五話『飛躍と牢獄Ⅱ』

 画して、作戦は実行へ移された。


「くっ……!」


 依然として肉弾戦は続いている。

 そんな最中(さなか)、表面的には麻夜さんの体力が最早持たなくなってきているように見える。

 が、実のところ麻夜さんはまだ体力に余裕がある。これは演技だ。

 演技については叩き込まれているのか、冷や汗さえ再現している。

 やはり彼女にこの役を任せたのは正解だった。


 さて、彼女にはある場所で待ち伏せをして貰う必要がある。

 だから将大より先に戦線を離脱して貰った。


「さて、一人減ったようだね。彼女は後で処理する事にしよう」


 一方で、将大に演技をさせるのは難しい注文だ。

 だから将大には……何も話させないことにした。


 将大は麻夜さんが消えた数秒後、空中跳躍(スペースキッカー)との睨み合いを経て……彼は突如として戦線を離脱した。


 作戦では全速力で走るように要求している。

 初手の距離の詰め方からして、将大に全力を出させないととてもじゃないと逃げきれそうにないからだ。

 真の狙いは離脱することではないが。


「敵前逃亡とは……見損ないましたよ。だけど、ここで逃げられるわけにはいかないのでね」


 地面を蹴り飛ばし、絶妙な角度に体を傾けてバランスを保ちつつ、とんでもないスピードで駆けている。

 まずい、これで将大が捕まれば作戦が成り立たない。


「へへ、ミスティック・リアの訓練は無駄にはならないぜ! 筋肉加速マッスル・アクセラレート!」


 突如として将大の走るスピードが2倍程度になった。

 そうか、知らない間に将大は新しい能力を発現させていたんだ。

 しかし……。


「それでも距離が縮まってる。竜人の平均的な身体能力はやっぱり人間よりずっと高いんだ……」


 さて、どうする? どうすれば将大は逃げ切ることが出来る? 


「章、将大に遠隔操作(リモートコントロール)を使いましょう」

「将大に……? そうか……!」


 僕は空中散歩(スカイハイク)で空中から将大たちを俯瞰しながら移動している。

 魔法で移動しているため、魔力は消費しても、体力的には余裕を保てる。

 だから僕には、()()()を試す事が出来た。

 僕は将大にテレパシーで心の内を語り掛ける。


(今から将大の身体を魔法で動かす、準備はいいか?)

(…………! なるほどな! いつだっていいぜ……!)


 僕は一応敵に悟られないように、自動術式(オートパイロット)遠隔操作(リモートコントロール)を発動させた。

 何故遠隔操作(リモートコントロール)自動術式(オートパイロット)を習得しているかと言うと、ミスティック・リアで訓練したからだ。

 僕だって遊んでいたわけではない。


 一瞬こけそうになった将大だったが、やがて持ち前の運動神経で体勢を立て直し、距離を詰められない程度の速さで駆けることに成功した。

 将大のバランス感覚も然ることながら、僕の方でも将大の身体が動く範囲で魔法を制御する必要がある。

 息が合っているのは、これまで苦楽を共にしてきたせいだろうか。


 僕は将大にテレパシーでナビゲートしながら、魔法でその身体を制御する。


 この作戦では空中跳躍(スペースキッカー)を撒こうとして失敗した体に見せることが肝になる。

 要するに、一度逃げて体力を回復させる目的だと錯覚させるのだ。

 それは常に上から二人を俯瞰し、将大のスピードを制御しているに等しい僕にとっては難しいことではなかった。


 結果、やがて目的地に着き中に入る頃には、ある程度空中跳躍(スペースキッカー)を撒くことに成功していた。

 ……それも、時間の問題ではあるのだが。


「これで良かったのか、アッキー」


 将大の声が廃工場の中に反響する。


(よせ、まだ声を出すな)

(悪かった)


 裏から、待機していた麻夜さんが現れ、将大に囁きかける。


(こちらです)


 僕は後を麻夜さんに任せ、廃工場の外で待機する。

 しばらくすると、工場の前に空中跳躍(スペースキッカー)が現れた。


「私には生まれつきある程度気配を察知することが出来てね。ここで体制を立て直すつもりだったようですが、残念でしたね。あなたたちは、袋の鼠ですよ」


 機械の裏から、麻夜さんが現れ、続いて将大が現れる。()()()()()()()()()()()()()()()()()


「……何のつもりです?」

「我が血潮は心臓を巡り、全身を巡り、脳髄を巡れり!」

「なんだと!」


 空中跳躍(スペースキッカー)が目に見えて動揺する。


「仲間を見捨てるというのか!?」

「満たされよ器、満たされよ霊魂、満たされよ気魂(きこん)

「馬鹿な! 気でも触れたか!?」

「大地に巣食う精霊どもよ、生の力を(うぬ)らに与う。与えし活力を以って我が脅威を圧倒せよ!」

「くっ……!」


 麻夜さんが誘導したのは、周りを機械に囲まれている、とてもではないがすぐに脱出することの出来ない地点。

 それまで油断していた空中跳躍(スペースキッカー)はなんとか外に脱出しようとするも、あちこちに身体をぶつけ、その度に動きが鈍くなっている。

 そして発動する直前、麻夜さんと将大は、悠々と瞬間移動(テレポーテーション)で工場の外へと移動した。


「焼き尽さん、火炎の右手ストリーミングフレイム!」


 特有の重低音を出しながら、烈火の炎は工場全体を焼き尽くしていく。

 完全詠唱とはいえ、自分でも驚くほどの威力だった。

 いつの間にかこんな最大出力が出せるようになっていたのか……。


戦闘終了(ノシュカー・ドゥネ)


 リリスが呪文を唱え、世界が色を取り戻し始める。

 こうして僕らは勝利し、無事元の世界へ帰還した。

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