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◆第七十一話『懸念と事象』

 僕たちはその日の午前の訓練を終え、中庭で昼食を摂っていた。


「麻夜さん、大丈夫かな……」


 将大がふと麻夜さんのことを話題に出した。

 無理もない。あれだけ弱っている彼女を僕らはあの時初めて目にしたのだ。


「あら、やっぱり気になるの?」


 文先輩が茶化し気味に将大に言葉を返す。


「確かにそれもあるけど、俺は真面目に言ってんだ。文さんは麻夜さんのこと心配してないのか?」


 彼女は将大の言葉を聞いてやや悪びれる表情をした。


「確かに私もあの人のあんな姿初めて見たから、心配してないって言えば確かに嘘になるけど……」


 彼女も、将大も詩織も。はたまた僕も、()()()()()()()()()()に違いは無いのだ。

 何しろ、正義感の強く、叶えたい願いがある人の元にしか魔法士になる権利は与えられないのだから。


「俺も麻夜さんのあんな姿見たの初めてだよ。ああいう一面もあるんだな」

「他の一面も見てみたいんじゃないの?」

「抜かせ。そういう話じゃないんだよ」


 文先輩が時を移さずニヤニヤし始めたことに、将大は少々怒り気味だ。


「文。もう少し空気を読んだ方が良い」


 将大の様子を見かねてレシムさんが叱りに入る。文先輩は、「ごめんなさい」と即座に謝り、場は落ち着きを取り戻した。


「でも、麻夜さんっていわゆる『鉄壁のベール』みたいなの纏ってるわよね。誰も寄せ付けないというか」

「あややんには無理だね~☆」

「その口縫って欲しいの?」


 文さんが凄みを利かせた顔でレンを睨み付ける。


「こわ~い☆」


 こっちは相変わらず通常運転だなと何故か安心してしまう。


「『鉄壁のベール』ねえ……。あまり持ってて得するようなものじゃないと思うわよ」


 リリスが話に参加し始めた。


「そういうものに憧れる人は少なからず居るかもしれないけれど、本人が望んでやってるわけじゃないこともあるわ。それにそんなベールを被ることは人に避けられるってことの裏返しでもあるから。案外内心孤独を感じてるかもしれないわよ」

「なんか妙に現実味のある話をするな……?」

「かつての私が、そうだったから」


 ……場の空気がどっしりと、重くなる。

 麻夜さんはそんな苦悩を感じていたのだろうか……?

 だとしたら、僕らのさっきまでの会話は無神経だったんじゃないか?


「……でも今は、テレサが居て、章が居て、みんなが居る。心強い仲間だと思ってるわ。もしかしたら麻夜さんも私と同じで、あなた達の存在に救われてる一面もあるかもしれないわよ。だから過度に気にする必要は無いと思うの。むしろ腫れ物に触れるような態度を取ったら逆に傷つけるかもしれないわよ?」


 それもそうかとも思ったが、なし崩し的に麻夜さんの話題はここで打ち切りになった。


 *


 訓練を終え家に帰る途中、突然麻夜さんから例の携帯に電話があった。


「もしもし? どうしました?」

「次の犠牲者が出ました!」

「……なんだって!?」


 僕は麻夜さんに詳しい場所を聞き、このことをリリスに伝えると、現場に直行した。


 *


 僕らが現場に着くと、ちょうど警察が着く間際で、僕らは野次馬に混じって、現場をほぼ目の前で見ることが出来た。


「この家って……まさか……」


 僕はその家の住居人に心当たりがあった。

 ……そして『ソレ』を見た瞬間。

 …………僕は思わずその場で吐いてしまった。


「章! 章大丈夫!?」


 リリスは心配して背中をさすってくれている。

 しばらくして落ち着いてきたら、僕はなぜ自分が吐いてしまったのか、一番の理由を一言で告げた。


 死体を見るのが初めてだったからじゃない。

 現場の異様な光景にでもない。

 なんとその被害者は――


「クラスメイトなんだ……」


 そう。犠牲者はクラスメイトだった。

 その生々しさに加え、現場の惨状も相まって僕は思わず戻してしまったわけだ。


「なんですって!?」


 リリスは少しオーバー気味なリアクションを取る。

 いや、驚きの具合的にはこれくらいが普通なのかもしれないな。


「……ッ! もっと早く動き出すことが出来ていれば……!」


 彼女は歯ぎしりをして悔しがっていた。


「リリスのせいじゃないよ。誰のせいかは分からないけど、絶対リリスの責任じゃない」


 ふと空を仰ぐと、綺麗な三日月が空に浮かんでいた。

 ……まだ事は満ち始めたばかりだ。

 取り返しは付く。


 しばらくして文先輩が現場に到着した。

 その頃には野次馬が現場の近くに寄れないように警官が辺りを封鎖し終わっていた。


 リリスが一通りの話をすると、文先輩は僕に尋ねた。


「そのクラスメイトは、どんな子だったの?」

「…………。オカルトに興味がある奴で、僕とはたまに話したりしてました。ただある時から急におかしくなって、『黒魔術があれば、何でも叶うんだ』って言葉が口癖みたいになり始めました。僕はそれから距離を置くようになりましたが……こんなことになるとは」

「……決まりね。彼は悪魔崇拝に傾倒していたんだわ」

「でしょうね……」


 ……対価を払って、彼は死んでいったのだろう。

 ただで手に入ると言われるものほど、怖いものはないのだから……。

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